BtoBクレームへの対応|無理な要求をお断りするポイントを具体的に解説
「これも今回の範囲でやってもらえますよね」
BtoB取引(企業間取引)で、発注元の担当者から、契約外の業務についてこう言われた経験はないでしょうか。
クレームとまでは呼べないが、受け入れれば確実に負担が増えることになる無理強いです。
それでも現場の担当者は、断れば次の発注が来なくなるかもしれない、という不安があるから、「わかりました」と答えてしまいます。
一つひとつの無理強いのコストはたいしたことが無いかもしれません。
ですが、そういった無理強いが常態化し、その分のコストも積み上がると、無視できない額になってしまいます。
また、見積もり時には想定していなかった工数が積み上がることで、担当者は疲弊し、利益は削られることになりますが、それでも取引先との関係は改善しません。
むしろ、一度受けた無償対応は次からは前例として扱われるため、要求は年々大きくなっていくことさえあります。
そうやって、無理強いを断らなかったこと自体が、次に断れない理由に変わっていきます。
結論から申し上げると、これは担当者の交渉術の問題ではありません。
会社が判断の基準と手順を持っているかどうかの問題であり、それを整備しないまま担当者ひとりに責任を背負わせている限り、この状況は変わりません。
本コラムでは、発注元からの無理な要求に対して、対応のポイントをお伝えします。
2026年に入り、この分野の法制度は大きく変わりました。
法的な根拠の内容と、現場で実際に何と言うかまで、順に整理していきます。

BtoBクレームへの対応|無理な要求をお断りするポイントを具体的に解説
結論|どう断るかではなく、誰がどの基準で判断するか
無理な要求への対応がうまくいかない企業には、共通点があります。
クレームやカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応と同じで、担当者の資質の問題ではありません。
それは、判断を現場の担当者ひとりに委ねていることです。
担当者は、ゴリ押しされた要望への対応と、自分の担当売上を天秤にかけるため、その場で毅然と断ることは困難です。
その結果、「もし自分が断ったことで失注したらどうしよう」「ちょっと嫌だけど、我慢しておけば売上にはなる」と思って、無理強いを受け入れてしまうことになりがちです。
このような状況を回避するために必要なのは、次の3つを会社として用意することです。
| 用意すること | 内容 | 具体例 |
| 法的な根拠 | その要求が法律上どう位置づけられるか | 取適法と独占禁止法の該当箇所の理解 |
| 社内の判断フロー | 何が来たら誰が判断するか | エスカレーションの基準と決裁者の設定 |
| 現場の言い回し | その場で担当者が何と言うか | よくあるシチュエーション別のトーク例 |
この3つが揃えば、担当者は「自分の判断ではなく会社の方針です」と言えるようになります。
以下、それぞれを具体的に見ていきます。
「無理な要求」は、いま法律上どう位置づけられているか
まず押さえておきたいのが、2026年に入ってからの制度の変化です。
長く「下請法」と呼ばれてきた法律は、2025年5月に成立した改正法により、2026年1月1日から新しい体系に移行しました。
この改正は、名称だけの変更ではありません。
これまで対象外だった取引が規制の範囲に入り、禁止される行為も追加されています。
以前に「うちは対象外です」と言われた経験がある企業ほど、前提が変わっているため、この機会にしっかり確認する価値があります。
下請法は「取適法」になりました
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。
略称は「中小受託取引適正化法」、実務上は「取適法」と呼ばれています。
名称の変更にあわせて、用語も改められました。
- 「親事業者」は「委託事業者」に
- 「下請事業者」は「中小受託事業者」に
上下関係を想起させる言葉が意図的に外されています。
名前が変わっただけと受け取られがちですが、実務上の影響が大きいのは適用範囲の拡大です。
従来、この法律が適用されるかどうかは資本金の額で決まっていました。
そのため、資本金を小さく設定している大規模な企業を相手にした取引は、対象外になることがありました。
しかし、2026年の改正により、資本金基準に加えて従業員数基準が新設されました。
資本金が少額であっても、一定の従業員数を超える法人は委託事業者として規制の対象に入ります。
