自治体における広報の役割、やるべきこと

自治体における広報は、行政施策の方針やビジョンを地域住民に伝える役割があり、近年は広報に力を入れる自治体が増えてきました。

自治体を取り巻く環境が時代とともに大きく変動する中で、自治体広報においては、紙媒体の広報誌を主軸としつつも、ホームページやSNSなど広報メディアも多様化しています。さらに、人口減少時代を生き抜くために、地域住民だけでなく地域外にも目を向ける自治体も増えています。

ここでは、自治体における広報の役割と、自治体職員が備えるべき広報力についてまとめました。

自治体における広報の役割、やるべきこと

自治体の広報に求められる3つの役割

自治体には広報担当者がいて、自治体PR活動の中心となります。
まずは、自治体広報における役割として主な3つをご紹介します。

地域住民に正しい情報を伝える

自治体広報の一つ目の役割は、「地域住民に正しい情報を伝える」ということです。

地域住民に正しい情報を伝え、自治体の説明責任を果たすことは、広報の大きな役割です。

自治体が地域住民に向けて発信する情報には、自治体の行政施策だけではなく、取り扱うサービス、社会生活に役立つ情報、災害など有事の際に必要となる情報、自治体の行事やイベント情報など多岐にわたります。

どのような情報であっても、対象となる地域住民に、自治体が行う政策や施策について正確かつ分かりやすく伝えることが重要です。

自治体の情報を正しく伝えることが、自治体と地域住民を結び、良好な関係性づくりにつながります。

地域住民の関心や参加を高める

自治体が行う行事やイベントなどの情報を地域住民に伝え、参加を促すことも自治体広報の役割です。その自治体が行おうとしている政策や施策が、地域住民の暮らしにどのような影響を与えるのかを説明することにより、行政サービスの利用促進、必要な手続きの遂行、必要な行動などを促すきっかけとなります。

地域外に自治体の魅力を発信する(シティプロモーション)

地域外の人々に自治体の魅力を伝えるのも自治体広報の役割です。

広報によって自治体の取り組みや成果、自治体の魅力、他の自治体との違いをアピールし、その地域の住民のみならず、観光客、地域外の人々の興味を引き、自治体の活性化につなげていくことが求められます。

自治体広報が実践するべきこと

上記3つの役割に対して、実践すべきことをご紹介します。

「正確性と分かりやすさ」にこだわること

自治体が発信する情報は、公が発信する情報であることから、それが真実で信頼性の高い情報であると認識されます。このため、広報の内容は、正確性および信頼性を確保する必要があり、自治体の広報担当者にとって、物事を正しく伝える国語力・語彙力は必須スキルといえます。

以下のようなポイントがあります。

  • 情報の信頼性や、分かりやすさを高める
  • データや事実に基づいた情報を提供する
  • 正しく伝えるために専門用語や難解な表現を避ける

一般社団法人共同通信社が刊行する「記者ハンドブック」は、新聞記者が用いる日本語のルールブックとして知られています。自治体広報のような役割の方は、読み手にとって分かりやすい表記を行うためにもぜひ参考にすると良い書籍です。広報における分かりやすさ、表記ゆれを防ぐための必読書と言えます。

なお、広報誌においては、分かりやすい表現を用いることに加え、写真やイラストを使って目をひく紙面づくりを心掛けると良いでしょう。他の自治体の広報誌も参考に、自分が読みやすいと感じた紙面構成を参考に取り組むことが一番の早道です。

対話型、双方向性の情報発信

自治体と地域住民が協働して地域づくりを行おうとする場合、自治体のホームページや広報誌だけでなく、インターネットやSNSなどさまざまなメディアを活用して、政策や施策に関する情報を発信することが求められます。

広報誌やホームページを使った情報発信は、情報発信者である自治体が、相手である地域住民に情報を伝える「一方向の情報伝達」となります。対して「双方向性の情報伝達」とは、情報発信者と情報受信者との情報のやり取りが双方向のかたちをとるものを指します。自治体の施策を地域住民に伝えるだけでなく、地域住民から自治体に対して地域の取組や困りごと、その解決策を提案するなど双方が情報の発信者かつ受容者となり、自治体と地域住民の相互理解をしていくことができます。互いに影響を与え合い、双方が変容していく相互作用が期待されます。

また、地域住民との双方向性の情報伝達を行うためには、地域住民が実際に行動を起こしやすいような環境を整える必要があります。その手段として、自治体の行事やイベントは、ワークショップなどの対話的な取組とすることや、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、スマホアプリなどデジタルツールの活用があげられます。総務省の「令和2年版情報通信白書」によると、個人のインターネット利用率は約9割にものぼります。インターネットやSNSの利用率はすべての年齢層で上昇し、世代間の差が縮小してきています。

