カスハラが多い業種|宿泊業・飲食サービス業の実態と対策を具体的に解説
自社の業種は、カスタマーハラスメント(カスハラ)が多いほうなのでしょうか。
2026年10月1日の義務化を前に、多くの経営者の方が気にされている点です。
結論を先にお伝えします。
宿泊業と飲食サービス業などの一般の消費者や利用者と直接やり取りする業種は、公的な調査で上位に入ります。
ただし、順位そのものよりも大事なことがあります。
それは、自社の現場に固有の「逃げ場のなさ」がどこにあるかを見極めることです。
同じ業種でも、対面の時間が長い施設と短い施設では、起きることが変わります。
本コラムでは、中小企業診断士として様々な企業のカスハラ対策を支援してきた立場から、カスハラの起き易い宿泊業と飲食サービス業で何が起きているのかを、公的な調査と業界団体の資料に沿ってお伝えします。
そのうえで、他の業種と比べたときの違いと、何から手をつけるかを順にご説明します。
カスハラが多い業種|宿泊業・飲食サービス業の実態と対策を具体的に解説
宿泊業・飲食サービス業は、企業に訊くと2番目に多い
まず、公的な調査の数字から見ていきます。
企業に訊くと、46.4%が相談を受けている
厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、従業員30人以上の企業を対象に、過去3年間に各ハラスメントの相談があったかを尋ねています。
有効回答は7,780件です。
顧客等からの著しい迷惑行為について相談があったと答えた企業は、全体で27.9%でした。
業種別では、「医療、福祉」が53.9%で最も多く、次いで「宿泊業、飲食サービス業」が46.4%、「不動産業、物品賃貸業」が43.4%と続きます。
宿泊業と飲食サービス業では、およそ2社に1社が、過去3年のうちに従業員から相談を受けている計算になります。
働く人に訊くと、16.0%が経験している
同じ調査では、20歳から64歳の労働者8,000人にも尋ねています。
こちらの質問は、過去3年間に自分が受けたかどうかです。
顧客等からの著しい迷惑行為を受けたと答えた人は、全体で10.8%でした。
業種別に見ると、「生活関連サービス業、娯楽業」が16.6%で最も高く、「卸売業、小売業」と「宿泊業、飲食サービス業」がともに16.0%で並びます。
働く人の6人に1人が、直接の被害を経験しているということになります。
同じ調査でも、訊く相手で順位が変わる
ここで気をつけたいのは、企業に訊いた場合と働く人に訊いた場合で、上位の顔ぶれが変わることです。
企業調査で1位だった「医療、福祉」は、労働者調査では上位3つに入っていません。
逆に労働者調査で1位の「生活関連サービス業、娯楽業」は、企業調査の上位3つに入っていません。
理由は、質問の対象が違うためです。
企業調査が数えているのは「相談が上がってきたかどうか」で、労働者調査が数えているのは「本人が受けたかどうか」になります。
相談しやすい職場ほど企業側の数字は上がり、相談しにくい職場では下がります。
つまり、企業側の数字が低い業種は、起きていないのではなく、上がってきていない可能性があります。
自社の相談件数が少ないときほど、この点を確かめる価値があります。
宿泊の現場で、実際に起きていること
ここからは、業界団体がまとめた具体的な行為を見ていきます。
一般社団法人日本旅館協会と全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会は、2026年6月に宿泊業界向けのカスタマーハラスメント防止対策マニュアルを公表しました。
会員企業から寄せられた、現場で確認された行為が挙げられています。
暴言、威嚇、人格の否定
マニュアルに挙げられている行為には、次のようなものがあります。
- チェックイン時間前の入室を求め、断ると「ふざけるな」「お前」と怒鳴る
- 泥酔した状態で「殺すぞ」などの暴言を吐く
- フロントで大声を出し、他の宿泊客の迷惑になっても止めず、「詐欺だ、警察を呼べ」と騒ぐ
- 駐車場の案内に不満を持ち、外国人の従業員へ差別的な発言をする
- 提供した飲食物の味が悪いとして、土下座して謝るよう強要する
いずれも、要求の内容というより、要求の伝え方が問題になる行為です。
同じ「部屋を早く使いたい」という要求でも、怒鳴るかどうかで扱いが変わります。
事実を確かめにくいことを使った、不当な要求
宿泊と飲食には、提供したものが後に残らないという特徴があります。
この点を使った以下のような要求も挙げられています。
- 禁煙ルームで喫煙し、清掃代の請求に対して「自分ではない」「誰かが入った」と虚偽の主張をする
- 提供した飲食物を食べた結果、体調が悪くなったとして、高額な賠償金を請求する