受託する側から見れば、これは保護の範囲が広がったということであり、これまでは「資本金要件を満たさないので対象外です」と言われていた相手にも、今は主張できる可能性があります。
具体的な人数の基準は委託の種類によって異なりますので、自社の取引先が対象になるかどうかは、公正取引委員会が公開している改正法の説明資料で一度ご確認ください。
禁止行為として明記されているもの
取適法では、委託事業者に対して複数の禁止行為が定められています。
サービス業の受託取引で問題になりやすいのは、次の項目です。
| 禁止されている行為 | 現場で起きている形 |
| 不当な給付内容の変更・やり直し | 仕様外の作業を無償で追加させる、度重なる無償の修正 |
| 不当な経済上の利益の提供要請 | 契約範囲外のサービスを無償で求める |
| 買いたたき | 作業量に見合わない対価を一方的に決める |
| 受領拒否 | 完成しているのに検収しない |
| 減額 | 合意した金額を後から引き下げる |
| 支払遅延 | 定められた期日までに支払わない |
| 報復措置 | 行政機関に知らせたことを理由に取引を減らす |
2026年施行の内容として、さらに2つの重要な変更が加わりました。
ひとつは手形払いの原則禁止です。
支払期日までに代金相当額を満額受け取ることが難しい支払手段が、一律で禁止されました。
電子記録債権やファクタリングを使った支払いも含まれます。
もうひとつが協議に応じない一方的な代金決定の禁止です。
原材料費や人件費の高騰を理由に価格協議を求めたにもかかわらず、協議を拒否したり、説明もなく価格を据え置いたりする行為が、明確に違法とされました。
値上げの相談に応じてもらえないという状況は、いまは、法律上の問題になるということです。
取適法の対象外でも、独占禁止法があります
取引先が取適法の基準に当てはまらない場合でも、打つ手がなくなるわけではありません。
独占禁止法が定める「優越的地位の濫用」が使える可能性があります。
取引上の立場が相手より優越している当事者が、その立場を利用して不当に不利益を与える行為は、不公正な取引方法として禁止されています。
公正取引委員会は判断の考え方を「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」として公表しており、令和8年8月12日現在の最新の改正は令和8年6月17日付です。
優越的地位にあるかどうかは、次の要素を総合的に見て判断されます。
- その相手に対する取引依存度
- 相手の市場における地位
- 取引先を変更できる可能性
- その相手と取引を続ける事業経営上の必要性
システム開発、デザイン、業務代行といった役務の委託については、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」がより具体的な判断基準を示しています。
自社が提供しているのが形のないサービスであっても、保護の枠組みは用意されている可能性があるので、確認してみると良いでしょう。
2026年10月からは、BtoBの取引先の言動もカスハラとして扱われます
制度の変化はもうひとつあります。
これまで、取引先からの威圧的な言動は「商売上のこと」とされ、「お客様なんだからちょっとくらい我慢しろ」と言われることさえありました。
しかし、今後は全ての企業にカスハラ対策が義務化されるため、従業員が取引先から受けた言動がカスハラであれば、会社が対応する法的な義務を負うことになり、「お客様なんだから我慢しろ」は通用しなくなります。
「顧客等」には取引の相手方が含まれます
労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)により、令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が事業主の雇用管理上の措置義務となります。
対象となるのは、労働者を雇用している”すべて”の事業主です。
従業員数の多寡による区別はありません。
厚生労働省が示している指針「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)では、対象となる行為者を「顧客等」と定義しています。
そしてこの「顧客等」には、BtoCの顧客だけでなくBtoB取引(法人同士の企業間取引)の相手方が含まれます。
つまり、発注元の担当者からの威圧的な言動は、法律上のカスハラに当たり得ることが明確に定められました。
