【実務視点から】コンサルティング契約と業務委託契約の注意点

業務委託契約書

コンサルティングと言ってもその業務内容は多岐に渡りますし、仕事のやり方や成果の納め方は、事案ごとに異なります。

製品という物理的な形で納品完了となるわけではないだけに、クライアントがやってほしいこととコンサルタントがやるべきと考えていることに齟齬が生じ、その結果、クライアントの不満につながることもあります。そのような事態を避けるためには、コンサルティング業務の内容を明記した業務委託契約書を締結することが大切です。

本コラムでは、現役コンサルタントである中小企業診断士による実務視点・ビジネス視点から、このような契約についてポイントを解説します。
なお、正確な法律対応については、弁護士などの専門家にご相談ください。

【実務視点から】コンサルティング契約と業務委託契約の注意点

分かり難い契約形態

コンサルティングに関わる契約が分かり難いという声を聞くことがありますが、これは、契約名称、内容、法的な位置付けが一致していないことが大きな原因になっています。そのため、各論の説明前に、まずは上記について整理したいと思います。

コンサルティング契約、アドバイザリー契約、業務委託契約、派遣契約

まず、コンサルティング契約とアドバイザリー契約については、厳密な切り分けの基準はりませんが、前者はアドバイスに加え一定の実務対応をする場合があるのに対して、後者は一般的に、M&Aや海外進出などの高度専門的な業務を対象に、アドバイスのみに限定してサービスを提供することが多いです。

次に、業務委託契約については、民法の典型契約である請負契約、委任契約、準委任契約の3つを総称して「業務委託契約」と呼ばれます。それぞれの違いとしては、請負契約は物の完成が対象、委任契約は法律行為が対象、準委任契約は事務処理が対象です。そのため、士業法人にコンサルティング契約を依頼する場合は委任契約の場合もありますが、それ以外の、例えば当社が提供しているブランディングや広報PR、コールセンターなどサービス業の改善といったコンサルティングは、全て準委任契約ですし、一般的なBPO(Business process outsourcing)も通常は準委任契約となります。

上記が民法の範囲であるのに対し、派遣契約は労働者派遣法の適用になり、労働力の提供が対象になります。業務委託契約も派遣契約もともに客先で(最近は在宅勤務もありますが)顧客の業務を行っているため、外形的には区別がつきにくい場合があります。

しかし、これを明確にしなければ、少し前に社会問題となった『偽装請負』に該当してしまう可能性があるため、注意が必要です。
ポイントは、仕事の遂行方法です。派遣の場合はクライアント側に指揮命令権があるため、通常、その指揮命令に従って業務を行います。そのため、指揮命令はできる一方、万が一仕事が完成しなかった場合の責任はクライアント側が負担することになります。業務委託の場合はコンサルタントに仕事のやり方を任されるため、契約で一定の範囲に限定してもらうことはできますが、一つ一つ細かに指揮命令ができない反面、成果に対する責任はコンサルタントが負担することになります。

そもそも何のために契約書を作成するのか?

一般的に『コンサルティング契約』と呼ばれる範疇の契約について説明して来ました。しかし、「口頭でも契約は成立する」という話しも聞いたことがあるはずです。口頭でも契約が成立するのであれば、そもそも何のためにわざわざ契約書を作成するのでしょうか?

筆者はそれを、下記のように考えています。

  1. なるべく紛争が起きないようにする
    やるべき事、達成水準、報酬、見直し基準などを明確にする
  2. 紛争が起きた時に、悪影響をなるべく小さく解決する
    リスク負担、ペナルティー、権利関係、準拠法などを明確にする

クライアントとコンサルタントが昵懇で、細かく規定しなくても阿吽の呼吸で物事を進められるのであれば、契約書の隅々にまで神経を使う必要はありません。しかし、企業であれば時間の経過とともに人の入れ替わりもありますし、経営環境も変わります。なので、丁寧にすり合わせをしながら条件を明文化して契約書に落とし込むことが重要です。
また、不幸にして紛争が訴訟などに発展してしまった場合には、基本的に、契約のラベルではなくて、実質的な契約内容で判断されます。『偽装請負』問題が典型例ですが、いくら契約名を「請負契約」としていも、実態が労働者派遣であればそう評価され、派遣業者としての要件を充足していなかったことに対して厳しい処分が下りました。なので、コンサルティング業務の実態を正しく反映し、誰が見ても明確に理解できるような契約書にする必要があります。

