自治体のカスハラ対策マニュアルの作り方|3つのポイントと内容を解説

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中小企業診断士(経済産業大臣登録済み)
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2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)への措置が、改正労働施策総合推進法によって全ての事業主に義務づけられます。
これは、自治体も例外ではありません。

ただし、自治体(都道府県庁、市役所、区役所、町村役場などの地方公共団体)には民間企業にはない事情があります。
それは、職員は「全体の奉仕者」として、相手を選ばずに対応しなければならず、取引をお断りするという選択肢が、そもそも無いことです。

総務省が2025年4月に公表した「地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査報告書」によると、過去3年間に自身がカスハラを受けたことがあると答えた職員は35.0%もいました。
また、同報告書は、厚生労働省の調査で民間企業の労働者が「経験した」と答えた割合が10.8%であることを併記しています。
設問の期間の取り方が調査ごとに異なるため単純には比べられませんが、この調査を比較する限りでは、地方公共団体は民間企業の3倍以上のカスハラを受けていたことになります。

また、法改正への準備について、総務省が2025年11月から12月にかけて全市区町村を対象に行った調査では、回答した自治体の7割超が、カスハラに関する対応指針やマニュアルを「作成していない」または「策定中」と答えていました(時事通信 2026年8月23日)。

本コラムでは、中小企業診断士として、様々な企業・組織へのカスハラ対策を支援してきた立場から、総務省が2026年7月に公表した『「職員向けカスタマーハラスメント対策マニュアル」作成のポイント集』に沿って、自治体がマニュアルを作るときに決めるべきことを、順を追ってお伝えします。

自治体のカスハラ対策マニュアルの作り方|3つのポイントと内容を解説

結論|自治体のカスハラ対策マニュアルで決める3つのポイント

自治体のカスハラ対策マニュアルを作成する時、決めるべき3つのポイントは、以下の通りです。

  • カスハラの定義を自団体の言葉に置き換えること
  • 対応を打ち切る目安を所属ごとに決めること
  • 相談先を管理監督者まで含めて示すこと

総務省のポイント集は、マニュアルの章立てとして7つの章を示しています。
7つの章はいずれも欠かせない要素を扱っていますが、上記の3点が決まっていない状態は、現場の職員を最初につまずかせやすくなります。
本コラムでは、この3点を軸にしながら、ポイント集が示すマニュアルの主な章を取り上げて解説をします。
なお、コラムの順番は総務省ポイント集の章番号順ではなく、現場が迷うと思われる順番にしています。

カスハラの定義を、借り物のままにしない

厚生労働省の指針が示すカスハラの定義は、「顧客等」「労働者」といった民間企業を前提とした言葉で書かれています。
そのまま自治体のマニュアルに載せても、職員は、自分の業務に当てはめにくい可能性があります。

そこで、総務省のポイント集は、この点について言い換えを検討するよう明記しています。
参考として示されているのは、人事院規則10-17(カスタマー・ハラスメントの防止等)の表現です。
具体的な置き換えの文言は、後段でお伝えします。

言葉を置き換える作業は、単なる表現の調整ではありません。
自団体にとって何がカスハラなのかを、担当部署が一度自分の頭で考え理解度を深める、重要な工程です。

対応を打ち切る目安を、所属ごとに決める

ポイント集は、対応打ち切りを検討すべき時間の目安として「状況が膠着してから15〜30分」という数値を示しました。

ただし、この数値には重要な但し書きが付いています。
詳しくは後述しますが、一律の運用をしないよう強く注意を促しています。
そのため、マニュアルに「30分」と書いて終わりにするのではなく、それぞれの部署ごとに、自分たちの業務に合った時間を検討しマニュアルに反映させる必要があります。

なぜ時間の目安が要るのか。
窓口の職員が対応を切りにくいのは、切ってよいかどうかを自分で判断しなければならないためです。

もちろん、内容によっては目安時間を過ぎても誠意をもって対応すべき場合もあります。
しかし、目安時間があれば、曖昧な場合でも職員が「そろそろ上司に相談すべき状況かもしれない」と気付ける可能性があります。
目安時間は、職員を縛るためではなく、次の行動に移る合図としても機能してくれます。

相談先を、管理監督者まで含めて示す

実効性の高いマニュアルを作るためには、窓口で起きたことを誰にどのように伝えるのか、具体的なレポートラインとエスカレーションフローを明示することが欠かせません。

また、その際は、単に人事課の相談窓口を1つ掲載するだけでなく、現場の状況を分かっていて迅速にエスカレーションできるようにすることが重要です。
厚生労働省の解釈通達(指針の運用を示したもの)でも、職員の上司にあたる管理監督者を相談先に含める形が示されています。
詳しくは後段でお伝えします。

2026年10月から、自治体もカスハラ対策の措置義務の対象になる

この義務の根拠は、2025年に成立・公布された改正労働施策総合推進法です。
カスハラ対策について雇用管理上必要な措置を講じることが、地方公共団体の任命権者を含む全ての事業主に課されました。

具体的な措置の内容は、2026年2月26日に公布された厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」で示されています。
自治体も、この指針を踏まえて必要な措置を講じなければなりません。

