BtoB(企業間)カスハラの被害と対策|“見えない損失”を防ぐ方法を専門家が解説
| 本コラムはBtoBカスハラの【被害者側】としての対策を解説します。 |
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| ▶【加害者側】の対策は、下記のコラムをご参照下さい。 |
カスハラについて企業と会話していると、「うちはBtoB(企業間取引)だから関係無いよ」といったお言葉を聞くことがあります。
しかし、それは全くの誤解です。
改正・労働施策総合推進法では、第33条で「取引の相手方」の言動もカスハラとしており、BtoBも対象とされています。
BtoBでも、例えば以下のような行為はカスハラに該当する可能性があります。
- 契約外の内容に、長時間対応や深夜休日の対応を要求する
- 重要性・緊急性の低いのに、極めて詳細、著しい短納期、膨大な報告を要求する
- 金銭、物品、接待などの見返りを要求する
- 問題や落ち度がないのにも関わらず、追加サービスや物品を要求する
- 家事の手伝い、送迎、買い物、チケットの受取など、私的な雑用を要求する
- 正当な理由もないのに、年齢や性別、具体名を挙げて担当を指名する
実際、BtoBのカスハラは、取引金額が大きく判断に慎重さを要す、外形的に分かり難かりにくく営業担当者が抱え込みがちであるなど、対応が難しいことが大きな特徴です。
そのため、「うちはBtoBだから大丈夫だろう」といった誤認が最も危険です。
そこで今回は、3,000件以上のクレーム・カスハラに対応してきた中小企業診断士が、BtoBのカスハラ被害に遭っていると思われる場合の対応について、具体的に解説いたします。
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BtoB(企業間)カスハラの被害と対策|“見えない損失”を防ぐ方法を専門家が解説
BtoBカスハラ5つの特徴:なぜ気付かないうちに深刻化するのか
BtoBのカスハラはBtoCのように、暴言、暴力、インターネットやSNSに晒すなどの行為が行われることは、一般的には少ない様に思います(無い訳ではありませんが)
しかし、BtoCにはない多くの特徴があり、まずこれを把握しておかなければ、ハードクレームやカスハラが起きても、真の原因も分からないし、適切な対策を講じることもできません。
失注リスクが“担当者の沈黙”を生む
客単価が数千円~せいぜい数万円のBtoCに対して、BtoBの取引は数十万円~数千万円になることも少なくはありません。
社内的にも、受注プロセスや月々の対応などの営業コストも相応に要すことになります。
そのため、BtoBのカスハラでは、いかに理不尽な行為を受けていたとしても、「自分がきっかけで失注したらどうしよう、、、」という強い恐怖を抱えます。
また、失注には至らなくても、クライアントが後述のように「不当な非難だ!」とクレームを入れて来たら、企業の上層部の理解が薄ければ、取引先からクレームを起こしたといった評価をされかねません。
この“失注リスク”が、担当者を沈黙させ、理不尽な要求を受け入れ続ける温床になります。
契約・KPI・暗黙の合意が“カスハラを正当化してしまう”
例えば、取引先から合理的な範囲を超える強い叱責を受けたり、過度に細かい調査や長大な報告書を短期間で求められたりするケースは、カスハラに該当する可能性があります。
しかし、そのようなケースでも、業務の未達を理由に
「契約事項の未達を脇に置いて失礼だ」
「あなたが仕事をやってくれていたら不要な叱責や要求はしなかった」
「業務を遂行するためのお願いだから、こちらこそ被害者だ」
などと主張されたら、反論は簡単ではありません。
高額なBtoB取引では、商品やサービス、性能、納期、支払方法、保証、KPI、報告方法など様々な要素が契約書で締結されています。
また、運用開始後、現場の担当者間で決まった事実上の合意事項もよくあります。
そのような複雑な契約関係の中で何らかの未達事項があると、カスハラとの切り分けが難しくなり、外形的には見え難くなってしまいがちです。
不利な契約が“要求エスカレート”を招く
BtoBのカスハラの中には、契約自体が以下のように不利な内容になっていることがあります。
- リソースの裏付けのない高過ぎる目標値
- 自社だけに課されたリスクや責任
- 相手方だけが持つ決定権