- 客室にあったはずの所有物がなくなったとして、多額の金銭による賠償を請求する
- 「部屋に虫が出た」ことを理由に、特別室の用意を要求する
- 「料理が価格に見合わない」と言って割引を要求する
料理は食べられ、客室は清掃されるため、後から事実を確かめようとしても、証拠が残っていません。
この構造が、要求を通しやすくしています。
口コミへの投稿を、交渉の材料に使う
宿泊業と飲食サービス業に固有なのが、口コミを盾にした要求です。
- 禁煙ルームの清掃費を請求すると、口コミサイトに「吸殻を捨てただけで請求された」と投稿される
- 事実と異なる内容を口コミサイトに投稿し、従業員を誹謗中傷する
- 「動画投稿サイトに上げる」「ネットで晒す」と脅す
予約サイトの評価が売上に直結するため、この要求は効果を持ってしまいます。
評価の低下を恐れて金銭で収めると、要求は次の来訪でも繰り返されます。
従業員個人への、つきまといと身体接触
従業員個人に向かう行為も報告されています。
丁寧な接客を好意と誤解され、毎日のように来訪してつきまとわれた事例や、正当な理由なく体を触られた事例です。
対面の時間が長く、同じ従業員が繰り返し接する業態では、相手が個人を特定しやすくなります。
ここは、他の業種と比べても備えが要る部分です。
他の業種と比べたときの、宿泊業・飲食サービス業の違い
同じカスハラでも、業種によって起きやすい形が変わります。
宿泊業界のマニュアルには、業界特有の事情として12項目が挙げられています。
ここでは、他の業種と比べたときに差が出る4つを取り上げます。
接する時間が長く、途中で切れない
小売業の店頭は、購入が終われば接点も終わります。
宿泊は違います。
チェックインから翌朝のチェックアウトまで、同じ施設の中に滞在が続きます。
マニュアルにも「顧客対応の場面と時間の長さ、関わる従業員の数が多いため、接遇を起因としたクレームが発生しやすい」と書かれています。
フロント、客室係、料飲、清掃と、接する従業員の数も多くなります。
一度不満が生まれると、接点が続く分だけ要求も続きます。
深夜や早朝は従業員の数が減り、1人で対応せざるを得ない時間帯も生まれます。
飲食でも、酒類の提供がある業態では、時間の経過とともに要求が激しくなる場面があります。
受け取る形が決まっていないサービスを売っている
マニュアルは「接客・接遇という、受け取る形が明確でないサービス価値提供によるクレームが発生しやすい」と指摘しています。
製造業であれば、図面や仕様書と実物を照らして判断できます。
宿泊や飲食では、何をもって約束どおりかを決める基準が、契約書の形で残っていません。
「思っていたのと違う」というだけで不満になり、不満への対応次第によっては、クレームやカスハラに発展してしまう場合もあります。
理不尽と思われるかもしれませんが、このような顧客の心理を従業員の側でコントロールすることには限界があります。
同じマニュアルには「利用者は非日常空間、特別感のある状況の中で、要求や期待が過大になりやすい」という項目もあります。
特別な時間を過ごすために来ている分、期待との差が不満に変わりやすいということです。
提供したものが残らないため、事実を確かめにくい
「提供した商品や設備、サービスなどが既に消費や提供されていた場合、事実確認が困難である」という項目も挙げられています。
先ほどの虚偽の主張や、高額な賠償の請求が通ってしまう背景がここにあります。
物が残る取引であれば、現品を確かめれば済みます。
しかし、宿泊や飲食では、その手段が無いことがほとんどです。
だからこそ、記録の取り方が他の業種より重い意味を持ちます。
清掃時の状態、客室の点検記録、注文の履歴などの記録が残っていれば、後からでも事実に基づいた対応が可能です。
予約の経路が多く、決めたルールが伝わりにくい
「予約経路(仲介業者)が多数あることから、ルールが浸透しにくい」という項目もあります。
自社サイトからの予約であれば、宿泊約款も注意事項も自社の責任で伝えられます。
しかし、仲介する予約サイトが増えて来ると、約款、注意事項、部屋などの紹介などの情報がどのように紹介されているか、全て覚えるのは困難になります。
その結果、キャンセルの条件、食事の有無、チェックイン・チェックアウトの時間といった基本的な条件を誤解されたまま来訪される場面が生まれます。
お客様の「聞いていない」という主張の一部は、こういった経緯から生じることもあります。
。
そのため、経路ごとに、何がどこまで表示されるのかを一度確かめておきましょう。
宿泊業には、断るための法的根拠がある
ここからは対策の解説です。
まず、宿泊業だけが持っている法的な根拠から説明します。
繰り返したときに、宿泊を拒める
旅館業法は、営業者が宿泊を拒んではならないと定めています。
ただし2023年12月13日に施行された改正で、拒める場合が追加されました。