総務省がポイント集を出した背景

総務省がポイント集を作成した理由について、ポイント集では、カスハラ対策に係るマニュアル等を整備できていない地方公共団体が一定数見受けられることから、各地方公共団体がマニュアルを作成する際の全体構成や主な記載事項、ポイント等を取りまとめた、と解説しています。

この文書は2026年7月31日付の総行女第31号として、各都道府県総務部長および各指定都市総務局長宛てに発出された、地方公務員法第59条および地方自治法第245条の4に基づく技術的助言という位置づけです。

技術的助言であるため、この構成に従う義務はありません。
しかし、国が想定する水準を示したものであるため、実質的な基準として機能することが想定されます。

ポイント集の作成には、総務省自治行政局公務員部女性活躍・人材活用推進室に加えて、民間のコンサルティング会社が関わり、記載例や様式まで踏み込んだ構成になっています。

調査の時点で、7割超の自治体が策定を終えていなかった

前述のとおり、総務省が2025年11月から12月にかけて全市区町村を対象に実施した調査では、回答した自治体の7割超が対応指針やマニュアルを作成していない、または策定中でした。
規模別に見ると、人口3万人未満の小規模自治体ほど未策定の割合が高くなっていました。

厚生労働省の告示が公布された2026年2月26日よりも前であり、ポイント集が出る半年以上前でもあります。
そのため、この記事を書いている2026年9月の状況は、この数字とは変わっている可能性があります。
ただ、調査の時点で、回答した団体の7割超が策定を終えていなかったことは事実です。

このように、対策を策定した団体が3割に満たなかったのは、担当者の怠慢を示すものではなく、何をどこまで書けばいいのかという全体像が、その時点では示されていなかったことが原因の一つと考えられます。
そのため、総務省は、対策の全体像を示すためにポイント集を公開しました。

加えて、小規模自治体には固有の事情もあります。
人事担当が他の業務と兼務している団体では、ゼロから構成を考える時間が取れません。
そのため、ポイント集の7つの章立てをそのまま自団体が作成するマニュアルの骨子に使えることは、自治体や地方公共団体にとって大きな意味があります。

措置義務は10項目あり、マニュアルはその一部を担う

ポイント集は、厚生労働省の指針が定める措置義務を1番目から10番目まで整理し、以下の通り、マニュアルの各章がどの措置義務に対応するかを紐づけています。

  • 方針の明確化(1)
  • その内容の周知(2)
  • 相談窓口の設置と担当者の対応力確保(3・4)
  • 事実関係の確認(5)
  • 被害者への配慮(6)
  • 再発防止(7)
  • 悪質な事案への対処方針(8)
  • プライバシー保護(9)
  • 不利益取扱いの禁止(10)

マニュアルを作ることは、これらの措置義務のうち2番目、すなわちカスハラの内容とあらかじめ定めた対処の内容を労働者へ周知することを中心的に果たすための手段です。
ただし、マニュアルさえ作れば義務を全て満たすわけではありません。
そのため、相談体制の整備や研修の実施と並行して進めるようにしましょう。

一方で、他の措置義務の内容も、マニュアルに記載することで職員へ周知できます。
1つずつ別の文書で果たそうとすると、現場が参照する先が散らばります。
ポイント集の対応関係を、自団体のマニュアルの章立てに引き直して1枚の表にしておくと、監査や議会説明の際にも使えます。

ポイント集が示すマニュアルの全体構成

ポイント集が示す職員向けマニュアルの全体構成は、以下の7つの章です。

  • はじめに(本マニュアルの目的)
  • カスタマーハラスメントとは?
  • カスタマーハラスメントに対する基本方針
  • カスタマーハラスメントに関する相談先
  • カスタマーハラスメントへの対応
  • 職員に対するケア
  • 参考資料

5章は、対応の全体の流れと日頃からの備えを示したうえで、実際の対応を初期対応・対応の打ち切り・事後対応の3段階に分けています。

また、7章の参考資料には、自団体の条例・要綱・基本方針の全文、報告に使う様式、そして掲示しているポスターの画像を載せるとされています。
現物を示すことで、根拠となる条例や要綱の存在、様式を使った報告のしかた、そしてポスターが掲示されていること自体が職員に伝わります。

ポイント集自身が、唯一の正解ではないと明記している

ポイント集には、注目すべき一文があります。
「本資料の内容を唯一の正解とするのではなく、自団体における実情に合わせた対応方法等を検討した上で、職員向けマニュアルを作成しましょう」というものです。

対応方針や対応方法は、団体の規模やカスハラの背景によって異なります。
このことを踏まえて、国が出した手引きが、自らを唯一の正解ではないと述べている点は、実務上大きな意味を持ちます。
実際、汎用的な窓口手続きを想定した場合と、深刻で個別性が高く自宅訪問もありえるような状況を想定した場合では、クレームやカスハラの内容は全く異なります。
そのため、他団体のマニュアルをそのまま写しても、自団体の現場では機能しません。

さらに、部局や職種によって業務の特性や現場の状況が異なることも考えられるため、まず基本的な対応方針を定めた上で、必要に応じて部局・職種ごとのマニュアルの作成も検討するよう促しています。