SNSでは、自治体の情報発信に対し、地域住民が気軽に賛同したり意見を述べたりすることができ、双方向性の情報伝達を行いやすいツールと言えます。

まとめると、以下がポイントとなります。

  • 双方向性の情報発信を行い、相互作用を強化する
  • SNSやアプリなどのデジタルツールを活用する
  • イベントではワークショップなどの対話的な取り組みを行う

他の自治体との差別化となる違い・魅力を見つけ情報発信する

地域外への自治体の魅力発信の手段として、近年では、多くの自治体でシティプロモーションが積極的に行われるようになりました。

シティプロモーションとは、自治体が行う「宣伝・広報・営業活動」の総称を指します。

地方の人口減少に歯止めをかけるために、地方では「魅力的なまちづくり」に力を入れる自治体が増えています。そして、自治体の魅力を宣伝して、多くの人に知ってもらわなくてなりません。そこで重要視されているのが、シティプロモーションです。

シティプロモーションにより、自治体のイメージアップと地域ブランドを確立。観光客の増加と地域外からの人口流入を図る。

一連のPR活動が地域の活性化につながることから、自治体では、「わがまちの魅力」を情報発信することが重視されています。

自治体の魅力の発信に効果的なツールとして、民間企業と同様、多くの自治体でSNSが利用されています。特にInstagram(インスタグラム)は、画像や動画を中心としたSNSのため、文字では伝えきれない情報をビジュアル面で発信できます。また、インスタグラムは自治体のホームページ(PRページ)との相性も良く、自治体のPRおよびブランディングがしやすいことも、自治体で利用が広がっている理由の一つです。

まとめると、以下がポイントとなります。

  • 他の地域との差別化可能な違い・魅力を見つけアピールする
  • 写真や動画などのビジュアルコンテンツを活用する
  • 写真であればInstagramなど、適切な手段や媒体を選択する

自治体広報の難しさ、その局面と打開策

自治体の広報は、一般的な企業の広報とは異なる側面があるのがお分かりいただけたでしょうか。その難しさと、打開策についてご紹介します。

広報におけるマンパワー不足と自治体職員の広報への無関心

自治体における広報を戦略的に展開していくためには、まずは広報を担う組織の体制づくりが必要です。

小規模な自治体の場合、広報担当者が1人ということもあります。慢性的な職員不足である自治体であれば、広報担当者には正規職員を充てず、会計年度任用職員に任せっきりということもあります。

こういった自治体においては、広報戦略を定めていないため、広報手段も場当たり的であることが多く見受けられます。本来であれば、ターゲットと伝えたい内容から広報メディアを設定し、その効果を測定し、また次の広報に広げていく必要があります。しかし、戦略がない広報では、その取組の効果測定を行うことが困難であり、広報担当者個人の「自己満足」に帰結しがちです。

マンパワー不足である小規模自治体だからこそ、自治体職員全員が広報を担うという意識の醸成が必要です。また、広報への協力を求めるためには、自治体の広報活動が各部署の業務にどのようなメリットをもたらすかを説明するなどして、職員に価値提供をする必要があります。

まずは自治体としての広報戦略を立て、全職員と広報戦略を共有し、すべての職員が広報に携わっているという意識を醸成することが重要です。

そのうえで、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返すPDCAサイクルを意識した活動を行う必要があります。

施策ポイントをまとめると以下の通りです。

  • 広報を自治体職員が一丸となって行うための意識醸成
  • 広報活動を通じた職員への価値提供 
  • 広報の効果測定や改善策をPDCAサイクルで行う

地域住民の参加意欲が低く、参加者が高齢の自治会役員ばかりで、まちの取り組みが広がらない

自治体広報には、自治体が行う行事やイベントなどを周知するとともに、地域住民の参加意欲を高める役割があることは先に述べました。

広報担当者においては、その役割に加え、イベントなどを取材し、自ら参加することで、その様子を地域住民に分かりやすく伝え、次回のまちの取り組みにつなげていく役割も担っています。

自治体が行う行事やイベント、自治体の施策を検討し合う場として、セミナーとワークショップの二つの形式が多くとられます。

セミナーは、主催者が設定した特定のテーマに対し、興味を持った参加者に向けて行う講習会のことを指します。 セミナー形式は、発信者である専門家や有識者が一方的に話すスタイルで実施されるため、参加者は受動的になりがちで、「話を聞いて終わり」になり、実践に結びつかないことが多くあります。

