粉飾決算への罰則は中小企業にもあるのか? 経営改善計画の一歩目は決算書から

少し前ですが、はじめてのクライアントに決算書の共有を依頼した時、あっけらかんとした様子で「税務署に出す方の決算書ですか?」と尋ねられたことがあります。当時、私はまだ中小企業診断士資格を取得したばかりだったので、「管理会計と制度会計で2種類の決算書を作っているのか。小さいのにしっかりとした会社だな」などと感心しました。しかし、診断を進めると徐々におかしなところが見付かって、それを先輩の中小企業診断士に相談したところ粉飾決算と判明し、残念ながら支援は中止となりました。

ですが、それから年月が経ったことで、今ならもう少し助言できるかもしれないと思うようになりました。
もちろん簡単ではありませんが、クライアントが真実を打ち明けてくれるならご支援が可能な場合もあります。
本コラムでは、粉飾決算の例と、万が一粉飾決算が発生してしまった場合の基本的な対応について解説をして行きます。

粉飾決算への罰則は中小企業にもあるのか? 経営改善計画の一歩目は決算書から

粉飾決算とは

粉飾決算とは、企業が財務諸表において虚偽の情報を開示することによって、実際の財務状況を隠蔽することを指します。

決算書の本を探すと、真っ先に目に入るのは管理会計の本です。しかし、中小企業においては、管理会計よりもはるかに重要なのが決算書の実態把握であり、本来の収益力をを把握することです。それらを把握できなければ、どんなに管理会計に明るくても、正確な現状把握ができず現実的な改善計画を立てることは不可能です。

中小企業の損益計算書では、典型的には以下の様な粉飾決算の例があります。

売上高の虚偽計上

一番単純な粉飾決算の例が、売上高の架空計上です。

架空売上は簡単ですが、よほど取引先の数が多かったりグループ会社を使ったりできなければ、比較的露見しやすいので、実際には、融通の利く取引先に対して後日のキャンセルを内々に約束した状態で期末間際に一時的に売り上げたことにする、といった対応が多いようです。

架空在庫の計上

売上高は「単価×数量」で求められますが、売上原価は「期首在庫+期中仕入れ-期末在庫」で求められます。そのため、架空の期末在庫を過大に計上すれば、売上原価が圧縮されて、「売上高-売上原価」で求められる売上総利益が拡大します。

資産の過大評価

資産を過大評価することで、財務状況を健全なものに見せかけることも粉飾の手口です。例えば、実際の資産価値よりも高い金額で固定資産を評価し、その差額を利益として計上する、といった手口などです。

負債の隠蔽

負債を隠蔽することで、財務状況を健全なものに見せかけることも粉飾の手口です。例えば、買掛金や未払い給料などの負債を財務諸表に計上しないことで、企業の財務状況を偽装することがあります。

現金の流出の隠蔽履行勧告

現金の流出を隠蔽することで、業務上の経費や私的な支出を財務諸表に計上せず、現金の流出を隠蔽することがあります。

減価償却不足

減価償却不足とは、機械設備などの償却資産の減価償却費を、過少に計上することで、利益をかさ上げすることです。少し分かり難いと思うので、減価償却費の操作を行い償却不足とした場合の、 損益計算書・貸借対照表の各勘定科目の動きについて見ていきましょう。

減価償却費を計上しなかったケースで説明します。

損益計算書

単純化して償却資産が1つしか無いとして、その減価償却分550円を計上しないと、販管費が1,450から900に圧縮される結果、営業損益が▲450の損失から100の利益へと反転します。

貸借対照表

貸借対照表では、資産項目の有形固定資産が償却不足の550だけかさ上げされる一方、純資産の利益剰余金も同額増加します。

結果

減価償却費を操作する前、つまり、正しい決算書と比べると、損益上は営業利益が増加し、貸借対照表上では有形固定資産や純資産が大きく評価されます。

粉飾決算の悪影響

中小企業の場合、大企業や上場企業とは異なり、上場市場からのペナルティーは対象にならない場合が多いです。しかし、比較的小さなマーケットで信用により営業している中小企業にとっては、粉飾決済を行っているという事実が知れ渡ってしまうこと自体が、致命的なダメージになりかねません。

具体的には、以下のような悪影響があります。

民事訴訟による損害賠償請求をされる可能性がある

粉飾決算によって投資家や債権者が損害を受けた場合、損害賠償を請求される場合があります。この時、こじれて法的措置を取られてしまえば、裁判所から賠償を命じられることになりかねません。

信用失墜により経営が悪化する

粉飾決算が発覚すると、新規取引に支障をきたすだけで無く、既存の取引先も失う可能性があります。

金融機関に対しても、よほどのことが無い限り新規借り入れはできなくなりますし、既存の借入も一括返済を求められる場合があります。当然、補助金申請時に判明した場合は不採択になりますし、振り込まれた後に判明した場合、相応のペナルティーを受ける可能性があります。