このように伝えると、非常に難しく思えるかもしれません。
しかし、上記の目的を抑えたうえで、典型的な項目と個別の検討事項を考えて行けば、最終的な文言などは弁護士の確認を経る必要があるにしても、少なくてもどんなアウトラインが必要かは見えて来るはずです。ネットを探せば様々な雛形が無料で手に入りますが、まずは、今回のコンサルティング契約のアウトラインを見極め、重要なポイントを明確にしましょう。

コンサルティングにおける契約の意義

コンサルタントにコンサルティング業務を依頼する際、契約書を作成することにどのような意義があるのかを解説します。
なお、前述の通りコンサルティング契約とアドバイザリー契約は近しい内容のため、以降は特に断りが無い限り「コンサルティング契約」にはアドバイザリー契約も包含するものといたします。

コンサルティング契約とは

コンサルティング契約は、外部のコンサルタントに対して、クライアントの経営課題の解決策の提案や相談に応じてもらえるよう求めることや、実際に解決策を実行してもらうことを目的とする契約です。コンサルティング契約は、目に見えない無形のサービスの提供に関するものであるため、当事者間において、成果地点の食い違いが生じやすいという特徴があります。

例えば、クライアントは、提案や相談だけでなく、具体的に実施する際のサポートまで求めているのに、コンサルタントの認識としては、提案したり、相談に応じたりするだけで、実際の実施についてはサポートしないとの認識であることもあります。
また、提案にしても、クライアントは、具体的なレポートや資料を求めているのに、コンサルタントは口頭で説明するだけで済ませてよいと考えているかもしれません。

このようにコンサルティング契約は、物理的な製造物を制作する製造委託契約とは異なり、何をもって成果とするのかがあいまいとなりやすいだけに、成果地点を明確に定めることが大きな目標の一つになっています。

コンサルティング契約では内容の明確化とリスク管理が重要

成果地点を明確に定めるためには、定量化できることは定量化し、定性的な要素は解釈にブレが生じないように例示するなどし、契約内容に反映させます。また、それらに対応したリスクの取り扱いについてもどのように管理するかを定めます。

内容の明確化

経営課題解決のためにノウハウを持つ人材が必要な場合、内部で育成する方法と外部に委託する方法があります。

内部で育成する場合は、長い育成期間とコストがかかる上に、ノウハウがないと手探りでやらなければならず、失敗するリスクも高くなります。そんな時は、外部のコンサルタントに委託すれば、多少コストはかかるものの時間やノウハウを買うことができるため、実装までの期間が大幅に短縮できます。
業務委託契約書で基本的な内容を定めた上で、以来業務のボリュームによっては、個別契約書、発注書と発注請書、SLAなどで更に具体的な内容を特定して行きます。

なお、将来的な内製を前提にコンサルタントに依頼するのであれば、そのことも明確に定めた業務委託契約書を交わすことが必要です。そうしなければ、コンサルタントにとってはノウハウの習得と同時に契約終了となった挙句、自分と競合してしまう可能性があるため、ノウハウを出し惜しみすることになりかねないことに注意しましょう。

リスク管理

経営陣は、重要な経営課題に直面した際に、外部の専門家の意見を求めずに独断で行動した結果、会社に損害を与えてしまうと、会社に対して損害賠償義務を負ってしまうリスクがあります。このような善管注意義務違反回避のために、外部のコンサルタントに経営課題への関与を求めることになります。

一方で、コンサルタントが経営部門に深く関わることにより、企業秘密や個人情報などの漏洩という新たなリスクが発生します。よって、それらの情報を貸与される場合などは、NDA(秘密保持契約)を締結するほか、業務委託契約の中でも、ソフト面(運用)とハード面(物理)の両面から情報漏洩の対策を講じるように定める場合もあります。

契約書を提示しないコンサルタントは怪しい

中には、一回限りのコンサルティング契約で終わらせるつもりだから、契約書を交わす必要はないと考える方もいるかもしれません。しかし、契約書を交わさずに、外部のコンサルタントにクライアントの経営課題への関与を求めることは大変なリスクを伴います。