営業成績優先で、上記のような片務的な契約を締結してしまうと、取引先の要求がエスカレートすることに歯止めが効かなくなりかねないので、注意が必要です。
また、明確に不利な契約ではなくても、「後の交渉で有利な条件を引き出せる可能性があるから」などと考えて、曖昧な条件をそのままにして契約を締結することも危険です。
企業間取引では、よほど代替不可能で必要性の高い価値を提供できていない限り、報酬(対価)を払う側の力が強くなって行くのは自然なことです。
例え直接の担当者を「組み易し」と踏み、有利な条件で交渉を進めたとしても、契約締結の前にはその上司などが出て来たり、運用開始後に現場の力関係で引っくり返されたりするのが関の山です。
契約書のレビューを曖昧にしてしまうと、上記のようなリスクを自ら抱え込み、身動きが取れなくなってしまうので、注意が必要です。
組織的プレッシャーが“現場を追い詰める”
1ユーザーとして行われるBtoCのカスハラとは違い、BtoBのカスハラは、担当者個人の問題ではなく“組織的プレッシャー”によって引き起こされることが多いのが特徴です。
現場担当者は、上層部からの圧力を背景にした要求を断れず、追い詰められていきます。
例えば、
- 値引き交渉
- 納期の短縮
- 追加リソースの投入
- 詳細な分析やレポートの作成
など、契約で定められた業務範囲の境界線にあるような要求をこちらに飲ませるため、組織的に強いプレッシャーをかけて来るようなケースです。
もちろん、そういった行為があっても、その全てが組織的な行為という訳ではありません。
しかし、少なくてもその上司は、それらの行為を知っていながら、自社が有利に交渉を進めるため、見て見ぬふりをしているとしか思えないことも実際にあります。
最悪の場合、クライアントの担当者やその上司も、更に上層部からコスト低減や納期短縮についての強烈なプレッシャーを受けており、それがカスハラの原因になっていると思われる場合もあります。
つまり、目の前の担当者の行為をなんとかすればカスハラが無くなる訳ではなく、組織的な対策が不可欠である点については、注意が必要です。
担当者が変わっても“終わらない”──構造的に続くカスハラ
BtoBの取引は、何か月~何年も取引が続くことも少なくありません。
そのため、そういった企業どうしの契約期間が続く限り、ずっと、カスハラの被害が続いてしまう可能性があります。
実際、筆者が以前コンサルティングをしたコールセンターでは、途中でクライアント側の担当者変更が2回あったのですが、新たな担当者も当然のように、それまでと同様のカスハラ行為をしていました。
継続的に行われるということは、カスハラの根本原因を特定し、組織的・構造的に対策を講じなければ、目の前の暴言や過剰要求にいくら対処したとしても焼け石に水ということです。
その場の対応がたまたま上手く行ったことがあったからといって、希望的観測により対策を緩めてしまうことがないように、注意が必要です。
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放置すると“雪だるま式に悪化する”3つのリスク
BtoBの場合、前述の通り取引額が大きいため、現場で少しくらい強く叱責されたからといって、改善を申入れて万が一失注してしまったら多額の売上を逸失してしまうからと、つい対応が及び腰になりがちです。
しかし、これに対応しないことは、多額の損害を生む可能性があることには、注意が必要です。
筆者が以前コンサルティングをした、あるコールセンターのアウトソーサーの事例をご紹介します。
多額の赤字
そのコールセンターでは、長期にわたり応答率が低迷していることが問題となっていました。
応答率は「応答数÷着信数」で求められ、応答数はオペレーターの人数と生産性に依存します。
そのコールセンターでは契約でオペレーターの人数が決まっており、その契約人数を確保していたので、本来なら応答率未達の全責任を負うものではありません。
問題は、応答率が未達だった場合に、クライアントが現場の担当者個人を捕まえて、「次回は必ず達成します」と確約するまで叱責されていたことでした。
そのため、現場担当者はそのストレスに耐えられず、独自にシフトを募集し続けた結果、毎月3~4人の余剰人員を配置していました。
その結果、1年以上にわたり、毎月100万円以上の人件費を持ち出すこととなっていました。
これは、義務の無い費用負担を押し付ける、典型的なBtoBカスハラだと思われます。
エース社員の離職