そして、BtoBのカスハラについては、被害者側企業に相談を受けた加害者側の企業は、確認や対策に協力することが求められています。
一般消費者と直接的な接点の無いBtoB企業でも、この法改正に対応することが必須となります。
カスタマーハラスメント(カスハラ)が成立する3つの要件
指針は、カスタマーハラスメント(カスハラ)が成立する要件として次の3つを挙げており、そのすべてを満たすものが対象となります。
- 顧客、取引の相手方等による言動であること
- 業務の性質等に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されること
「社会通念上許容される範囲を超えるもの」の具体例として、指針は、要求内容の不当性と、手段や態様の不当性の両面を挙げています。
契約で想定しているサービスを著しく超える要求、不当な損害賠償の要求といった内容。
暴言や侮辱といった精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的で執拗な言動といったなどです。
BtoBの取引でも、発注元からの要求が、これらに当てはまる場合は、カスハラに該当する可能性があります。
そのため、上司や経営者が十分な対策を行わず、「取引先だから我慢してほしい」と従業員に言うことが、会社の法的責任を生む状況になったということです。
すでに同じような要求が繰り返し来ている場合は、早い段階で専門家にご相談されることをお勧めします。
お近くに信頼できる専門家がいらっしゃらない場合は、当社でも無料相談を承っておりますので、お気軽にお声がけください。

法律があっても、現場が断れない理由
ここまで見てきたとおり、BtoBの取引でも無理な要求やクレームに対応するための法的な後ろ盾は整いました。
しかし、それでも現場が断れない理由は、取引の構造にあります。
例えば、「うちの担当者は気が弱いから」と考えて研修を受けさせても、状況は変わりません。
その構造が変わらない限り、同じ立場に置かれれば、誰であっても同じように飲んでしまうからです。
なぜそうなるのかを、順に見ていきましょう。
取引先からの不当要求は、半数以上が経験しています
株式会社エス・ピー・ネットワークが2025年に実施したカスタマーハラスメント実態調査(回答者1,030名)では、51.3%が取引先など法人の顧客から不当要求やハラスメントを受けた経験があると回答しています。
要求の内容は、威圧的な言動が16.7%、値引きの強要が16.5%、サービスの強要が15.0%でした。
ここから言えることは、BtoBの不当要求やカスハラは特別な出来事ではありません。
半数を超える人が経験している、日常的な出来事であるということです。
この数字を見て、意外に思われる経営者の方は多くいらっしゃいます。
自社では起きていないと考えているためです。
しかし前述のとおり、取引先からの要求は担当者の段階で処理され、経営者まで上がってていないため、起きていないのではなく報告されていないだけ、という可能性があります。
実際、営業担当者に「契約範囲外の要望をされたことはあるか」「契約範囲外の作業を無償で受けたことがあるか」と無記名アンケートをする場合、「当社はゼロだ」と言えますでしょうか。
投資をしてしまった後ほど、断れなくなります
BtoB取引では、経済学の「ホールドアップ問題」と呼ばれる現象により、なぜ不当要求が断り難いのかを説明することができます。
受託側は、取引を始めると、その取引先のためだけの投資をします。
例えば、相手の社内システムを覚える。
例えば、相手方の専属のチームを組む。
例えば、相手独自の運用ルールに業務を合わせる。
これらの投資は、いずれも、他社との取引には転用できないため、投じた分だけ、その取引先への依存が深まります。
相手側から見れば、この状態は交渉の材料になります。
「応じなければ今後の発注を考え直す」と匂わせるだけで、減額や無償対応を通せる可能性が高くなるため、優越的地位が生まれやすくなります。
重要なのは、これが「担当者の弱さ」や「個人の能力」ではないという点です。
ホールドアップ現象の家中では、誰が担当しても同じことが起きてしまいます。
そのため、対策も、担当者の教育ではなく構造への手当てが重要になります。
交渉は出来ても結果が約束されている訳ではありません
中小企業庁が実施している価格交渉促進月間のフォローアップ調査では、2026年6月に公表された結果として、価格交渉が行われたと回答した企業の割合が90.7%に達しています。