同法第5条第1項第3号です。
この条文は、次のように書かれています。
> 宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。
ポイントは、3つです。
1つは、宿泊料の減額など、実現が容易でない事項の要求です。
2つ目は、粗野または乱暴な言動を交えた要求で、その人への接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるものです。
そして3つ目は、「繰り返したとき」が要件であることです。
除かれるものが、条文に書かれている
ここで見落とせないのが、省令に置かれた但書です。
1つ目の要求からは、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が定める社会的障壁の除去を求める場合が除かれています。
筆談を求める、客室への移動の介助を求めるといった申し出は、拒める要求に当たりません。
2つ目の言動からも、営業者が不当な差別的取扱いを行ったことに起因するものなどが除かれています。
例えば、こちらに落ち度があって相手が強い言い方になった場合などは、それを根拠に宿泊を拒絶することはできない可能性があります。
旅館業法は第5条第2項で、みだりに宿泊を拒むことがないようにすること、客観的な事実に基づいて判断すること、求めに応じて理由を丁寧に説明できるようにすることも定めていることに、注意をしましょう。
宿泊を拒んだときは、記録を3年間は保存する
宿泊を拒んだ場合、営業者には記録の義務があります。
旅館業法施行規則は、拒んだ理由等に関する記録を書面または電子的な記録として作成し、作成の日から3年間保存すると定めています。
この記録は、後から差別的な取扱いではなかったことを示す材料になります。
断る判断をした日時、対応した責任者、経緯を残しておきます。
2026年10月1日から、業種による猶予はない
改正された労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメントを防ぐための措置が、事業主の義務になります。
対象は、労働者を1人でも雇うすべての事業主
この義務に、業種による区分はなく、中小企業の猶予期間も設けられていません。
客室10室の旅館も、席数20の飲食店も、初日から対象となります。
指針は、2026年2月26日に告示されました。
事業主が講ずべき措置として、次の4つが柱になります。
- 事業主の方針等の明確化と、その周知・啓発
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 発生した事案への、事後の迅速かつ適切な対応
- 対応の実効性を確保するために必要なその他の措置
これらと併せて、相談者のプライバシーを保護すること、相談したことを理由に不利益な取扱いをしないことも求められます。
正当な申し入れは、カスハラに当たらない
指針には、もう1つ大事な記述があります。
顧客等からの苦情のすべてが該当するわけではない、という点です。
指針は「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない」と書いています。
料理に髪の毛が入っていた、予約した部屋と違う部屋に通されたといった申し出は、正当な指摘であり、正当な指摘をカスハラとして扱えば、企業が改善の機会を失うだけでなく、顧客の利益まで侵害されることになります。
分かれ目は、要求の内容と、要求の伝え方の2つです。
内容が妥当でも、伝え方が社会通念を超えれば該当します。
電話や交流サイトでの行為も、対象に入る
指針は、対面で行われるものだけでなく、電話や交流サイトなどインターネット上で行われるものも含むとしています。
そのため、予約の電話で怒鳴られた、口コミに従業員の実名を書かれた、といった場面も、事業主が備える対象となります。
宿泊業と飲食サービス業では、口コミへの投稿は集客に大きな影響を与えます。
そのため、それらの投稿がカスハラに含まれる可能性があることは、重要なポイントです。
自社が加害の側に回らないための備え
見落とされやすいのが、自社の従業員が取引先に対して行う場合です。
BtoCでは自社が被害者でも、BtoBでは加害者になっているといったことも起こり得ます。
宿泊業界のマニュアルは、業界特有の事情として「取引先企業(納入業者、パートナー企業、下請業者等)との関係の優劣から、無理難題な要求への対応に迫られるケースが多い」ことを挙げています。
繁忙期の発注が、無理な要求になっていないか
宿泊業では、繁忙期と閑散期の差が大きくなります。
急な団体の予約が入れば、食材の追加発注も、リネンの手配も、当日の連絡になりがちです。
