BtoCだけじゃない | BtoB(企業間取引)でもカスハラ対策は必要です

カスハラ 企業間 BtoB

報道などで目にする「カスハラ」事例は、BtoC事例(企業体一般消費者の取引)のものがほとんどです。そのため、カスハラについて会話をすると、「BtoCで発生する問題であり、うちはBtoB(企業間取引)だから関係無い」といった誤解をされている方もいます。

しかし、厚生労働省のカスタマーハラスメント対応策企業マニュアルでも、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例でも、以下の通り、カスハラの対象にBtoB(企業間取引)が含まれていることが明記されており、特に、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例においては、事業者に対し、事業の就業者に対し「必要な措置」を講じるように求められています。

■厚生労働省のカスタマーハラスメント対応策企業マニュアル(以下:厚労省カスハラマニュアル)

P6) 2 カスタマーハラスメントとは 2.1 本マニュアルでのカスタマーハラスメント    カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先など(以下「顧客等」)からのクレーム全てを指すものではありません。


■東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(以下:東京都カスハラ防止条例)

(事業者の責務) 第九条 3 事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。


そこで本コラムでは、BtoB(企業間取引)においてカスハラを受けた場合(被害側)とカスハラをしてしまった場合(加害側)の対応について、それぞれ解説いたします。

BtoCだけじゃない | BtoB(企業間取引)でもカスハラ対策は必要です

自社従業員が取引先等からハラスメント被害を受けた場合(カスハラ被害が発生した場合)の対応

BtoCの場合と同様に、BtoBの場合も、自社従業員のカスハラ被害に対し適切な対応を取らなかった事業主は、安全配慮義務違反として指導を受けたり、損害賠償責任を負うことになる可能性があります。
そのため、厚労省カスハラマニュアルでは、従業者からカスハラ被害について相談を受けた場合の対応として、以下の3点が求められるとしています。

  • 自社従業員から相談を受け、事情を確認する
  • 事実確認を行うため、取引先に協力を依頼する
  • 取引先と共同で、ハラスメント行為が疑われる取引先従業員から事実確認を行う

BtoBのカスハラ対策は、予防策と再発防止策が重要

BtoBは1件あたりの取引額が大きいなどの理由により、カスハラに遭ったからといって、警察や弁護士を介入させたり取引を打ち切ったりすることは、躊躇してしまうことがすくなくありません。また、カスハラの態様としても、例えば、業務の未達に対し強い叱責を受けたり、極めて詳細な調査や長大な報告を求められたりした場合、担当者としては過大なストレスと業務負荷を被っていたとしても、業務の未達を理由に「ちゃんとやってくれたら不要な叱責や要求であり、業務遂行上止む無くお願いしているのだから、こちらこそ被害者だ」などと主張されたら、企業としても反論は容易ではありません。

そのため、上記のような発生時の対応も重要ですが、それ以上に、BtoBのカスハラでは予防策と再発防止策の徹底が重要です。

予防策

予防策として、必ず押さえておくべきポイントは、以下の3点です。

  • 取引先企業のカスハラ対策の取り組み状況の確認
  • 契約書上で権利と義務を明確化し、カスハラ対策を盛り込む
  • BtoB部分を含めて、自社のカスハラ対策を理解してもらう

新規案件であれば、上記の3点を踏まえて取引先を選定して行きましょう。

既存の取引先の場合には、カスハラへの意識が薄い取引先に対して唐突に上記3点を持ち出しても、交渉が難航するかもしれません。そういった場合には、コンプライアンス対策の大枠の中で組み入れる、自社のカスハラ対策の一環として協力を依頼する、といった体でまずは交渉のテーブルに着いていただくようにしましょう。もし、それでも交渉に消極的な場合には、業務監査での指摘や我々のような外部の専門家からの指摘を理由としていただくのも一法です。

再発防止策

取引先からのカスハラ被害事実が確認された場合には、取引先に主体的な再発防止策を講じるように求めます。
具体的には以下のような取組みが考えられます。

  • カスハラ被害防止だけでなく、カスハラ加害防止の観点でも、注意点などをマニュアル化してもらう。
  • カスハラの定義、具体的な行為、それらをやってはいけないことなどを従業員に研修してもらう。