2024年9月時点では3割前後でしたから、大きな前進です。
一方で、実際の価格転嫁率は54.2%にとどまっています。
内訳は原材料費が55.7%、労務費が50.0%、エネルギーコストが48.9%です。
コスト上昇分の約半分は、いまも受注側の負担です。
また2024年の調査時点では、価格交渉を希望したのに意に反して交渉が行われなかったと回答した企業が13.6%ありました。
制度上、交渉のテーブルには着ける可能性が高まりましたが、現時点ではまだ、望むような結果につながるとは限らないと言わざるを得ません。
サービス業では、線引きがさらに難しくなります
こうしたトラブルは建設業や製造業の話として語られることが多いのですが、実際に線引きが難しいのは、製造業よりも、むしろ形のないサービスを提供している企業です。
理由は単純で、どこまでが契約範囲なのかが目に見えないからです。
例えば、受託開発、制作、人材、物流、業務代行などの業種では、成果物をサンプルとして予め渡すことができません。
そのため、追加の要求が「追加」なのかどうかを、双方が別々に判断することになり、解釈の違いからクレームに繋がる可能性が生まれます。
「原価」の境界がないという弱点
製造業であれば、追加の部品を求められたときに材料費と工数がはっきり出ます。
そのため、断る根拠が数字で示せます。
しかし、受託開発や制作、業務代行では、そうはいきません。
「ちょっと直すだけ」と言われた作業に何時間かかるかは、相手には見えないため、クライアントの理解が十分に得られていない場合、こちらが「それは工数がかかります」と言っても、水増ししているように受け取られることがあります。
その結果、発注側の解釈次第で範囲がどこまでも広がってしまうのが、無形サービスを提供する企業に特有の構造的な弱点です。
業種別に見る、よくある要求の形
実際に相談として持ち込まれる内容を、業種ごとに整理すると次のようになります。
共通しているのは、いずれも取引開始時の取り決めが曖昧だったことに起因している点です。
| 業種 | よくある要求 | 対応の起点 |
| 受託開発・システム | 仕様確定後の追加機能を「軽微な修正」として無償で求める | 要件定義書との差分を一覧にして提示する |
| 制作・広告 | 回数の取り決めがないまま修正が繰り返される | 契約時に修正回数の上限と超過時の単価を定める |
| 人材サービス | 契約にない業務を派遣先の判断で追加させる | 業務内容の変更は書面での合意を必須とする |
| 物流・配送 | 付帯作業(検品、棚入れ、荷役)を運賃に含めて求める | 付帯作業を別建てで見積もり、実績を記録する |
| 業務代行・BPO | 繁忙期の対応量が想定を大きく超えても同額を主張される | 契約時に想定量と超過時の取り扱いを定める |
知的財産の無償提供を求められるケース
近年、サービス業で特に増えているのが、成果物の権利に関する要求です。
例えば、以下のような点については、前述の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の中で明確に触れられています。
- 自社で開発したソースコードの著作権を無償で譲渡させる。
- デザインの元データやノウハウの提供を求める。
- 納品物とは別に蓄積したデータの帰属を一方的に主張する。
実際、発注内容に含まれていない設計図面や特許権等の知的財産権について、無償での提供を一方的に要請する行為は、優越的地位の濫用に当たり得るものとして挙げられています。
これらのことは、形のない成果物を扱う企業にとって、重要な後ろ盾になります。
対策は、契約時に権利の帰属を明記しておくことに尽きます。
納品後に交渉すると、すでに相手が使い始めているため、こちらの立場が弱くなってしまいます。
会社が守らなかったときに、何が起きるか
ここで、経営者の方に必ず知っておいていただきたい裁判例があります。
取引先からの理不尽な要求に対して会社がどう振る舞ったかで、賠償責任の有無が分かれています。
| 裁判所・判決日 | 事案 | 結論 |
| 甲府地裁 平成30年11月13日 | 保護者からの理不尽な言動に対し、校長が事態を穏便に収めるため教員を一方的に非難し、保護者への謝罪を強要した | 安全配慮義務違反を認定し、賠償責任を認めた |
| 横浜地裁川崎支部 令和3年11月30日 | コールセンターで従業員が暴言等の被害を受けたとして雇用主を提訴 | マニュアル整備と、困難な電話を管理者へ転送する体制があったことを評価し、義務違反を否定 |