こうした依頼が常態化すると、取引先の側では、断れない要求として積み上がります。
しかし、休日の連絡、納期の一方的な短縮、価格の据え置きの要請などはどれも、力関係を背景にした要求になり得ます。
指針でも、カスハラの行為者に当たる「顧客等」には取引の相手方が含まれます。
自社が受ける側だけでなく、行う側にもなり得るということです。
最低でも年に一度は、取引先に訊く機会を作る
自社の担当者の言動は、社内からは見えません。
年に一度でよいので、主要な取引先に「当社の担当者の言動で困っていることはないか」を尋ねる機会を作ると、見えていなかった部分が分かります。
無記名で答えられる形にすると、率直な回答が集まりやすくなります。
カスハラに該当するかどうかを、3つの角度で確認する
現場がいちばん迷うのは、目の前の相手がカスハラに該当するかどうかです。
宿泊業界のマニュアルは、判断の角度を3つに整理しています。
要求の伝え方を確認する
1つ目は、要求態様です。
侮辱的な暴言、差別的・性的な言動、暴力や脅迫を伴う苦情かどうかを見ます。
恐怖心を与えるような口調や大声、個人を攻撃する意図がある要求も含まれます。
従業員の顔を無断で撮影する行為や、その写真をインターネット上に公開する行為も、ここに入ります。
要求の中身を確認する
2つ目は、要求内容です。
不当な金品の要求、土下座での謝罪の要求、書面での謝罪の要求、従業員の解雇の要求が挙げられています。
金額の多寡ではありません。
契約や社会通念に照らして、応じる理由のない要求かどうかが分かれ目です。
時間と回数を確認する
3つ目は、時間・回数・頻度です。
大声をあげるなどの行為が長時間にわたるか、目安は30分とされています。
退去を命じたにもかかわらず居座り続けているか、対応できない要求が続いているか、業務時間外や対応が難しい時間帯の要求かも含まれます。
ここで大事な但書があります。
侮辱的・差別的・性的な言動については、時間の長さに関係なく判断するとされています。
30分を待つ必要はありません。
マニュアルは、この3つについて「絶対的な基準や目安ではなく、機械的な運用や判断とならないよう留意が必要です」とも書いています。
3つの角度で見たうえで、最後は人が判断するということです。
研修では、断り方より先に、受け止め方を教える
対策として研修を考えるとき、断る技術から入りがちです。
しかし、宿泊業界のマニュアルは、その前にやるべきことを丁寧に書いています。
クレームの全部がカスハラではない
マニュアルは、顧客対応の基本姿勢として「顧客等から寄せられるクレームの全てがカスタマーハラスメントではありません」と書いています。
商品やサービスの品質に関する指摘、接客態度への不満は、業務の改善や新しいサービスの開発につながる機会でもある、という位置づけです。
こちらの言動が、発端になることがある
また、同じ箇所に、「クレームに対する従業員の適切でない言動が端緒となって、カスタマーハラスメントを発生させている可能性もあります」とも書いています。
つまり、従業員・スタッフの最初の受け答えが、正当なクレームをカスタマーハラスメントに変えてしまう場面がある、ということです。
そのため当社では、カスハラ対策研修では、お客様の要求をお断りするよりもまず、適切に対応し、しっかりとお話しを聴くことをお勧めしています。
断る技術だけを最初に教えると、正当な指摘まで断る現場になるので、注意しましょう。
従業員が辞めていくことのほうが、損失は大きい
対策を後回しにする理由として、費用と手間が挙がります。
ただ、放置した場合の損失も見ておく必要があります。
離職率は、全産業の平均より高い
厚生労働省の令和5年「雇用動向調査」によると、宿泊業・飲食サービス業の離職率は26.6%でした。
全産業の平均は15.4%です。
もともと人の入れ替わりが多い業種で、カスハラを理由とした休職や退職が重なると、残った従業員の負担が増えます。
負担が増えればサービスの質が落ち、それが新たな不満を生みます。
相談が上がらない職場では、数字が小さく見える
先ほどの企業調査と労働者調査の差は、ここにも関係します。
相談しにくい職場では、企業側が把握する件数が小さくなります。
件数が少ないことを、起きていないことと読み替えないようにしましょう。
相談窓口を作った直後に件数が増えるのは、よくあることです。
増えたのは事案ではなく、見えるようになった範囲です。
対応した従業員のケアを、事後にしない
指針は、被害を受けた従業員への配慮を求めています。
具体的には、その顧客の担当から外す、複数名での対応に切り替える、専門家への相談につなぐといった措置です。
宿泊業界のマニュアルでも、従業員のケアを発生後の対応の最初に置いています。
声をかける相手をあらかじめ決めておくと、現場が動きやすくなります。