既存の不当要求行為対策マニュアルは、改廃を検討する

多くの自治体には、暴力団対策や不当要求行為への対応マニュアルが既に存在します。
ポイント集は、既存の不当要求行為対策マニュアルなどがある場合には、改正労働施策総合推進法や厚生労働省の指針の内容と照らし合わせ、既存のマニュアルの改廃を検討するのがよい、としています。

新しいマニュアルを別に作ると、現場には2冊が並ぶため、窓口で判断に迷ったとき、職員はどちらを開けばいいのか分からなくなります。

不当要求行為対策マニュアルは暴力団や政治的圧力への対応を主眼に作られていることが多く、そのままでは、一般の市民を対象としたカスハラの定義や相談体制の要件を満たさないことがあります。
ただし、対応フローや記録様式などのツール類は流用できます。
廃止するのか、章を足して統合するのか、並立させて参照関係を書くのか、予め検討しておきましょう。

カスハラの定義を、自団体の言葉に置き換える

指針は、カスハラに当たるかどうかを3つの要素で示しています。
つまり、以下の3つを全て満たすものが、カスハラに該当するとしています。

  • 顧客等が行うこと
  • 社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
  • 労働者の就業環境が害されると認められること

自治体のカスハラ対策マニュアルを作る際は、この定義を行政の言葉に置き換えます。
ポイント集は、これらを踏まえた記載例を示しています。
具体的には、「職員の職務に係る行政サービスの利用者等からの言動であって、職員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えるものにより、職員が精神的若しくは身体的な苦痛を与えられ、職員の人格若しくは尊厳が害され、又は職員の勤務環境が害されること」といった形です。

「行政サービスの利用者等」には議員も含まれる

ポイント集が参照している人事院規則について、人事院自身が2026年4月15日に示した資料では、「職員の職務に係る行政サービスの利用者等」の範囲が補足されています。
対面であるか否かにかかわらず、職員が従事する職務に関し当該職員に関わる全ての者をいう、というものです。

例として挙げられているのは、職務において応対する行政サービスの利用者、事業者、報道機関、他省庁、地方自治体、議員、外国政府、国際機関などです。
議員が明示的に含まれている点は、自治体の現場にとって重要な意味を持ちます。
ただし、同一省庁内の職員は原則として含まれません。
自治体に置き換えれば、他の官公庁や他団体は対象に含まれ、同一団体内の職員は含まれない、という整理になります。

事業者からの執拗な問い合わせも、他団体からの威圧的な照会、議員を通じた過度な要求も、いずれも現場では「カスハラとして扱ってよいのか」が判断しにくい領域です。
窓口の住民だけを想定してマニュアルを作ると、後者が抜け落ちやすくなるので、注意しましょう。

「職員」には非正規職員を含み、1回の言動でも該当し得る

ポイント集は、「職員」は正規職員だけでなく、非正規職員など全ての職員を含む旨を示すこと、と明記しています。
窓口業務や電話対応は、会計年度任用職員が担っている自治体が少なくありません。
マニュアルの対象を正規職員だけと読める書き方にすると、最も被害に遭いやすい層が保護の外に置かれます。
そのため、対象となる職員の範囲は「はじめに」で明示しておきましょう。

もう1つ、判断の分かれ目になるのが回数です。
該当するかどうかの判断では、言動の頻度や継続性が考慮されます。
しかしポイント集は、強い精神的又は身体的な苦痛を与える態様の言動がある場合には、1回の言動であっても該当し得るものとなる、としています。

現場では「まだ1回だけだから、少し様子を見てみよう」という判断が起きがちです。
そして1回目を報告しないまま2回目、3回目と続き、職員が限界に達してから初めて上司が知る、という経過をたどります。
この一文をマニュアルに載せておくと、職員が最初の1回で相談を上げる根拠になります。

カスハラに当たらないものを、あわせて書く

指針は、留意点も示しています。
例えば、障害者から労働者に対して、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たらない、といったものです。

そのうえで自団体は、同法に基づき、その実施に伴う負担が過重でないときは、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければなりません。
この点をマニュアルに書いておかないと、カスハラ対策が合理的配慮の否定に使われる危険があります。

また、指針は、苦情の全てがカスハラに該当するわけではないとしています。
客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れです。
そのため、行政に寄せられる意見や要望は貴重なものであるという前提を、「はじめに」の中で明記することが重要です。

どんな言動がカスハラになるかを、具体的に示す

厚生労働省の指針は、社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型的な例を、「言動の内容」と「手段や態様」の2つに分けて示しています。
ポイント集は、これを公務現場の概念に置き換えた形で記載例を掲げています。

厚生労働省の指針では、判断に当たって、様々な要素を総合的に考慮することが適当とされています。
具体的には、以下のような内容です。

  • 当該言動の目的
  • 当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • 言動の態様・頻度・継続性
  • 労働者の属性や心身の状況
  • 行為者との関係性

言動の内容が範囲を超えるもの

ポイント集の記載例は、公務現場向けに2つに整理しています。
1つ目は、そもそも要求に理由がない、または行政サービス等と全く関係のない要求です。
具体的には、性的な要求や、職員のプライバシーに関わる要求をすることが挙げられています。