| 東京地裁 平成30年11月2日 | 小型食品スーパーで常連客からの暴言により精神的苦痛を受けたとして提訴 | 突発的で予見可能性が低く、事後対応にも落ち度がないとして義務違反を否定 |
第三者からの加害行為そのものを、会社が完全に防ぐことはできません。
しかし、予めマニュアルを整備し、困難な案件を上位者が引き取る仕組みが実際に動いていれば、企業の責任は否定されています。
分かれ目になっているのは、事前に体制を用意していたかそして、、問題が起きたときに従業員の側に立ったか、といった点です。
逆に、甲府地裁の事案では、校長が保護者に迎合して、担任に謝罪を強要した結果、学校側に安全配慮義務違反を認めました。
このような例は、民間の企業でも全く同じように当てはまり、BtoBのクレームやカスハラの場合も同様です。
取引を失う不安から不当な要求を丸呑みし、その負担を従業員に押し付ける行為は、会社自身の不法行為になる可能性があります。
発注元の要求を断れず、結果として自社の従業員に過重な作業を強いている状況は、この判決と同じ結果になる可能性があるので、注意が必要です。
自社の対応体制が現在どのような状態にあるかを整理する資料をご用意しています。
確認の出発点としてご活用ください。

直接交渉の3つのポイント
ここからは、実際に発注元の担当者を前にしたときの対応について解説します。
必要なのは、弁が立つことではありません。
交渉が上手な担当者を育てようとすると、話し方は個人差が大きく、育つまでに時間がかかるため、うまくいきません。
それよりも、誰もが同じように対応できる仕組みを作ることのほうが、はるかに重要です。
その場では答えない
1つ目は、その場で即答しないことです。
簡単なことであれば、その場でお応えした方がお互いにスムーズに進められることもあります。
。
しかし、利益に影響するようなことは、「私の一存では決められないので、持ち帰って確認します」と言えるだけで、その場で言質を取られることを避けることができます。
そのうえで、「当社の規定で、契約範囲外の作業は担当者判断では受けられないことになっています」と言えれば、担当者同士の力関係で押し切られることを避け、会社対会社の交渉に切り替えることができます。
感情ではなく、文書を根拠にする
二つ目は、基本的なことであっても、契約書、発注書、仕様書、議事録などの文書を根拠に対応することです。
断る理由について「うちも厳しいので」などと伝えると、「うちも厳しいよ」と返され、担当者同士の力関係で押し切られがちです。
そのため、無理な要求をされた場合は、文書に基づいて、以下のように確認して行きます。
- 「今回のご依頼は、お渡ししている仕様書のこの範囲に入っていないようです」
- 「一度、範囲を整理したうえで再度お見積もりをお出しします」
それでもまだ要求をゴリ押しして来るような場合は、「当社のコンプライアンス上、書面での再見積もりが必要になります」という言い方であれば、相手の面子を潰さず明確に断り、手続きに乗せられます。
会社として答える
三つ目は、回答の主語を会社にすることです。
担当者個人が判断したように見えると、相手は担当者を変えるよう求めてきます。
そのため、以下のような伝え方をすることをお勧めします。
- 「社内で確認した結果、今回の内容は追加のお見積もりが必要という判断になりました」
- 「本件については、担当ではなく管理部門からご連絡させていただきます」
- 「弊社の規程に基づき、書面でのやり取りに切り替えさせていただきます」
言い方の巧拙より、正当なプロセスを経た組織としての回答であることを伝える方が重要であり、組織として答えていることが伝わった時点で、無理強いは止まる可能性があります。
外部の力を使う
自社だけで交渉するのが難しい場合、公的な相談窓口の利用を検討します。
取引上のトラブル全般を扱ってくれるので、クレームの延長線上にある案件でも相談できます。
費用はかからず、取引先に知られずに相談できます。
公的な相談窓口を使うことについては、行政に持ち込むと事を荒立てることになる、という感覚があるため、ためらいを感じられる経営者の方も多くいらっしゃいます。
ですが、実際には、相談した段階で相手に伝わることはありません。
そのため、自社の状況がどう評価されるかを確かめるだけでも使う価値があります。
取引かけこみ寺
「取引かけこみ寺」は、中小企業庁の委託事業として、全国48か所に設置されている相談窓口であり、以前は「下請かけこみ寺」という名称でした。