そのコールセンターでは、状況の立て直しのため、地方のセンターを拡大し、大手企業で管理職をしていた方をセンター長に迎えてリスタートを図りました。
しかし、オープン直後から新しいセンター長に対し、以下のような行為が続くようになりました。
- 1時間を超える録音音声の書き起こしなど、過度に細かい報告要求
- 当日午前中など、極めて短い納期での対応依頼
- 目的が不明瞭な2時間に及ぶ長時間会議への頻繁な参加要請
例えば、書き起こしや報告書などは、メンバーに依頼したこともあります。
しかし、その場合も必ず、「センター長も確認して下さい」と返され、その後も、「意図と違います。もう一度確認してください」などと曖昧な理由で何度も返されるため、他のことが全くできませんでした。
結果、追い詰められたセンター長は長期休職の末、退職となってしまいました。
また、その状況をすぐ近くで見ていた2名の社員も、士気が低下し、連鎖的に退職してしまいました。
法的なリスク
この件は幸い、裁判沙汰に発展することはありませんでした。
しかし、カスハラはクレームの延長ではなく、パワハラやセクハラと同様、ハラスメントの一種であり、企業にはその防止措置を講じる義務があります。
実際、これまでも、従業員がハードクレームに遭っているときに適切な配慮をしなかった企業に対し、安全配慮義務違反などで損害賠償請求が求められた判決がありました。
カスハラ対策については、改正労働施策総合推進法や各自治体のカスハラ条例の中で、企業の対策義務が明確に定められたことで、対策を怠った企業に対し損害賠償が認められる高くなっていくと思われます。
また、損害賠償が求められなかったとしても、措置義務に違反した場合は、助言、指導、勧告、社名公表などの行政処分を受ける可能性があることにも注意が必要です。
| BtoBカスハラは、放っておけば “ 必ず ” 悪化します。 コストの持ち出しがあればその月数が、従業員の退職があれば連鎖退職が、時間の経過とともに雪だるま式に拡大して行きます。 もし、これまでの説明に心当たりがある場合は、まずはチェックリストで自社の対策状況を確認してみることをお勧めします。 ▶ 【資料DL】カスハラ対策チェックリスト 改正・労働施策総合推進法も踏まえた対策状況を5分でチェックできます。 |
現場が限界を迎える前に、経営者が取るべき4ステップ
BtoBのカスハラは外からは見え難いうえ、取引金額も大きいため、対策には慎重を要します。
例えば、自社のKPI未達に対し酷い侮辱や暴言を受けた場合、それを真正面から「カスハラだから止めて下さい」と拒絶するだけでは、「会社と会社で決めたKPIが守られず、こちらも管理責任を問われ上から叱責されている。それを、改善するより前にカスハラ呼ばわりするとは、真剣味が足りない!」などと言われてしまえば、建設的な交渉をすることは困難です。
しかし、例え外形的には筋が通っていたとしても、酷い侮辱、暴言、過剰要求、といったカスハラまで正当化される訳ではありません。
そのため、以下の4段階に分けて、組織的に対策を講じることが有効です。
- 事前予防
- 発生時対応
- 契約や取引を続けるか否かの判断
- 事後フォロー
事前予防:取引先を“巻き込んで”対策する
基本的な対策は、BtoCカスハラの場合と同様に、ガイドライン作成、マニュアル化、研修の実施などを通じて、組織としての対策を担当者間で共有します。
BtoBの事前予防における最大のポイントは、クライアントを巻き込むことです。
具体的には、以下の5つのような対策が考えられます。
- 取引先のカスハラ対策状況の確認
- 自社のカスハラ対策の、取引先への共有
- 日頃から取引先と良好な関係を築く
- ハラスメントに関する情報交換の場を作る
- 従業員が安心して相談できる体制の整備
ただし、カスハラやコンプライアンスへの意識が薄い取引先に対して唐突に上記のような対策への協力を依頼しても、なかなか受け入れられず交渉が難航するかもしれません。
その場合は、我々のように国家資格を持った外部の専門家からのアセスメント(診断結果)などをきっかけとしていただくのも一法です。
発生時対応:担当者任せにせず組織として対応する
従業員からカスハラに関する相談があったら、絶対に1人で対応させず、必ず、組織として対応しましょう。
具体的には、以下のようなステップが考えられます。
- 従業員に対して事情を確認する
- 事実確認を行うため、取引先に協力を依頼する
- 取引先と共同で、取引先従業員に事実確認する
- カスハラが認められた場合、期限を定めて改善策を求める