2つ目は、対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求です。
例として示されているのは、法令に違反または逸脱するおそれのある事務の処理を行うことを要求すること、です。
厚生労働省の指針が具体例として挙げていた「契約金額の著しい減額の要求」などは、公務の概念に合わせて再編されています。

この2つ目は、自治体の窓口では比較的起きやすいパターンだと言えます。
「前例があるはずだ」「他の人には認めたと聞いた」といった形で、法令の範囲を超えた処理を求められる場面がこれに当たります。

手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの

こちらは5つに分かれます。
1つ目は身体的な攻撃で、殴る・蹴る・叩く等の暴行、物を投げつける行為、わざとぶつかる行為、つばを吐きかける行為です。

2つ目は精神的な攻撃です。
庁舎の物を壊すことをほのめかす発言や、交流サイトなどインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかす発言が挙げられています。
また、職員のプライバシーに係る情報の投稿、人格を否定するような言動、土下座の強要、盗撮や無断での撮影も含まれます。
さらに、性的指向やジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を、本人の了解を得ずに暴露することも該当します。

3つ目は威圧的な言動です。
大きな声をあげて職員や周囲を威圧すること、反社会的な言動を行うことが挙げられています。
要求の内容が正当かどうかとは切り離して、態度そのものを見る形になります。

4つ目は継続的・執拗な言動です。
同様の質問を執拗に繰り返すこと、当初の話からのすり替えや揚げ足取り、同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけることが挙げられています。

5つ目は拘束的な言動です。
長時間にわたる居座りや、電話で職員を拘束することを指します。
対応の打ち切りを検討する場面に直結する類型なので、マニュアルでは特に具体的に書いておきましょう。

「言動の内容」と「手段や態様」のどちらか一方だけでもカスハラに該当することがある

指針は、「言動の内容」と「手段や態様」のどちらか一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でも、カスハラに該当することがあり得る、としています。

具体的には、要求の内容そのものは正当であっても、伝え方が大声で威圧したりするものであれば、カスハラに該当し得ることになります。
逆に、伝え方は穏やかでも、要求の内容が法令に反するものであれば、やはりカスハラに該当し得ることになります。
窓口では「相手の言っていることは正しいのだから、我慢するしかない」という判断が起きがちです。
しかし、正しさは態度の不当性を打ち消さないことには注意が必要です。

対応打ち切りの目安は15〜30分、ただし一律には運用しない

ポイント集が示した「状況が膠着してから15〜30分」という数値は、報道でも取り上げられました(時事通信 2026年8月23日)。
現場が判断に迷ってきた部分に、具体的な数値がついたためです。

しかし同じページには、その運用を戒める文章が並んで書かれています。
そのため、この数値だけを取り出してマニュアルに書くと、ポイント集の意図から外れてしまう可能性があります。

起点は「状況が膠着してから」であって、来庁時からではない

ポイント集は、対応打ち切りを検討すべき対応時間の目安を、具体的な数値を示して伝えると、職員が次のステップに移りやすくなる、としています。
そのうえで参考として挙げているのが、この「状況が膠着してから15〜30分」です。

起点は「状況が膠着してから」であり、来庁してから30分ではありません。
具体的には、誠意をもって説明を尽くしても相手方が同じ主張や要求を繰り返し行う状態になってから、と読むのが正確です。
マニュアルを作成するときは、職員が躊躇なく、対応打ち切りを想定した上司への相談や、実際の打ち切りを行えるようにする必要があります。
そのため、ポイント集はこの状況を例示したうえで、対応打ち切りの検討を始めるべき場面と判断基準を、具体的に示すよう求めています。

犯罪に該当し得る言動は時間を待たず、退去命令の手順も決めておく

ポイント集は、犯罪に該当し得る言動が生じている場合は、目安として示した時間を待たずに対応を打ち切ってもよい、警察に通報してもよい旨を示すこと、としています。
例として挙げられているのは、暴行、器物損壊、威力業務妨害、脅迫です。

あわせて、通報先の電話番号や、通報時に伝えるべき事項を記載しておくことも求めています。
番号を調べる時間が、職員を危険にさらします。

また、対応を拒否しても、なお相手方の主張や要求が繰り返される場合は、庁舎の管理権に基づいて退去命令を出すことも想定されます。
ポイント集は、庁舎管理規定等の該当箇所を引用し、庁舎管理を所管する部署への連携方法と連絡先を示しておくとよい、としています。
打ち切りに当たっては、明確に対応拒否の意思表示を行うよう伝えることも求められています。
曖昧に言葉を濁すと、相手は打ち切られたと認識しません。

一律の時間で打ち切る硬直的な運用をしない

ポイント集は、次の3点をマニュアルに書くよう求めています。

  • 苦情の性質を見て、カスハラではない正当な苦情まで時間で打ち切らないこと
  • 対応が長引く事情がある場合に、一律の時間で打ち切る硬直的な運用をしないこと
  • 所属ごとの打ち切り時間の検討(この後お伝えします)

正当な理由がある場合の例として挙げられているのは、障害や高齢等の背景により言語化が困難な場合や、複雑なケースのため説明が長くなってしまう場合です。
膠着してから30分が経ったからという理由だけで打ち切れば、行政サービスの利用者の権利を不当に侵害することになりかねません。
3つ目について、ポイント集は所属部署ごとに打ち切り時間を検討することを求めています。
税務の窓口と、児童相談や生活保護の窓口では、必要な時間がそもそも違います。
そのため、全庁一律の数値を配るのではなく、各所属が自分たちの業務に合った時間を決める工程をマニュアルに組み込みましょう。