対応している内容は幅広く、代金の未払い、不当な減額、受領拒否、買いたたき、不当なやり直しに加え、図面やソースコードの無断使用、ノウハウの無償提供要求といった知的財産のトラブルも含まれます。
特徴は次のとおりです。
- 相談は無料で、取引に詳しい相談員や弁護士が対応する
- 弁護士相談を除く一次相談は匿名で可能
- 解決が難しい場合は、無料で裁判外紛争解決手続き(ADR)による調停が利用できる
匿名で相談できるという点が、実務上とても大きな意味を持ちます。
相手に知られるリスクを負わずに、自社の状況が法律上どう評価されるかを確認できます。
公正取引委員会の相談窓口
公正取引委員会は「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」を設けています。
取適法違反や優越的地位の濫用に当たる可能性が高い事案は、こちらへの通報が行政調査の端緒になります。
行政機関に知らせたことを理由とする報復措置は、取適法で明確に禁止されています。
しかし、それでも報復を恐れる方は少なくありません。
そのため、公正取引委員会は、事業者からの申告を待つだけでなく、書面調査によって自ら違反を探す体制を取っています。
実際、2025年4月以降に運送事業者を対象として実施された集中的な調査では、勧告が2件、指導が530件に上っていました。
専門家の客観的視点による問題提起
外部の公的機関の利用は、メリットもありますが、それでも、多くの企業にとってはハードルが高いことも事実です。
実際、基本的には相談対応に留まり、社名や氏名を公開して介入を求めない限り、公的機関が個別案件に対して対応してくれないため、長期的な取引の継続を重視する企業は躊躇してしまいがちです。
そこで有効なのが、専門家が客観的な視点から問題提起することです。
専門家が、例えば内部監査やリスクアセスメントの一環として参加し、具体的な事実を指し示しながら不当要求やカスハラの可能性を指摘します。
この時、最初から弁護士名で問題提起すると、費用も高額になりがちですし、相手方も弁護士を前面に立てるなど態度を硬化させてしまい、建設的な話し合いができなくなってしまう可能性があります。
そこで、最初はまず外部の専門家に、客観的な視点から問題提起してもらうことで、両当事者が交渉のテーブルに座るきっかけを作ります。
この点、当社は代表の花村が国家資格である中小企業診断士(経済産業大臣登録済み)であるため、より客観的かつ説得力のある問題提起が可能です。
判断に迷われている場合は、課題と優先順位の整理をお手伝いしますので、お気軽にご相談いただければ幸いです。

自社が発注する側になったときの注意
ここまでは、BtoB取引において要求を受ける側(受注側)の話をしてきました。
ただ、多くの企業は同時に発注する側(発注側)でもあります。
例えば、外部のエンジニアやデザイナー、一人で法人を運営している事業者に業務を再委託する場面などです。
これまで受注側として守られて来た企業が発注側になったら、当然、、今後は発注側として規制されることになるため、適用される法律も変わります。
例えば、自社が発注側として、取適法や改正労働施策総合に知らないうちに違反していないかなど、この機会に確認しておきましょう。
フリーランス保護の法律は、自社が発注側のときに関係します
自社が発注側になった時には、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆるフリーランス保護の法律が当てはまる可能性があります。
この法律で保護される「特定受託事業者」の定義は、非常に厳格です。
対象となるのは、従業員を使用しない個人事業主か、代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人に限られます。
ここでいう「従業員を使用する」とは、週20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇っている状態を指します。
したがって、例えば従業員が20人いる企業が受託側として取引をする場合、この法律による保護は受けられません。
一方で、その企業が個人のエンジニアやデザイナーに発注する立場になれば、自社は規制を受ける側となり、取引条件の書面での明示、期日どおりの支払い、買いたたきの禁止といった義務を負います。
募集情報を正しく表示することや、育児介護との両立への配慮、ハラスメント対策の体制整備も求められることになります。