意思表示をする際には、契約事項やKPIの未達をあげつらって誤魔化されてしまわないように、調査結果に基づいた具体的な事実関係や、自社が当該行為をカスハラに当たると判断していることなどを伝えます。
取引先が「業務を進めるための指導だ」と主張してきたとき、そのまま受け止めていては議論が平行線となってしまいカスハラ対策が進まなくなるため、あくまで調査結果に基づいたカスハラ行為にフォーカスを当てて、その是正を求めます。
注意点としては、カスハラ行為が認められたからと言ってすぐに弁護士を表に立たせると、相手方も弁護士を立ててくるなど態度が防衛的になり、建設的な交渉ができなくなりかねません。
契約上のリスクなどを弁護士に予め相談するのは良いですが、まずは直接交渉でクライアントにカスハラの是正を求めることをお勧めします。
取引継続の判断:3つの基準で“冷静に線引き”
取引を続けるかどうかは、感情ではなく“3つの基準”で冷静に線引きする必要があります。
謝罪や一時的な改善だけで判断すると、再び同じ問題が起きる可能性があります。
以下のようなポイントには特に注意し、不十分な場合には、必ず取引先とすり合わせをしましょう。
収益性は回復するか
カスハラが発生している取引では、契約以上の仕事を強いられコストが膨らんでいることがありますが、継続的に赤字なら、そもそもビジネスとして成立しません。
そういった場合は、自社の側からも改善提案を行い、それが受け入れられるか否か、少なくても交渉に応じるか否か、といった点を確認し、収益が回復する見込みがあるかを検討します。
そういった場合には、赤字のままでは取引を続けるのは不可能だと伝え、トーンをリセットすることが必要です。
原因は妥当か
言動や行為だけでなく、なぜそれが起きたのか、組織的に振り返っていることが重要です。
特に、カスハラの加害当事者に組織的な圧力があったのか、上長が知っていたのか、といったポイントについて納得できる回答が無い場合、組織としての改善ができておらず、また同じことが繰り返される可能性があるので、注意が必要です。
再発防止策は十分か
収益性は回復しても、カスハラ自体が止まなければ、大事な従業員のアサインはできません。
原因を踏まえて、カスハラが無くなるよう適切な再発防止策が講じられているか否かを確認します。
また、自社だけで再発防止策を講じるのではなく、クライアントの上層部が自らモニタリングし、指導など必要な対応を講じるようにしてもらうなど、自浄化の仕組みを作ってもらうことも有効です。
事後フォロー:再発防止策を“仕組み化”する
BtoBカスハラは“仕組みで止める”必要があります。 一時的に改善しても、再発防止策が仕組み化されていなければ、必ずどこかで再燃します。
そのため、必ず、以下のような再発防止策を講じましょう。
- カスハラ防止策や注意点などをマニュアル化してもらう
- 背景、定義、禁止行為などを従業員に研修してもらう
- 契約書や覚書きなどの書類に盛り込む
クライアント側ですぐには対応できない場合には、自社のマニュアルを共有したり自社の研修に参加してもらっても良いでしょう。
また、客観性を確保するためには、共同研修の講師を外部の専門家に依頼することが有効です。
まとめ:“自社だけ”での対応には限界がある
BtoBカスハラは、法務・心理・組織・実務が複雑に絡むため、正しい線引きが極めて難しい問題です。
誤った対応は、関係悪化や損害賠償リスクにつながることもあるため、第三者の視点を入れて状況を整理することが、最も安全で確実な方法です。
また、被害側企業に未達事項がある場合は、カスハラの解消と並行してサービスレベルを高め、未達事項を解消しなければ、結局、両社の溝は埋まらないことにも、注意が必要です。
そのため、軽度なカスハラなら自社で対応しても良いですが、サービスレベルの向上との両立が求められるような難しい局面では、早期に、専門家の支援を受けながら改善に着手することをお勧めします。
お近くに信頼できる専門家がいない場合は、当社でも承っていますので、お気軽にご連絡下さい。
| BtoBカスハラは、気が付いた時には、多額の赤字や従業員の連鎖的退職など、深刻な被害になっているということも少なくありません。 そのため、被害が起きる前から組織的な対策を講じておくことが肝要です。 ▶本コラムの内容に1つでも当てはまる場合は、早めに状況を教えてください。 最短60分で、貴社の取るべき初期アクションを明確にします。 |