時間の目安が、そのままでは使えなかった現場の例

総務省が2025年4月に公表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策に関する取組事例集」には、時間の目安を定めた自治体が、その後どうなったかが記録されています。
ポイント集の但し書きが何を指しているのかを、具体的に理解できる事例です。

沖縄県うるま市(人口126,515人・2024年1月1日現在)は、2023年度頃から窓口でのカスハラ被害が顕著になりました。
職員の離職、降任希望、心身の不調が生じていたことを市長・副市長が重く受け止め、2023年8月に対処方法の検討を指示しています。

うるま市が、基本指針とマニュアルを作るまで

うるま市は、総務政策課・行政マネジメント課・職員課の3課6名程度で検討を始めました。
そこに、銀行窓口の対応マニュアル整備や電話対応業務の実績のある民間事業者を、アドバイザリー契約で加えています。

2023年11月に、本庁と出先を合わせた19の課の窓口対応職員へヒアリングを実施しています。
このとき、窓口対応時の課長の対応状況についても率直な意見を聴取するため、課長は極力同席しないよう依頼したという記録が残っています。

そして2024年5月に、「うるま市窓口等対応困難時の基本指針」「窓口等対応困難時対応マニュアル」、そして啓発ポスターを完成させました。
市の基本指針には、対応困難者の定義と、対応困難と判断する際の考え方を置きました。
マニュアルには、通常のクレーム・不当要求行為・犯罪行為の違いを整理したうえで、対応フローと上司へのエスカレーションの基準を定めています。

また、時間の目安は、このうちマニュアルとポスターの2つに記載されました。

庁内向けのマニュアルに対応の基準として記し、窓口に掲示する啓発ポスターにも「窓口相談における6つのお願い」の中で、職員複数名での対応とあわせて「原則30分を目安」と示しています。
なお、この30分の起点については、事例集に記載がありません。

そして2024年度後半、うるま市は再度ヒアリングを実施しました。
ここで出てきたのが、次の声です。

子育て支援と消防では、事情が違う

子育て包括支援課からは、「こういう言葉を聞いたら対応を切ってよい」「30分を過ぎたら対応を終える」というマニュアルは、現場では全く使えないことが分かった、という報告が上がりました。
理由は、保護者の場合、行政の方からつながりを切ってしまうと、こどもへの被害や虐待が心配される特殊性があるためです。

一方、消防の部署では、救急車の進行妨害や現場での暴行・トラブルといった、先ほど触れた「犯罪に該当し得る言動」にあたる事例に加え、救急車内の動画を交流サイトへ投稿するなど精神的な攻撃にあたる事例も挙がっています。

つまり、時間の目安以前に、事案の性質が違っていました。
これらの状況を踏まえて、各現場の様々な事案への対応があるため、各論に当たる部分については今後検討する、と同市は説明しています。

ポスターの時間を、課ごとに変えられるようにした

うるま市が取った対応は、ルールを撤回することではありませんでした。
ポスターの相談時間の目安の部分について、課によって任意の時間を調整して記入できるバージョンも用意し、現場での対応に柔軟性を持たせています。
マニュアルやポスターの活用方法も、各部署に委ねる形にしました。

同市が重要と考えているのは、「窓口は一人で対応しなければいけない」という職員の意識を変え、組織的に対応することです。
市の基本指針とマニュアルの策定により、組織で対応することについての上司の意識が高まったという声や、ポスターが対応困難事例に対する抑止力になったという声が上がっています。

民間企業と自治体で、対応が変わるところ

ポイント集には「公務現場の特性とカスタマーハラスメント」という項目があり、民間企業向けのカスハラ対策をそのまま持ち込めない理由を整理しています。

自治体には、民間企業にはない制約が2つあります。
そしてポイント集は、その制約を認めたうえで、それでも職員が耐える必要はないという結論を示しています。
制約と、職員を守るという方針の両方を書くことが、自治体のマニュアルの難しさであり、要点でもあります。

利用者を選別できず、サービスが途絶すると生命に影響が及ぶ

制約の1つ目として、ポイント集は、民間企業では顧客を選別した対応が可能であることが多いのに対し、公務現場では公平・公正に行政サービスを提供することが求められる、としています。
そのうえで、行政サービスの利用者等を選別した対応ができないことに起因するカスハラが存在することも、公務現場の特性である、と明記しています。
つまり、相手を選ばずに対応しなければならないという構造が、対応の長期化を生むことになります。

2つ目の制約は、サービスを止めたときの影響の大きさです。
ポイント集は、利用者等の権利を不当に侵害しないよう慎重な対応が求められる場合や、サービスが途絶すると利用者等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることに留意するよう求めています。
生活保護、障害福祉、児童福祉といった分野では、対応を打ち切ることが利用者の生命に直結します。

それでも、職員が耐える必要はない

ポイント集は、こういった制約を踏まえたうえで、「一方で、暴言・暴力などの不当な行為を受けた際、公務員であるからといって、職員が耐える必要はありません」と明記しています。