受注側の視点で、自社の発注環境をチェックする
元請けの理不尽さに困っている企業が、自社の外注先に同じことをしているケースは珍しくありません。
立場が変われば、今まではこちらが受ける側だったトラブルを、こちらが起こす側になりますので、「今回はこれも含めてお願いできますよね」という一言で自社がゴリ押しや無理強いをしていないか、自社の発注状況を確認しましょう。
取引適正化の流れは、サプライチェーン全体に及びます。
自社が受注側として法律を根拠に主張するのであれば、発注側としての運用も同時に整えておく必要があります。
片方だけを整えても、いずれ矛盾が表面化するので、注意しましょう。
よくあるご質問
元請けからの嫌がらせとは、どのようなものですか
典型的なものとしては、代金の未払いや不当な減額、著しく低い金額での発注、無償対応の強要、契約にない資材やサービスの購入強制などがあります。
これらは、取適法で禁止行為として明記されています。
加えて、暴言や威圧的な言動、執拗な連絡といった態様のものは、2026年10月からカスタマーハラスメントとしても扱われます。
無理な納期要求はカスハラに当たりますか
納期の短縮要求自体が直ちに該当するわけではありません。
ポイントは、契約で想定している範囲を著しく超えているかどうかと、要求の伝え方が威圧的・執拗であるかどうかの2点です。
即日回答や即時対応を強要する形で繰り返される場合は、該当する可能性が高くなります。
まずは要求の回数と内容を記録に残してください。
元請けが支払いをしてくれない場合はどうすればよいですか
支払遅延は取適法で明確に禁止されています。
発注時に交付された書面や発注書、納品の記録を揃えて支払いを要請しているのに、いつまでも払ってくれない場合は、取引かけこみ寺への相談を検討しましょう。
匿名での一次相談が可能で、必要に応じて無料の調停手続きも使えます。
断ったら取引を切られませんか
断られる可能性はゼロではありません。
ただ、断り方を工夫することで取引が継続できることも少なくありません。
また、全く断らずに無理な要求を受入れ続けるだけでは、最終的には、自社の側が立ち行かなくなるはずです。
一法で、例えば、その場で拒否するのではなく、持ち帰って書面で再見積もりを出すという手続きに乗せれば、相手も社内で処理できる形になります。
相手企業の担当者も、自社に無償で作業させた記録が残ることは望んでいないことが多いです。
取引先に法律の名前を出しても大丈夫ですか
初手から法律名を前面に押し出して交渉することは、あまりお勧めできません。
特に、相手を非難する文脈で持ち出すと、関係は高い確率で悪化します。
「当社のコンプライアンス上、○○法に則った形での処理が必要です」というコンプラチェックの説明に置き換えるほうが、取引先も受け入れやすくなります。
法律は、相手を追い詰めるためではなく、自社が手続きを変える理由として使うことが有効です。
まとめ|線を引くのは担当者ではなく、会社です
BtoB取引における発注元からの無理な要求やクレームは、担当者の交渉力だけでは解決しません。
そのため、取引を失う不安を個人に背負わせている限り、要求は通り続けます。
しかし、2026年に入り、使える材料は大きく増えました。
下請法は取適法となり、従業員数基準の導入で保護の範囲が広がりました。
協議に応じない一方的な価格決定は明確に禁止され、手形払いも原則としてできなくなりました。
そして10月からは、労働施策総合推進法の改正により、取引先からの威圧的な言動や契約外の無理強いなども、法律上のカスハラとして扱われることになります。
この法改正について重要なことは、企業が被害者の立場に止まらず、他のハラスメントと同様に従業員をカスハラから守ることが求められるようになった、ということです。
前述の裁判例が示すとおり、顧客とのトラブルがあったとき、従来から従業員を守るための体制を用意していた企業は責任を問われず、取引先に迎合して従業員に負担を押し付けた企業は責任を問われていました。
しかし、今後はそのことが措置義務として明確に定められました。
そのため、使える材料は増えたことを喜ぶだけでなく、それと同じくらい、それらを使う企業自身が予め対策を講じることが重要です。
特定の取引先からの要求が続いている場合、状況は時間とともに悪化します。
判断に迷われている段階で、一度ご相談ください。

まずは自社の状況を整理したいという方は、こちらの資料もご覧ください。