ワークショップは、本来は「作業場」・「仕事場」を意味する言葉です。最近では、参加者が主体的にかかわれるような体験型の講座、グループ学習、研究集会などを指す言葉として浸透しています。自治体が行う行事やイベントの参加者は、高年齢層の人であったり、自治会役員が充て職として参加するといったりすることが多く、自分の意見を発信することに不慣れな人はワークショップ形式に対して苦手意識が強いようです。

グループワークは意見の出やすい雰囲気づくりが重要です。例えば、堅苦しすぎると自由な発言は難しくなり、地域住民同士であっても、特に初対面の人が集まる場合は活発な意見交換が進まず、ワークショップの目的を達成できないということも考えられます。 参加者がリラックスして発言できるような雰囲気づくりが望まれます。

自治体が行うワークショップを成功させるためには、客観的な立場で場を調整するファシリテーターの存在が重要です。ファシリテーターは、参加することの目的や意義を共有し、対話しやすい雰囲気づくり、環境づくり、思ったことをそのまま発言できるような場をつくる役目の人です。また、今、どのような状態かを見極めてフォローしたり、本来の議題から横にそれてしまったときには軌道修正したりするのもファシリテーターの役目です。

このファシリテーターは、自治体が依頼した専門家や有識者が担うことが多いですが、複数のグループを作って行う場合には自治体職員がファシリテーターを担うことになるでしょう。広報担当者もその場にいる以上、「お客さん」ではなく「自治体職員」としてファシリテーターの役目を与えられることがあります。ファシリテーターはあくまできっかけを提供する役割ですが、広報としての観察眼と分かりやすい説明力を活かし、こういったシーンにおいても広報は自治体と地域住民の架け橋になることができる存在であると思います。

施策ポイントをまとめると以下の通りです。

  • 広報が事業に参加して、自治体と地域住民と間に入る架け橋となる
  • 地域住民との対話や協働を促す、雰囲気づくり
  • 参加者がリラックスして話をすることができる環境づくり、雰囲気づくり

自治体職員がその自治体に魅力を感じていない

地域外の人々に自治体の魅力を発信するためには、その発信を行う自治体の職員自身がその魅力を理解している必要があります。

しかし、長年その自治体に携わる職員の中には、自治体の魅力を発信することに無関心であったり、魅力を感じていなかったりということがあります。その原因は自治体や職員個人の事情などでさまざまではありますが、自治体においてはその運営を担う職員のモチベーションの低下は深刻な課題です。そのような事情がある場合は大きな自治体の課題で、自治体全体で課題解決に取り組む必要があります。

日本中どの地域であっても、その地域の歴史や文化、自然、人物など、地域外の人からすれば魅力となりえる財産が存在するものです。その自治体に長年努めている職員であるほど、当たり前としてとらえがちなものとなりますが、外部の視点で見ると独創的に感じることもあるでしょう。

そうした地域に存在する無数の財産を見過ごすことのないよう、アンテナを張り、うまく広報PRにいかして発信していくことが大切です。

また、地域の財産は、地域外の人々のほうが発見しやすい傾向にあります。外部の視点を取り入れることで、自治体の魅力を再発見するということも多くあります。

広報は、地域住民に対して行政の説明責任を果たすことに加え、地域間競争の中にあって地域の魅力を外部に発信することも重要となっています。より効果的な広報を行うためには、自治体の外部に専門性ある人材を求めるという選択肢も検討されるべきではないかと思います。

施策のポイントとしては以下2点です。

  • 自治体に対する職員のモチベーションアップ
  • 外部の視点を取り入れ、自治体の持つ魅力を見出す

まとめ

本記事では、自治体の広報に求められる役割、課題と打開策のポイントをご紹介しました。

自治体における広報は、その自治体の「顔」として、情報発信やイメージアップ、危機管理、広報戦略の策定など、多岐にわたる仕事を担当し、自治体の発展においては広報の役割がますます重要になっています。

自治体の仕事は「自治体の主役である住民が、その地域で幸せになるためにマネジメントする」ことです。そして、広報は自治体と地域住民との信頼を築く橋渡しとなり、地域住民の幸せをサポートする役割を担っています。

自治体の広報の働きによって、地域住民は自治体行政の考えや、これからやろうとしていることを知ることができます。広報力は、地方自治にかかわるすべての職員が持つべき意識であり、広報で用いる企画力・実行力はすべての自治体業務においても活用できる力となるでしょう。

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花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。