掲示の文面を、どこまで具体的に書くか
基本方針を掲示するとき、どこまで書くかで迷う場面があります。
宿泊業界のマニュアルには、文例の構成が示されています。
5つの節で組み立てる
文例は、次の構成になっています。
- はじめに(安全・安心なサービスを提供するため、要望に真摯に対応していること)
- 定義(従業員の就業環境を害する著しい迷惑行為であること)
- 従業員への対応(ケア、研修、相談窓口や警察・弁護士との連携)
- お客様への対応(該当すると判断した場合は対応を打ち切ること、悪質な場合は警察や弁護士と連携すること、録音・録画をする場合があること)
- お客様へのお願い(過度な要求や威圧的な言動はサービスの質を損なう原因になること)
定義の節には、カスハラに該当する行為の例も挙げておきましょう。
具体的には、暴力行為、暴言・侮辱・誹謗中傷、威嚇・脅迫、人格否定・差別的発言、土下座の要求、長時間の拘束(目安は30分)、社会通念上相当な範囲を超える対応の強要、合理性を欠く不当・過剰な要求、信用を毀損する内容や個人情報を交流サイトへ投稿する行為、従業員への性的な言動やつきまといです。
「お願い」で終える形にする
見落とされやすいのが、最後の節です。
文例は、お客様へのお願いとして「お客さまと従業員が互いに尊重し合い、安心できる環境を保つことが大切です」という趣旨で締めています。
禁止事項を並べて終わると、来訪した方の多くを疑っているように読めます。
大半のお客様は正当な利用者です。
方針は、その方々に向けた協力のお願いとして書くほうが、掲示の場所も選びやすくなります。
基本方針(ガイドライン)の作成については、以下のコラムで詳しく解説しています。
よくあるご質問
宿泊業・飲食サービス業の経営者の方から、実際にいただくご質問をまとめました。
自社の業種が上位に入っていない場合でも、対策は必要でしょうか
必要です。
2026年10月1日からの措置義務に、業種による区分はありません。
労働者を1人でも雇っていれば対象になります。
また、業種別の順位は、誰に訊いたかで変わるため、企業に訊いた調査で上位に入らない業種でも、働く人に聞くと上位に入る場合があります。
自社の相談件数が少ないときは、相談が上がってこない理由がないかを先に確かめる価値があります。
宿泊を断ると、旅館業法に違反しないでしょうか
要件を満たせば断れます。
旅館業法第5条第1項第3号は、省令が定める要求を繰り返した場合に、宿泊を拒めると定めています。
ただし、障害を理由とする社会的障壁の除去を求める申し出や、こちらの落ち度に起因する申し出は、この要求から除かれています。
また、断った場合は理由等の記録を作成し、3年間保存する義務があります。
判断は現場に委ねず、組織のルールに沿って責任者が行いましょう。
口コミに悪い内容を書くと言われた場合は、どう対応すればよいでしょうか
指針は、インターネット上で行われるものも職場におけるカスタマーハラスメントに含まれるとしています。
そのため、要求を通すために投稿を持ち出すことは、指針がカスハラの対象としている行為に含まれる可能性があります。
口コミに投稿すると言われても、その場で金銭や無償の提供をしたり、義務の無い譲歩はしないように注意しましょう。
一度応じてしまうと、同じ要求が繰り返されるようになり、それを断ると更なるカスハラになる、といった悪循環に陥ってしまう可能性もあります。
まとめ|業種の順位より、自社の現場の制約を見る
本コラムでお伝えした内容を整理します。
公的な調査では、宿泊業・飲食サービス業は、46.4%(業種別で2位)の企業がカスハラの相談を受けたと答え、16.0%(業種別で2位)の労働者が実際にカスハラを受けたことがあると回答をしています。
現場で起きているのは、暴言や威嚇に加えて、事実を確かめにくいことを利用した不当な要求と、口コミを交渉の材料に使った無理強いなどの行為です。
接する時間が長く、提供したものが残らず、予約の経路が多いという業種の特徴が、このようなカスハラを生んでいます。
そのため、まずは以下のような対策を講じることが重要です。
- 基本方針を決めて掲示すること
- 対応を打ち切る基準を決めること
- 一人で抱えさせない仕組みを作ること
また、宿泊業には、旅館業法第5条第1項第3号という、悪質な顧客の宿泊をお断りするための法的根拠があります。
ただし、そこから除かれるものが条文に書かれており、断った場合は記録を3年間保存します。
そのため、単に目の前で怒声を発している相手を拒絶するだけでなく、対応基準を明確化し、業務フローを整理し、記録を徹底するといった、組織全体としての対策が不可欠です。
もし、自社のクレーム・カスハラ対策にご不安な場合や、外部の専門家の目で一度確認しておきたいとお考えでしたら、お気軽にご相談ください。