さらに、カスハラにより職員が心身の健康を害したり、対応に過度な時間を費やし、本来の業務に支障を来したりすることで、行政サービスの質の低下を招くことは避けなければいけない、と続けています。
職員を守ることと、住民のためのサービスを守ることは、対立することではありません。

マニュアルの冒頭で明示する4つの方針

マニュアルでは、目的とは別に、次の4つの方針を冒頭にまとめます。
この4つの方針を冒頭にまとめておくと、読者に対しマニュアル全体の方針が伝わり、それ以降の各章が読みやすくなります。

  • 職員を守ることと、住民のためのサービスを守ることは対立しないという考え方
  • 対象となる職員の範囲
  • 正当な意見や要望には真摯に対応するという前提
  • 職員自身が委託先へカスハラを行っていないかという振り返り

カスハラの相談先を、どこに何層で置くか

多くの自治体では、ハラスメント全般の相談窓口が人事課に置かれることが多いようです。
しかし、カスハラへの相談も人事課に一本化すればよいかというと、そうではありません。
実際、窓口でカスハラが起きたときに、現場を知らない人事課に真っ先に電話をかける職員は、多くはありません。

相談できる先を、3つの層で示す

カスハラが発生した場合は、人事や法務などの連絡先を探すよりもまず、発生したその場ですぐに相談することや、現場の状況に精通している上司等に相談することが適切な場合は多いです。
厚生労働省の解釈通達の問12でも、カスハラについて、他のハラスメントの相談窓口と一体的なものとする必要はないとしています。
そのうえで、相談に対応する担当者として、労働者の上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられる、としています。

そこで当社では、相談先を以下の3層で示すことをお勧めしています。

  • その場で声をかける相手であり、所属長や、あらかじめ決めた代行者
  • 所属を離れて相談する先で、カスハラ対策の担当部署
  • 外部に相談先を設けている場合の窓口

外部の専門性を活用する

ポイント集は、外部に窓口を置いているならその連絡先も併せて知らせること、そしていま使っている相談先をそのまま活用しても構わないこと、の2点を挙げています。
ただし、多くの地方公共団体にとっては、現場でトラブルが起きたときに、外部の相談先弁護士などに直接相談できるようなホットラインを構築することは、現実的ではありません。

そのため当社では、1つ目と2つ目の相談窓口を庁内に置き、3つ目として庁議や政策経営会議を相談先とし、そこへ外部の専門家に加わっていただく形をお勧めしています。
そのようにすることで、外部の専門的なノウハウを取り入れられるとともに、自立的に対応できる体制の構築に繋がります。

「該当するか分からない」段階でも相談してよいと書く

相談が上がってこない理由の多くは、職員が「これはカスハラなのだろうか」と判断できないことにあります。
判断できないまま人事課に電話をかけるのは、心理的な負担が大きいものです。

ポイント集はこの点について、カスハラに関して確認したいことや判断に迷うことなど、どのような内容でも相談できること、また、カスハラの発生のおそれがある場合や、カスハラに該当するかどうかがわからない場合であっても、広く相談に応じている旨を周知すること、としています。

つまり、相談の入口を狭めないことが重要です。
具体的には、マニュアルに「カスハラかな、と思ったらお気軽にご相談ください。」と書いておくだけでも、従業員にとって心理的なハードルが下がります。
判断の責任を相談する側の職員から外してあげると、相談は上がってきやすくなります。

相談窓口の担当者が対応できる状態にしておく

相談先を決めても、受けた側が対応できなければ意味がありません。
厚生労働省の指針は、相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例を3つ挙げています。

1つ目は、担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、担当者と関係部門とが連携を図ることができる仕組みとすることです。
2つ目は、あらかじめ作成した留意点などを記載した担当者用のマニュアルに基づき対応することです。
そして3つ目は、担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うことです。

管理監督者を相談先に含めるのであれば、この3つは管理職全員に及びます。
相談を受ける立場になったことを本人が知らない、という状態が無いように注意しましょう。

相談したことで不利益を受けないと明記する

相談先の記載とあわせて必要なのが、以下の2点です。

  • 相談者のプライバシーが保護されること
  • そして相談によって不利益な取扱いを受けないと示すこと

この2点は、それぞれ独立した措置義務として定められているため、どちらもマニュアルに明記しておく必要があります。

厚生労働省の指針は、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、カスハラの相談等を理由として労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、周知・啓発することを例として挙げています。
漏れが無いように、分かりやすくマニュアルに記載しましょう。

日頃からの備えと、初期対応で決めておくこと

ここでは、打ち切りの前段にあたる初期対応と、日頃から決めておくことを取り上げます。

マニュアル5章にあたる部分で、ポイント集は「日頃からの備え」という項目を置いています。
カスハラが発生した際には、「どう対応するか」に加えて、「自身がどこまで対応すべきか」という不安が生じることが考えられる、として、事前に決めておく事項を挙げています。

窓口の職員が抱えている迷いは、対応の技術と同じように、この「どこまで自分の裁量か」という迷いであることが少なくありません。
決まっていなければ、職員はその場で判断するしかありません。
そして、判断を誤り評価を下げられることを恐れて、結局は最後まで一人で相手をしてしまうこともあります。