契約書で成果地点を明確に定めていなければ、悪徳なコンサルタントの場合、いい加減なレポートを提出して、高額な報酬を請求してくるかもしれません。企業秘密や個人情報の漏洩の危険もあります。
まともなコンサルタントであれば、上記のようなリスクがあることや自分が責任を問われる可能性もあることを承知していますから、求められなくても契約書を提示して、どこまでサービスを提供するのか明示し、自ら守秘義務を宣誓するものです。

契約書を提示しない時点で、そのコンサルタントの能力には疑問符が付くと言ってよいでしょう。

業務委託契約とは(準委任契約とは)

前述の通り、コンサルタントと結ぶコンサルティング業務契約は、準委任契約という形で締結されることが多いです。この準委任契約と他の契約との違いについては前述しましたので、ここでは注意が必要なポイントついて解説いたします。

業務委託契約の注意点

注意したいのは、請負契約ではコンサルタント自身が仕事をする必要はなく、下請に出すこともできる点です。そのため、コンサルタントが直接やることに意義がある仕事や、企業秘密等の情報の漏洩を懸念する場合は、請負契約を選択すべきではありません。

コンサルティング契約は、業務の処理をコンサルタントに委託する契約です。売買契約などの法律行為ではなく事務処理についての委託であるため、前述の通り民法上は「準委任契約」に位置付けられています。
また、再委託を禁止することもできるため、コンサルタント本人に取り組んでもらいたい場合や情報の漏洩防止の観点から情報共有者を制限したい場合に有効です。

コンサルティングの業務委託契約書に記載する項目

共通的な項目としては、次のような項目が挙げられます。

コンサルティング業務の内容と範囲

ポイントは、単に「コンサルティング業務」と書くだけでなく、その内容が客観的に分かるように具体的に記載することです。
業務内容が流動的で、具体的に記載することでかえって実態に合わなくなってしまう可能性がある場合には、最低限やって欲しいことを契約書内に例示したり、『業務細則』など別紙にしたり、個別の発注書で都度都度依頼する場合もあります。

コンサルティング業務の提供方法

レポートの形で作成して手渡すのか、単に相談するだけなのか、提供場所は客先なのかオンラインなのか、メールや電話の相談は含むのかなどの点を具体的に記載します。

報酬の支払い

報酬額の金額や、計算方法を示しておきます。
また、支払条件、支払時期、支払い方法や、減免条件なども併せて記載します。

経費の支払い

経費、雑費、交通費、出張費、宿泊費その他、コンサルティング業務遂行のために発生する経費についての取り扱いを定めておきます。

契約期間

継続的なコンサルティング業務の場合は契約期間を明確に示し、更新があるのかどうかやその条件も記載します。また、中途解約の条件(何か月前までに通知するのかなど)

再委託の可否

コンサルタント本人に業務をやってほしい場合は、再委託を禁止する。又はクライアントの書面による同意を必要とする旨を記載します。

検収

検収基準と、それに合わない場合の修正について定めます(修正回数など)。

成果物の利用と知的財産権の帰属

成果物が文書の場合は、原則として、作成したコンサルタントが著作権と著作者人格権を有していることになります。そのため、クライアントに権利帰属させたい場合には、予め契約書条でクライアントに著作権を移転する旨を定めると同時に、著作人格権を行使しないように定めます。

秘密保持

コンサルタントがコンサルティング業務上知り得た情報についての守秘義務を定めます。
なお、コンサルティング業務の内容によっては、クライアントがコンサルタントの営業秘密(ノウハウ)を知る場合もあるため、秘密保持契約がコンサルタント側だけでなくクライアント側にも適用されるように、相互主義となるようにしましょう。

契約の解除

契約解除できる場合について定めます。また、契約期間の途中で契約解除する際の報酬の精算方法や違約金が発生するのかについても定めます。

なお、コンサルタントの側からしたら、突然契約が終了するリスクがあることは困ります。そのため、「即時解約可」などあまりにもクライアントに有利な解約条件を設定すると、報酬額が跳ね上がる可能性があるので、注意しましょう。