また、自社の側で行うべき対応としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 基本的なことですが、上記の様な「対策」だけではなく、日頃から取引先と良好な関係を築き、カスハラが発生しにくい環境を作る。
  • 上記のような非公式なコミュニケーションだけでなく、取引先の責任者も交えカスハラについて情報交換する場を作り、定期的に両者の取組みなどを共有する。
  • 従業員・スタッフのプライバシーに配慮しながら、「カスハラかも、、、」と思った時に安心して相談できる体制を作る。

組織として明確な意思表示をする

上記のような対策を取ってもなおカスハラ被害が続いたり、現にカスハラが発生したにも関わらず対策に消極的な取引先だったりの場合は、カスハラを止めるように書面での通知をするなど、明確な意思表示をして行きましょう。

書面で通知する場合には、具体的な事実関係や、自社が当該行為をカスハラに当たると判断していること、是正されないのであれば公的機関等に相談せざるを得ないことなどを記載し、正式な書面で通知します。

この時、自社に業務の未達などがあると、前述のように未達を是正するための要請であると主張される場合があります。このような主張をそのまま受け止めていては、話しが堂々巡りになってしまい、カスハラ対策が前に進まなくなってしまいます。

よって、そういった堂々巡りを避けるためにも、対象行為を極力限定・具体化し、業務の話しと切り離したうえで、以下の様なメッセージを伝えて行きましょう。

  • 契約上の義務を超過していると考えている。または、厚労省カスハラマニュアルにおける「手段・態様が社会通念上不相当」である「威圧的な言動」に該当すると考えている。
  • 自社にとっては極めて大きな出来事であり、大切な従業員を守るため、是正措置は不可欠だと考えている。

それでも是正措置が取られないなら、取引解消も検討する

上記の対応を取ってなお、カスハラへの是正措置が講じられる気配が無い場合には、取引解消も検討せざるを得ません。収益に対するインパクトを心配する意見もありますが、取引を解消しても、失うのは売上だけです。そしてその売上は、優秀な人財がいれば回復は不可能ではありません。
取引解消により短期的には売上が低下したとしても、従業員をカスハラの犠牲にしながらビジネスを継続し、優秀な従業員の休退職、残存人員の大幅なモチベーション低下、労働市場への悪評蔓延などとなることの深刻な影響を冷静に考えれば、それら全てを犠牲にして継続すべき場合はほとんど無いはずです。


カスハラの被害を受けている場合は、ほとんどの場合で、その時その一回だけ、突発的に発生した訳ではありません。
そもそもの業務の非効率さ、マニュアルや研修の不足、マネジメント体制の脆弱さ、担当者へのフォローの不足など、自社にとっても反省すべき点を抱えている場合も少なく無く、目前のカスハラを治めるだけでは根本解決にならない場合がほとんどです。
もし、継続的にカスハラやハードクレームが発生していることにお悩みの場合は、ぜひ、お気軽に下記からご相談ください。

レクーム カスハラ 専門家

自社従業員が取引先等でハラスメント行為を行った場合(カスハラ加害が発生した場合の対応)

冒頭で解説した通り、厚労省カスハラマニュアルではBtoB取引もカスハラに含まれており、東京都カスハラ防止条例では、就業者が顧客となって他社に対しカスハラをすることが無いよう必要な措置を講ずることが求められています。

従って、これまでBtoBにおける被害者側カスハラについて解説して来ましたが、加害者側についても対策を講じることが不可欠です。

加害行為を行っていることの把握

自社の従業員・スタッフがカスハラの加害行為を行っていることを把握する方法は、以下の2通りあります。

社内の報告や通報などによる社内での把握

同僚が従業員・スタッフの加害行為に気付き、上司への報告や社内通報窓口への通報を行って来る場合などです。
なお、社内での把握は、相談担当者や通報窓口を設置しただけで上手く行く訳ではありません。そのようなチャネルを作ったとしても、例えば、そのチャネルへのアクセスを牽制されていると従業員が感じた場合は、社内で加害行為に気付くのはほとんど不可能になります。そのため、報告者や通報者のプライバシーに最大限配慮しながら、もし間違っていたとしてもそれを咎めないことを宣言するなどし、誰でも、どんな事でも、相談・報告・通報ができる環境を作ることが極めて重要です。

取引先からの通報による外圧での把握

取引先から通報される時は、ほとんどの場合で、現場担当者の思い付きによる通報ではなく、取引先内で慎重に検証し、当該事業の責任者の承認を経たうえで通報されます。そのため、自社の側でも相応の責任者を交えながら、早急に検証結果などの情報の共有を受け、調査には全面的に協力しましょう。