初期対応の心構えと、複数名での役割分担を決める

ポイント集は、複数名で対応する重要性を示すこと、また具体的にどのような体制・役割で対応するか、所属内で検討し、明確化するよう促すこと、としています。
示されている例は「1人が対応し、1人が記録する」という分担です。

この記録については、できるだけ正確に書き留めておくことが重要であるため、共通様式を作成するとよい、とされています。
対応した職員がその場で書けるよう、項目を絞って1枚程度にまとめておきましょう。

あわせて、以下のようなことも挙げています。

  • 基本的な役割分担を決めておく
  • 担当者が不在の場合の代行者を決めておく
  • 対応場所を選定し安全を確保する
  • 密室での対応は避ける
  • 安易な約束はしない

初期対応そのものについては、最初からカスハラと決めつけず、5W1Hを意識して相手の主張と要求内容・事実関係を丁寧に聞き取ることに留意するよう促しています。
対応に難しさを感じた場合には上司・周囲へ相談することを促し、組織としての対応につなげること、要求内容が他部署の所管に係る場合の連携方法についても方針を検討し示すこと、とされています。

録音・録画のルールと、事前告知の扱いを決める

ポイント集は、録音・録画などの対応は、証拠を残すためだけでなく、事後の対応の検討や検証においても重要であり、カスハラの抑止効果も期待できる、としています。
そのため、録音・録画の方法、相手方への通知方法、データの取扱いに関するルールを団体内で取り決めることが必要です。

録音・録画の事前告知については、職種や現場の状況によっては難しい場面があることも想定されるとしたうえで、可能であれば事前告知をすることが望ましい、としています。
厚生労働省の解釈通達は、個人情報保護法等を遵守した例を2つ挙げています。

  • 「サービス品質の向上」「通話内容の確認」などのためであることを伝えた上で電話を録音すること
  • そして「防犯カメラ作動中」と掲示した上でカメラを設置すること

なお、これとは別に、録音・録画したものを事実関係の確認に使う場合は、個人情報保護法上、団体として利用目的にその旨をできる限り特定し、通知または公表することが重要です。

名札の表記を決める

ポイント集は、その他の留意点として、名札を姓(ひらがな)のみの表記にするなど、自団体におけるルールを踏まえて対応方針を示しておくとよい、としています。

取組事例集には、広島県竹原市の実例が載っています。
同市は2025年1月の新庁舎移転と同時に、名札の記載事項を「顔写真・所属名・漢字姓名・ふりがな姓名」から「所属・ひらがな姓・ローマ字姓」へ簡素化しました。
検討に当たっては県内の他自治体に照会し、姓のみとしている自治体が多かったことを踏まえています。
ひらがなと漢字を併記する案もありましたが、漢字を知られることを不安視する意見があったため、最終的に漢字は記載しないこととなりました。

名札の表記を変えることは、他の対策に比べれば、費用は比較的小さく済みます。

事後対応と、職員へのケア

対応が終わった後については、ポイント集の5章の最後にある「事後対応」と、6章の「職員に対するケア」で解説されています。

事後対応とケアは、次に同じことが起きたときの備えになります。

対応の記録を、次の来庁に引き継ぐ

その場が収まり、担当した職員が止まっていた業務に戻ると、記録を残す時間は後回しにされがちです。

しかし記録がなければ、同じ相手が翌月に来庁したときに、前回の経緯を知らない職員が一から聞き直すことになります。
時間が経てば、前回対応した職員の記憶も曖昧になります。
誰が対応しても同じところから始められる状態を作るために、対応した内容と判断の理由を、その日のうちに残しておきましょう。

上司や管理職も、ケアの対象にする

ポイント集は、カスハラの被害に遭った職員はメンタルヘルスに不調を来すことも考えられるため、心身の健康回復や不安の解消に向けて、すぐに相談できる先がある旨を伝えることが重要になる、としています。

さらに、カスハラは誰もが被害者になる可能性があるため、一般職員だけではなく、その上司や管理職に当たる職員もケアの対象になること、また組織として対応する用意があることを周知しておくとよい、と続けています。

通常、難しい案件を引き取るのは管理職です。
その管理職が相談先を持たないままトラブルを抱え込む構造は、多くの組織で起きています。

厚生労働省の指針が示す6番目の措置義務でも、被害者に対する配慮のための措置を適正に行うことを求めています。
具体的には、管理監督者等が被害者に代わって対応すること、被害者と行為者を引き離すこと、担当者の変更や複数人での対応、配置転換、事業場内産業保健スタッフ等による相談対応などです。

委託先への対応方針も明記する

カスハラ対策は、自分たちが被害者である前提で語られます。
しかし自治体は、指定管理者や業務委託先に対しては発注者の立場に立ちます。
ポイント集は、窓口で理不尽な要求に耐えている職員が、委託先との打ち合わせでは同じような振る舞いを自分の側からしている可能性を、正面から指摘しています。

委託先への言動を振り返り、事案を共有する

ポイント集は、職員自身が委託先等に対して、想定しているサービスを著しく超える要求や威圧的な言動などのカスハラを行わないようにすることも必要である、としています。
そのうえで、職員の言動等がカスハラに該当していないか、各職場で改めて振り返るようにしましょう、と続けています。