損害賠償

情報漏洩や債務不履行などがあった場合に備えて、損害賠償義務が生じる旨とそれに異議申し立てはしないことなどを記載しておきます。

反社会的勢力の排除

クライアントとコンサルタントのどちらも、反社会勢力とのつながりがないことを宣誓するための条項を定めます。

合意管轄・準拠法

コンサルティング契約に関し争いが生じた場合、どの裁判所に訴えを起こすのかについての定めです。また、海外のコンサルタントとの契約では、どの国の法律に従うのか(準拠法)の定めも必要です。

業務委託契約書と発注書および発注請書との違い

業務委託契約書は、一般的には、取引における基本的な事項を記載していることから、取引基本契約書として位置づけられています。つまり、クライアントとコンサルタントの基本的な取引関係を定めることが目的です。

固定的、短期的、小規模なコンサルティング業務なら、業務委託契約書内に必要事項全てを記載することが多いです。しかし、流動的、長期的、大規模なコンサルティング業務なら、基本的な事項は『業務委託基本契約書』として定め、具体的な仕事の内容や報酬額、納期については、別途、『発注書』と『請書』、または前述のように『業務細則』と言った形で定めることが多いです。
一回限りの取引であれば、発注書、請書だけを交わせばよいと考える方もいるかもしれませんが、情報漏洩や反社会的勢力の可能性など様々なリスクを考慮すると、基本的な条項は『業務委託契約書』として整理しておき、締結できるようにした方がよいでしょう。

SLA(サービスレベルアグリーメント、サービス水準合意書)の位置付け

コンサルティング業務では、単に成果物を提供してもらうとか、相談業務に応じてもらうだけでなく、当然、その品質も求められます。しかし、コンサルタントの品質は目には見えないため、どういったレベルの対応をしてくれるのか、事前には正確に把握できません。

例えば、相談したのにコンサルタントの回答が「分かりません」の一言だけだった。だけどクライアント側が報酬をきっちり支払わなければならないというのでは、不満ですし、コンサルティング契約を締結している意味がありません。
そこで、コンサルタントの仕事に対して一定の水準を求めるために、依頼内容の範囲が広い場合いは、業務委託契約書とは別に、SLA(サービスレベルアグリーメント、サービス水準合意書)を締結することがあります。この中で、稼働時間、訪問回数、会議体への出席、レポートの要否など、コンサルタントに求める事項への関与水準を定めます。

またSLAでは、コンサルタントのサービスレベルを規定すると共に、その水準を下回った場合には報酬額を減額する等の調整ができるように定めを設けておくと良いでしょう。

業務細則で定めること

業務委託契約書では、仕事のやり方はコンサルタントに任せるのが一般的ですが、業務フローや作業手順、レポートラインなどをクライアント側で指定したい場合もあるでしょう。そのような仕事のやり方が広範だったり流動的だったりする場合は、業務委託契約書から切り出して『業務細則』という形で、詳細なルールを定めることがあります。

契約書作成のステップ

コンサルティング契約書のひな型は、ネット上でも無料で入手できることもありますが、一般的な内容に限られ、具体的な業務やコンサルティングの内容に照らし合わせた時、全てカバーされていることはほとんどありません。
そのため、以下のようなステップで自社の事業環境やコンサルティング契約にに含める情報を、契約書に反映させて行きましょう。

業務内容を特定する

コンサルティングと言っても、その内容は多岐に渡ります。
例えば、

  • 売上拡大や教育制度構築など、特定の経営課題に対してコンサルタントの力を借りたい。
  • 新規事業の立ち上げに際して、その分野の専門知識を持つコンサルタントの力を借りたい。
  • 事業承継やM&Aなどゴールが明確なプロジェクトのためにコンサルタントの力を借りたい。
  • 日常的な経営面のアドバイスをコンサルタントに求めたい。
  • 金融機関やクライアントに求められたため、クライアントの参画が必要になった。