事実関係の調査

従業員・スタッフがカスハラの加害行為を把握したら、次にやるべきことは、具体的な事実関係の確認です。本当に通報通りの行為があったのか、それがカスハラに該当するのかなど、慎重に調査しましょう。

注意点として、取引先からどんなに強く申し入れをされ、どんなに具体的な説明がされても、一方当事者の主張だけで、それを事実として調査を済ませてしまってはいけません。従業員・スタッフのカスハラ加害行為が事実であると組織として認定したら、社内における懲戒処分だけでなく、暴行や強要などの行為が伴う場合には、警察の介入が避けられない場合もあります。そのため、必ず自社従業員からもヒアリングを行い、監視カメラ、録音、報告書や証憑類などとも矛盾がないかを確認します。

よくあるカスハラ加害行為の例

カスハラ加害行為として分かりやすい典型例は、暴行、暴言、強要などですが、カスハラに該当する行為はそれに限りません。

BtoBのカスハラ加害行為について、厚労省カスハラ対策マニュアルのP43『取引先企業との接し方に関する留意点』では、「業務の発注者、資材の購入者等、実質的に優位な立場にある企業が、取引先企業に課題な要求を課し、それに応えられない際に厳しく叱責する、取引を停止することや、業務とは関係の無い私的な雑用の処理を強制的に行わせることは、独占禁止法上の優越的地位の乱用や下請法上の不当な経済上の利益の提供要請に該当し、刑事罰や行政処分を受ける可能性があります。」となっており、具体的には以下のような例が考えられます。

  • 重要性・緊急性の低い案件について長時間対応や深夜休日の対応を要求する
  • 契約に無い内容や重要性・緊急性の低い案件について、極めて詳細な調査、著しい短納期、膨大な報告を要求する
  • 金銭、物品、接待などの見返りを要求する
  • 瑕疵過失が無い場合、または瑕疵過失と無関係な場合に、追加サービスや物品を要求する
  • 家事の手伝い、送迎、買い物、チケットの受取など、私的な雑用を要求する
  • 年齢や性別の指定、具体的な人物の氏名を伝えるなどし、合理的な理由が無いのに担当者の変更を要求する

取引先と良好な関係を築くための好事例

厚労省カスハラ対策マニュアルのP43では、『取引先と良好な関係を築くための好事例』として、以下のような事例が掲載されています。いずれも、基本的なことではありますが、低コストで始められ効果的なことだと思いますので、ご紹介いたします。

  • 取引先はパートナー企業、取引先からの派遣従業員はパートナー従業員と呼び、自社従業員と同様に扱っている。
  • 会社として、各取引先にアンケートを実施している。回答企業は無記名とし、「自社の社員が暴言を吐いていませんか」等の設問を設け、問題のある部署にはヒアリングを行うようにしている。
  • 企業の行動指針として、「取引先との関係」の項目を設け、自社従業員に他社従業員への接し方の注意について周知している。
  • 被害者だけでなく、加害者にならないように、コンプライアンスという観点で教育している。また、Eラーニング等を通して商習慣の中で過度な要求がないよう、取引先への伝え方等について指導している。

まとめ

カスハラは、ただでさえ担当者に過大なストレスがかかりますが、BtoB企業間取引の場合は、上記に加え、「得意先だから機嫌を損ねたら大変だ」「もし取引停止になったら社内での評価が下がる」「これは自分が担当者だから」などの理由で、更に大きなプレッシャーがかかります。また、発注側の立場からしたら、受注側が要求に見合うアウトプットをしてくれない場合などは、外注管理も含めて評価されてしまうため、つい過剰な叱責をしたり、不適切な要求をしたり、といったことをしてしまう場合もあります。加えて、BtoB企業間取引でカスハラが発生した場合は、取引額も大きく、取引期間も長く、関係者も多いため、解決に膨大なエネルギーを要することが少なくありません。

そのため、本コラムで解説して来たような検知の仕組みと、組織としての対策を行うと共に、日頃から受発注間で綿密なコミュニケーションを取り、カスハラを発生させず、気付きやすく、相談しやすい関係を作ることが重要です。
また、受発注間で企業規模や企業文化、ノウハウなどが違っていると、それだけで上手く行かない場合もあります。そういった場合には特に、知見やノウハウを持っている専門家にリードしてもらいながら進めて行くことをお勧めします。

本コラムについて具体的な御相談を希望の方は、お気軽に下記からご連絡下さい。

カスハラ、対策、相談
カスハラ、対策、相談

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。