自分が被害者の場合には敏感でも、発注者の立場に立った場合の言動は、それがカスハラに該当するかどうか自分では気付き難いものです。
そのため、カスハラの被害者としてだけでなく、加害者にならないように自分たちの行動を見直す機会としても読むことをお勧めします。

首長が、自分の名前で方針を表明する

ポイント集は、カスハラ対策においては首長自らが強い意思を持って取り組むことが重要であるとし、首長も含めた組織全体で取り組んでいくよう求めています。

基本方針の公表方法としては、ホームページへの掲載に加えて、首長からのトップメッセージとして発信することも効果的である、とされています。
方針を対外的に公表することは義務ではありませんが、団体としての姿勢を明確に示すことで、カスハラの防止につながることが期待できるとして、前向きに検討することが望ましいとされています。

よくあるご質問

自治体のカスハラ対策マニュアルについて、実際にいただくご質問への回答をまとめました。

すでにある不当要求行為対策マニュアルは、作り直しが必要でしょうか

基本的には、カスハラ対策マニュアルは新たに作り直すことをお勧めします。
また、2つマニュアルがあると現場が混乱するので、既存の不当要求行為対策マニュアルを修正し、それをカスハラ対策マニュアルとすることがお勧めです。

一般的に、不当要求行為対策マニュアルが想定している相手と、カスハラ対策マニュアルで想定している相手は、重ならないことが少なくありません。
前者は組織的な圧力を想定したものであり、後者は一人の利用者が対象です。
一方、対策やノウハウは両者に共通するものが少なくありません。
そのため、流用できる部分は流用しながら、カスハラに向けた内容を加筆するなどすることが、効率的で効果的なカスハラ対策マニュアルに繋がります。

対応を打ち切る目安は、必ず15分から30分にしなければいけませんか

必ず15分から30分にする必要はありません。
ポイント集は数値を示していますが、同じページで、一律の時間で打ち切る硬直的な運用をしないよう求めています。
また、起点も明確にしておくことが重要です。
具体的には、来庁してから30分ではなく、誠意をもって説明を尽くしても相手方が同じ主張や要求を繰り返す状態になってからの30分です。

そのうえで、この目安時間は、所属部署ごとに変えることもできます。
例えばうるま市では、子育て支援と消防で事情が違うことを2度のヒアリングで確かめ、掲示するポスターの時間を課ごとに変えられるようにしました。

小規模な団体で、相談先を3層に分ける余裕がありません

3層のうち、外部の弁護士へ直接つながるホットラインまで整えている団体は多くありません。
まずは庁内で2層を作るところから始めましょう。

現実的な形としては、その場で声をかけられる所属内の相手と、所属を離れて相談できる人事や法務などの2階層の相談先を明示することです。
そのうえで、3つ目として庁議や政策経営会議を相談先に位置づけ、そこへ外部の専門家に加わっていただく形であれば、専門性を取り入れながら自団体で対応できる体制になります。

大切なのは層の数ではなく、職員が「誰に言えばよいか」を明確に理解し、実際に、いつでも、どんなことでも、気兼ねなく相談できることです。

まとめ|自治体のカスハラ対策マニュアルに必須の3要素

2025年11月から12月の調査時点で、回答した自治体の7割超がマニュアルの策定を終えていませんでした。
総務省はマニュアル作成の全体像を示すため、2026年7月に「職員向けカスタマーハラスメント対策マニュアル」作成のポイント集(ポイント集)を公表しました。

本コラムでお伝えした3つの要素を、あらためて整理します。

1つ目は、カスハラの定義を、自団体の言葉に置き換えることです。
厚生労働省の指針と人事院規則を参照しながら、「顧客等」「労働者」といった民間企業向けの言葉を、自団体になじむ言葉へ直します。
この作業を通じて、担当部署が自団体にとってのカスハラを一度自分の頭で考える機会を与えられます。

2つ目は、対応を打ち切る目安を、所属部署ごとに決めることです。
ポイント集が示した「状況が膠着してから15〜30分」という数値は有力な基準ですが、同じページには、一律の時間で打ち切る硬直的な運用をしないという但し書きが並んでいます。
うるま市の事例が示すとおり、子育て支援の現場では一律の運用が使えず、消防では事案の性質そのものが違っていました。
数値基準と但し書きは、必ずセットでマニュアルに記載しましょう。

3つ目は、相談先を、管理監督者まで含めて示すことです。
その場で声をかける相手、所属を離れて相談する先、そして外部に窓口を設けている場合はその連絡先など、具体的な内容を共有しましょう。
うるま市が2度のヒアリングを経てたどり着いたのは、時間の数値そのものではなく、「窓口は一人で対応しなければいけない」という職員の意識を変えることでした。

マニュアルを作成する際には、現場に配布して終わりにならないように、管理職や幹部職員にも趣旨をしっかり説明し、取り組みに参加してもらえるようにしましょう。

もし、マニュアルの構成や、自団体に合わせた書き方でお困りの場合は、早い段階で専門家へご相談されることをお勧めします。
お近くに信頼できる専門家がいらっしゃらない場合は、当社でも承っておりますので、お気軽にお声がけください。

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