など、様々なものがありますが、前述の通り、ネット上で無料で入手できる雛形は通常、上記の様な具体的な内容を全て網羅するような契約条項はありせん。

時々、状況に応じて柔軟に(自社にとって都合よく)使いたいということで、契約書の内容を「甲は乙に甲の経営する会社に関するコンサルティング業務を委託する」「乙は甲の依頼に対し最善の努力により対応する」といった、曖昧な内容にする例を目にすることがあります。
しかし、こういった曖昧な内容にしておくことは、個人的には賛成できません。このような曖昧な内容では業務内容を特定していないも同然です。自社にとって都合よく使おうと思えば、自然、力関係を利用してゴリ押し・無理強いすることになりますが、下請法に抵触する可能性もありますし、コンサルタント側が訴訟覚悟で業務を放棄した場合、クライアント側の事業も大きく停滞することになります。

前述の通り紛争を回避するためにも、クライアントとコンサルタントの双方の理解に齟齬が無いように明確かつ具体的に記載することが重要である、そうすることが結局、万が一トラブルが生じた場合にも被害を最小化することになります。

業務内容に合った契約形態を選択する

業務内容の特定は、契約の法的な性質を特定するためにも重要です。
前述の通り、契約書の法的な性質は、ラベルの名前ではなく実態により特定されます。そのため、例えば、コンサルティング業務の成果として具体的なレポートの提出を求めたり、ウェブサイトの立ち上げを求めたりするのであれば、業務委託契約と銘打っていても、法的には請負契約と解される可能性が高くなります。そして、請負契約であればコンサルタントには仕事完成義務があり、下請に出すこともできることになります。
一方、準委任契約であれば、コンサルタントは、委託された業務のために最善を尽くす義務はあるものの、仕事の完成義務はありません。最善を尽くしたものの残念ながら要望に答えられませんでしたと言う結果になっても止むを得ない訳です。ただ、基本的に、第三者への委託は認められず、コンサルタントが自ら業務に当たらなければならない点が大きなポイントです。

具体例を挙げると、当社の行っている広報PRのコンサルティングの場合、どんなに緻密で戦略的なプレスリリースを配信しても、ロシアのウクライナ侵攻や解散総選挙など、社会的インパクトのより大きなニュースが重なってしまえば不発に終わることは避けられません。そのため、当社のコンサルティング契約書は基本的に準委任契約としております。

なお、契約書の法的性質がラベルではなく実態により特定されるとしても、当然ながらそれぞれの契約にはそれぞれの注意点があります。そのため、実態に即した契約形態を選ばなければ、契約書が不完全なものになり、いざという時に火種となる可能性が高まります。
そのようなことが無いように、最初から実態にあった契約形態を正しく選択しましょう。

SLAと有機的に連動させる

SLA(サービスレベルアグリーメント、サービス水準合意書)は、主にIT業界で利用されている契約です。
例えば、レンタルサーバー運営会社であれば、
「サービス稼働率99.99%を目標とする」
「メンテナンス時間を除き24時間365日稼働することを約束する」
と言ったようなSLAを定めた上で、サーバーがダウンして、サイトが稼働しない時間が生じてしまった場合などは、その分、返金する形で対応するわけです。

コンサルティング業務でも、SLAを定めることが増えています。
コンサルティング業務は、サービスの内容や品質が明確でないために、トラブルの原因となることがあります。
クライアント側としては、高いコンサルティング料金を支払って業務を委託する以上、期待するサービスレベルがあるはずです。そこで、SLAにより、一定の水準を求めるわけです。

SLAを定めることは、クライアント側だけでなくコンサルティング側にもメリットがあります。
クライアントとしては、希望する品質のサービスを享受することができ、品質を下回る場合は、報酬を減額できます。
一方、コンサルティング側としても、提供すべき業務のレベルはもちろんのこと、その範囲を明確にできるため、委託者が求める品質の業務を履行したかどうかの基準とすることができるわけです。SLAの範囲を超える仕事を求められた場合は拒否できますし、別途報酬をいただいたうえで仕事することができるわけです。

なお、このSLAは、必ずしも別紙にする必要はなく、シンプルな内容であればコンサルティング契約に包含してしまっても問題ありません。

キーパーソンの特定

コンサルティング契約は、特定のコンサルタントの知識や経験に対して対価を支払う意味を持つことが多いでしょう。そのような場合は、契約書には、原則として再委託を禁止する条項やキーパーソンの特定に関する条項(キーパーソンに作成や監修に当たらせるという内容)を盛り込むようにします。