経営陣の退陣を強いられる

粉飾決算をした企業が取引先、金融機関、地域社会からの信用を回復するためには、ほとんどの場合、その時の経営陣は退陣を避けられません。担当者がノルマ達成のため勝手にやったり、前経営者が行っていた粉飾決算の影響を引きずっていたり、といった場合もあるかと思いますが、それでも、メイン行が全面的に了解してくれるような確固たる理由が無ければ、経営責任は避けられないでしょう。

赤字や債務超過なのに税金を払う必要がある

架空売上などをしてBSを取り繕っても実態の業績は良くなりません。しかし、表面的には業績が良いように見えてしまうため、状況によっては税金の支払いが発生し、キャッシュが流出することになります。

繰越欠損金で相殺できればまだ良いのですが、そうで無ければ、営業キャッシュフローがマイナスなのに更に税金を払うためにキャッシュアウトが発生するのは、企業経営にとって非常に大きな痛手であり、業績を大幅に悪化させます。

粉飾決算はなぜバレるのか?

粉飾決算は、短期的に隠ぺいすることはできても、中長期的に隠し通すことはできないと言われています。

それは例えば以下のような理由からですが、本コラムの読者が取引先の信用調査や自社の内部調査を行う場合にも応用できると思いますので、参考にしていただければ幸いです。

内外からの指摘を避けられない

新規の借り入れを行う時には金融機関に対し決算書類を提出しますし、信用取引の際にも決算書の提出を求められることは少なくありません。2~3回は運良く誤魔化せても、何らかの兆候から不信感を抱かれ徹底的に調べられた場合、プロの目をいつまでも誤魔化し続けることは困難です。

また、内部告発によって露見することもあります。

論理的な異常値を避けられない

1~2期の決算書では分からなくても、5期10期と並べて見れば、特段の理由も無いのに突如利益率が変わったり、在庫水準が変わったり、あからさまにおかしな点が必ず現れます。粉飾をしていなくても異常値が生じることはありますが、そういった場合には必ず証跡を提示できますが、粉飾の場合はそうはいきません。

中長期的には決算書に歪みを避けられない

決算書は毎期の数値を引き継いで作成されるので、一度粉飾したら、それを隠すために次もまた粉飾を強いられ、次第に歪みが大きくなって行きます。また、それを上手く誤魔化せたとしても、例えば環境要因によって業界全体の業績が上下する場合に影響されてないなど、歪みを隠すことは困難です。

実際の情報との差異を避けられない

例えば架空在庫であれば、論理在庫、実際在庫、決算書上の在庫の間に必ず差異が生じます。「●●特別在庫」といった使途不明な名称の在庫があれば、注意する必用があります。また、架空売り上げであれば、実際には売上では無いので、その差異の分が、長期間回収できない売掛金などとして損益計算書上に滞留することになります。

次第に管理が雑になって行くのを避けられない

粉飾決算は通常、それを知るごく一部の人によって行われます。ですから、事業規模が大きくなり、売上、仕入れ、在庫などの数字を細かく把握・管理することが困難になる中、本当の会計数値と粉飾結果の乖離が大きくなって行くと、粉飾側の決算書がただの数字合わせになり、管理が雑になりがちです。その結果、例えば決算書の数値に「1,500千円」「2,000百万円」などキリの良い数字が並んだりして、露見に繋がる場合があります。

金融機関への報告

粉飾決算を行ってしまった場合、企業は速やかに金融機関に対して正確な情報を提供する責任があります。度合いにもよりますが、金融機関に正確な情報を提供しない場合、単なる取引停止だけで無く法的措置を受ける可能性もあります。

粉飾を修正し、正常な経営状態にするためには、金融機関は最も重要なパートナーです。情報をしっかりと整理し、具体的な経営改善計画とともに、金融機関に対し速やかに報告するようにしましょう。

留意点としては、以下の様な事が挙げられます。

速やかな報告を行う

粉飾決算が発覚した場合は、速やかに金融機関に報告することが重要です。

もちろん、曖昧な状態でいい加減な報告をするのはもってのほかですが、一定の事実確認を経た段階で「詳細は調査段階ですが」として、まずは分かっている情報を速やかに伝えましょう。
遅延した場合、その後の協力に深刻な悪影響を与えかねません。

正確な情報を提供する

せっかく理解を得た内容に対し、訂正が生じるようでは報告内容自体の信頼を損ないかねませんし、その後の再建計画にも悪影響を及ぼします。

例えば、前任の担当者が既に退職済みで連絡が着かない場合など、全容が見えないこともあると思いますが、そういった場合でも、何が分かっていて何が分かっていないのか、なぜ分かっていなくていつ分かるようになるのか、といったことを整理したうえで、それぞれについて正確に伝えましょう。

報告書を作成する

金融機関に報告する際には、速報レベルであっても、報告書を作成することが望ましいです。

なお報告書には、速報レベルの場合は粉飾決算の原因、影響範囲、現時点での対応策、次の報告予定時期などは最低限盛り込みます。また、ある程度状況が判明した後は、正確な粉飾の時系列に加え、必ず、改善策や再発防止策を盛り込みましょう。