リスク負担は平等になっているか

業務委託契約においては、締結期間が長いほど、リスクも多くなります。
様々なリスクが生じた場合に、クライアントとコンサルタントのどちらが負担するのかは、契約書内で定めるか、別途、リスク分担表を作成して取り決めするべきでしょう。

業務委託契約上のリスクとしては次のようなものが考えられます。

  • 契約リスク……契約の瑕疵に伴うリスク
  • 業務開始遅延リスク……業務開始の遅延に伴うリスク
  • 税制や法令変更リスク……税制や法令変更に伴う費用の増加
  • 第三者賠償リスク……業務に起因する事故や訴訟
  • 物価変動リスク……物価変動による費用の増加
  • 性能リスク……要求水準の未達や、要求水準の変更による費用の増加
  • 業務の中止に伴うリスク……業務放棄、経営破綻、債務不履行等
  • 個人情報漏洩リスク……個人情報の漏洩に関する損害賠償等
  • 執務環境整備リスク……業務遂行上、必要な備品及び消耗品の負担
  • 文書取扱リスク……発信物の誤送、受信物の不伝達・伝達、遅延によるリスク
  • 労務災害リスク……業務中、通勤中の災害に伴うリスク
  • 不可抗力……天災等による被害に対する費用の負担
  • 需要変動リスク……需要が供給体制を上回る、または投資を下回る、などのリスク
  • 環境変動に伴うリスク……新製品や新規参入で受発注時の前提が崩壊するリスク

基本的な考え方としては、クライアント側に責任がある場合はクライアントの負担、コンサルタント側に責任がある場合はコンサルタントの負担とすることになります。しかし、肝心の「責任の所在」がどちらにあるのか様々なケースがある中で認識を一致させるのは簡単ではなく、一方、それが一致しないままではイザ!という時に揉める可能性があります。
契約書の内容に対する認識がなかなか一致しない場合には、時間はかかりますが、具体的なケースを基にリスク負担や理由を検討し、しっかり議事録に残して行くのが一法です。そのうえで、一概にどちらの責任と言い切れない場合は、クライアントとコンサルタントのどちらかに重くなり過ぎないように平等に負担とすべきでしょう。

契約書をまともに作成しなかったために失敗してしまう事例

例えば、ひな形を利用しただけで、コンサルティング業務を委託するというあいまいな契約だった場合や、そもそも契約書を締結しなかった場合は、次のようなリスクがあります。

コンサルタントがまともに業務を行ってくれない(ように見える)

コンサルティングしてもらいたい内容があいまいだったり、重要な要素について実施水準や達成基準を定めていない場合、コンサルタントが提供する業務の品質は安定しないこともあります。これは決してコンサルタント側が悪質な場合だけでなく、コンサルタント側からしても、そもそもやる事や実施水準・達成基準が分からなければ、なかなか対応できません。
困っているからと言ってそのような曖昧な状態でコンサルティングを依頼してしまっては、最悪の場合、コンサルタントに業務委託した意味がなくなってしまうことになりかねません。

別料金を求められてしまう

例えば、クライアントとしては、契約の範囲内の業務を委託したつもりでも、コンサルタントから、その業務をやるには別途費用と報酬が必要になるといった形で、追加の支払いを求められてしまうこともあります。

要望通りに仕事をしてくれない

例えば、クライアントとしては、詳細なレポートを作成してほしいのに、コンサルタント側が口頭で説明を済ませて、レポートの提出までは求められていないとして、提供を拒否することもあります。