経営改善計画を策定する

粉飾決算を修正した結果、債務超過が判明したり、営業キャッシュフローが連続してマイナスになっているなど、借入の返済計画に影響が生じるまたは生じる可能性がある場合は、経営改善計画を策定します。

この時、一つの目安として、3年以内に黒字化、5年以内に債務超過の解消、債務超過解消から10年以内に借入金の償還といった数字があります。しかし、上記が達成できることが望ましいのは当然ですが、それは飽くまで目安であり、実際は企業の状況に応じて柔軟に計画を立てる必要があります。いずれにしろ、専門的な知識と客観的な評価が必要なため、計画を策定する際は、信頼できる専門家に相談をするのが良いでしょう。

(注意点)

  • リスケや追加融資などで金融機関の支援を仰ぐなら、経営改善計画は金融機関の同意が不可欠です。よって、検討段階から金融機関とすり合わせし、意向を反映させ、同意を得ながら進めて行きましょう。
    一方的に作った計画を押し付けるような形にならないように、十分な注意が必要です。
  • 経営改善計画の実行により、債務者区分がどう改善するのかを明示しましょう。基本的に、正常先または要管理先以外の要注意先(両者を合わせて正常債権と呼ぶ)にならなければ、改善とは呼べません。
    そのため、いつ・どのように、それらの債務者区分になるのかを計画に表します。

関係者全員からの同意を得る

報告書や経営改善計画を作成したら、債権者全員を一同に集め、いわゆるバンクミーティングを開催し、全債権者の同意を得るようにします。連絡不行き届きで一行だけ残り、「うちは応じられません」となると、せっかく他行の同意を得ても全てが水泡に帰します。そうならないように、メイン行だけで無く取引行全てに対し、事前に経営改善計画を伝え、意向を反映させるなど、丁寧な対応を心掛けましょう。

なお、各金融機関によって、社内稟議の所用期間は異なります。事前に経営改善計画などを伝える際には、バンクミーティングで正式な内容を報告することを伝えて稟議期間も確認し、それを踏まえたスケジューリングをするように注意しましょう。

経営改善計画のポイント

経営改善計画の内容は、企業の置かれた状況や窮境原因によって全く違うため、一概には言えませんが、大きくは以下のポイントを踏まえることが重要です。

コスト削減や財務リストラを中心に

売上の改善は、蓋を開けてみないとそれが本当に達成できるか分かりません。特に、粉飾の発端が業績の低下である場合、それまで様々な努力をしても増えなかった売上が増加する前提で経営改善計画を立てても、絵に描いた餅と見られて評価されるのは難いです。ですから、自社の努力で改善できる財務リストラやコスト削減から始めて行くのが良いでしょう。

具体的には、以下の様なアプローチが有効です。

財務リストラ

基本的な方向性としては、遊休資産を売却して有利子負債の返済原資とすることで、キャッシュフローを改善します。例えば投資有価証券や使って無い土地といった資産があれば、ぜひ売却を検討しましょう。また、売上債権も額が多く管理困難な場合は、いったんファクタリングで負債の返済原資とすることを検討しても良いでしょう。

コスト削減

仕入先が世間相場より高ければ、迷わず相見積もりを取りましょう。また、有利子負債の金利についても、借入の時期その他の理由によって、当時は妥当に思えても今の相場から見れば高い場合があります。そういった場合には借り換えや金利交渉をするのも一法です。

なお、様々なコストカット要素がありますが、従業員の給与調整は、他のあらゆる努力をしたうえで、最後の手段として、従業員にも十分に説明したうえで実施します。安易に給与調整したり、そう見えてしまったりすると、従業員のモチベーションに深刻な悪影響となり、経営改善計画の実現が困難になります。どうしても避けられない場合でも、他にどのようなコスト削減努力を行い、役員報酬を何割カットしたかといった情報を明示しながら、期間限定で協力を呼び掛けるなどの対応をするのがベターです。

売上・利益の増加は保守的に

売上・利益の増加については、最大限保守的に見積もるのが原則です。

具体的には、過年度の実績と成長率をベースに、既に紹介や引き合いが生じている案件や、先行事例を倣うことで確度の高い受注が見込める案件を加味する程度に止めるのが無難です。それ以上、例えば新商品や新市場の売上を加味する場合は、テスト販売の結果や具体的な顧客の声など、根拠情報を必ず添付しましょう。

まとめ

今回、粉飾決算について説明をしてきましたが、何よりも重要なのは、業況に行き詰まりを感じたらなるべく早く改善策を打つということです。ダメージが軽微なうちであれば対策を講じられても、粉飾決算をしてからだと、法的な対応を避けられない可能性もあり、そうなると経営再建か会社清算かを選ぶことはできません。その前に信頼できる専門家に相談し、抜本的な経営改善計画を立て、確実に実行することが重要です。

弊社は、代表が中小企業診断士(経済産業省登録)であり、エキスパートバンク登録専門家(埼玉県商工会連合会)であり、スモール・ミドルのビジネスの専門家です。不幸にして粉飾となった場合だけでなく、早期のご相談により窮境を回避し、勝ち残る企業を共に作るようご支援しますので、お気軽にご相談ください。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。