契約書の失敗例とその回避例

WEBサイトのリニューアル結局

東京都のA団体では、自社のWEBサイトをリニューアルする契約を約90万円で締結しました。
筆者はたまたま別な支援で接点があったのですが、発注+支払いの後、その内容について相談を受け、契約書を見せて貰ったら、ネット上から無料で入手できるような業務委託契約書をそのまま使っている状態で、開発会社の体制や要件定義など、WEBサイトの開発に必要な要素が全く含まれていませんでした。 また、何より問題だったのは、その契約が請負契約ではなく業務委託契約だったため、開発会社に成果物の完成義務が無い契約になっていたという点です。
どうやら、A団体の幹部が友人の開発会社に声を掛けて発注を進めたとのことで、数か月後、その幹部が離任したのを境に開発会社はほとんど音信不通の状態となってしまいました。A団体は一応クレームを入れたようでしたが、そもそも要件定義もなかったため、全くニーズに合わない低品質のWEBサイトのフレームを渡されるだけで、結局、リニューアルを諦めざるを得ませんでした。
また、費用の返還も検討したようですが、それも、完成義務の無い業務委託契約だった未決や、一応はWEBサイトを納品されていることで、相談した弁護士からは費用倒れの可能性が高いと言われたため、諦めたようです。

本件の場合、弁護士にもう少し早く相談していればここまで酷い結果にはならなかったと思いますが、それ以前の問題として、要件定義ができなかったことや発注プロセスが甘過ぎて幹部の独走を許す体制になっていたことが大きな問題です。このように契約書は、単に文面の辻褄が合えば良いというものではなく、それを構築し審議する社内体制と一体不可分のものであるため、そういった体制が弱いと感じる場合には、経験のあるコンサルタントの助言を仰ぐことをお勧めします。

人材サービス事業者の業務委託契約の場合

東京都の人材サービス業B社では、クライアント企業との契約更改時にコンサルティングのご依頼をいただきました。

B社とクライアントとの契約内容は、毎月クライアントの発注人数で受注し、その人数でサービスレベル達成を目指すというものです。単価はB社の希望が通り、弁護士の助言を得ながら契約書の草案作成に着手するなど、一見順調な交渉に見えました。
しかし、改めて清算条件を確認させていただくと、『サービスレベル(%) = 処理件数 ÷ 発生件数』を前提に、『請求額 × サービスレベル』が清算金額になることが分かりました。これでは、クライアントの発注人数が過少で、その人数で処理できる数以上の件数が発生してサービスレベルが下がった場合の責任までB社が負い、コントロール不可能なリスクを背負い込むことになります。そのため、筆者からは清算条件を『発注人数に対する充足率』と『案件処理のパフォーマンス』に変更するように提案し、結果、契約書案の修正交渉となりました。

両社に共通した注意点

法律の専門家であっても、リーガル視点でのリスクチェックはできてもビジネス視点での理解が足りないなどの理由により、具体的なビジネスシーンや業界の暗黙の常識がイメージできず、潜在的なリスクが洗い出せないことはあります。また、本来はビジネスオーナーである事業者自身がそういった視点でチェックできるのが最良ですが、発注プロセスや体制が不十分だったり、新規事業の場合はそもそも知見が無かったりで、幾重にもチェックしているはずなのに、後になって「こんなはずじゃ無かった」となることもあります。

ですから、新規性や専門性が強い、契約当事者の利害が対立しやすい、他の相手に比べ交渉に大きなパワーが必要、利害関係者が多い、といった場合には、弁護士によるリーガルチェックだけでなく、その分野に強いコンサルタントの知見を借りることを検討するのが安全です。

まとめ

コンサルティング業務の内容は多岐にわたる上、クライアントが求めている業務内容もそれぞれ異なります。それだけに、クライアントが求めている業務内容に合わせる形で契約書を作成し締結することが重要になります。

契約書作成のポイントは、下記の2点です。

  1. 基本的な条項を漏れなく反映させる
  2. そのコンサルタントへの依頼背景や依頼内容を正しく反映させる

前者については、予め雛形を用意しておくことで、効率的に対応できるようになります。しかし、それだけではクライアントの求める業務をコンサルタントに行ってもらえない可能性もあるので、必ず、依頼内容を自社で具体的に整理したうえで、反映させるようにしましょう。

なお当社では、当社の支援内容を反映したコンサルティング契約書やNDA(機密保持契約書)を用意し、必ず、契約締結前にご確認いただいております。また、実際の契約締結においては、必要に応じて業務内容を反映させております。
締結した業務委託契約書やNDAに基づいて対応しますので、ご支援の内容を明確にし、クライアントのリスクを最小限に抑えることができます。

ご契約は慎重に、ご遠慮無く契約書ひな形の提示をご依頼くださいませ。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。