クレーム・カスハラ案件の引き継ぎ|BtoBで揉めているときの対応
「来週から、この取引先は君が担当してくれ」。
上長からそう告げられた後任者が、最初の交渉でいきなり、「前の担当者は、この条件で了承していた」とクレームをつけられることがあります。
前任者に確認しようにも、本人は相手からの連日の電話で疲れ切っており、詳しい経緯を話せる状態ではありません。
そして、社内に残っている記録は、日付の抜けたメモと断片的なメールだけ、という状況も珍しくはありません。
こうした状態で引き継ぐと、後任者は経緯も論点も分からないまま相手と向き合うことになるため、最初から不利な状況で交渉を始めることになってしまいます。
しかも、相手にとって担当者の交代は、これまでの交渉をやり直す機会にもなりますので、より巧妙に要求を通そうとして、カスハラまがいの態度や物分かりの良い態度を使い分けてくることさえあります。
一般的な業務の引き継ぎであれば、担当顧客の一覧と進行中の案件を渡せば足ります。
しかし、クレームやカスタマーハラスメント(カスハラ)が絡んで揉めている案件では、それだけでは後任者を守れません。
揉めている案件の引き継ぎで整理するのは、大きくは、案件の時系列、揉めているポイント、先方のキーマンの3つです。
本コラムでは、その整理の仕方と、誰が、いつ、どの順番で相手に伝えるかというシナリオの作り方に加えて、前任者と後任者の双方を守る進め方を、具体的にお伝えします。
クレーム・カスハラ案件の引き継ぎ|BtoBで揉めているときの対応
BtoBでは、クレーム・カスハラ案件は解決してから引き継ぐのが原則
継続的なBtoBの取引において、クレームやカスハラで揉めている案件は、原則として、解決してから引き継ぐべきです。
途中で担当者が替わると、相手は経緯を知らない後任者に対して初手から優位に立ち、同じ主張を最初から繰り返せるようになります。
また、そうで無かったとしても、途中で投げ出してしまったような印象を与えるかもしれず、企業イメージにとってネガティブです。
そのため、引き継ぎの時期を動かせるのであれば、まずは現在の担当者と上長で案件を解決させましょう。
担当を替えるのは、その後にすることをお勧めします。
なお、ここでいう解決とは、会社としての回答を相手に伝え、その回答に沿った対応を終えた状態です。
相手が納得しているかどうかは、解決の条件に含めません。
途中で引き継ぐと、相手に交渉をやり直す機会を与える
担当者が替わった直後は、相手から見ると、こちらの足並みが最も揃っていない時期です。
そのため、相手は「前の担当者とはこういう話になっていた」と、実際より有利な内容を持ち出すことができます。
そして、後任者がその場で否定できなければ、それが新しい前提として扱われてしまいます。
また、交代そのものを、自分の主張が正しかった証拠として受け取る相手もいます。
担当者を替えさせることができたという経験が、次の要求を強めることもあります。
解決まで待てない場合でも、会社としてどこまで応じ、どこから応じないかといった基本的な方針は、引き継ぎの前に相手へ伝えておくことが望ましいといえます。
できるなら、その伝達の場に後任の担当者を同席させるなどしましょう。
そうしておけば、後任者はその回答を前提に始められます。
それでも引き継ぎが避けられない3つの場面
ただし、実際には解決を待てない場面もあります。
揉めている案件の引き継ぎが避けられないのは、例えば、次の3つの場面です。
- 顧客からクレームに伴い担当者の交代を求められ、受け入れざるを得ない場合
- 担当者では対処できなくなり、上長や経験のある社員へ引き継ぐ場合
- 休職・退職や社命による転勤などで、引き継ぎが自動的に避けられなくなる場合
3つに共通するのは、引き継ぎの必要性が分かった時点で、計画的に動き始めることです。
突然の休職など、計画的な対応が難しい場合もありますが、ふだんから上司が状況を把握するなどし、引き継ぎの必要が分かった時点で速やかに準備を始めましょう。
引き継ぎで優先順位が変わる3つの場合
揉めている案件の引き継ぎは、通常のビジネスにおける引き継ぎに、クレーム・カスハラへの備えを加えたものといえます。
しかし、なぜ引き継ぐことになったのかによって、後任者が最初に取り組むべきことは異なります。
例えば、同じ交代の求めでも、こちらの対応に原因がある相手に方針だけを突きつければ、関係を立て直す機会を失います。
反対に、担当者個人を攻撃している相手に譲歩を重ねれば、要求は際限なくなります。
そのため、引き継ぎを決めた上長が、どのような事情があり、どのような方針で対応するのかを、最初に後任者へ伝えておくことが重要です。
取引先から担当者の交代を求められ、受け入れる場合
1つ目は、取引先から担当を替えるよう求められた場合です。
BtoBの取引先から「担当を替えてほしい」と求められる理由は、大きく2つに分かれます。
1つは、対応の遅さや説明の不足など、こちらの対応に原因がある場合です。
もう1つは、要求が通らないことへの不満から、担当者個人を攻撃の対象にして、要求を押し通そうとしている場合です。
前者であれば、交代は関係を立て直すための手段です。
後任者は、何が不満だったのかを確認したうえで、改善した点を具体的に示しましょう。
しかし後者の場合、交代を受け入れても要求そのものは変わりません。
むしろ、担当者を替えさせたことで、相手は自分の主張が認められたと受け取りかねません。
そのため、交代を伝えるときには、それと合わせて、ご要望いただいた内容について会社としての回答を伝えておくことが重要になります。
なお、交代を求められた担当者は、自分に非があったと考えがちです。
そのため、自社に原因があるのか、それとも単に要求をごり押ししようとしているだけなのかは、担当者本人ではなく組織として判断するようにしましょう。
例えば、相手の求めが、対応の遅れや説明の不足を具体的に挙げているものであれば、こちらに原因がある可能性があります。
一方、求めの中身が担当者の態度や人格に向いていて、取引の条件の話に戻らないのであれば、要求を通すための手段として使われている可能性があります。
担当者では対処できなくなり、上長や経験のある社員へ引き継ぐ場合
2つ目は、要求が担当者の権限を超えたり、相手の言動が威圧的になったりして、担当者では対処できなくなった場合です。
なおこの「言動が威圧的」には、激しく激するような場合だけでなく、取引における力関係を背景に理不尽な要求を冷静な口調でゴリ押しして来るような場合も含みます。
またこの場面の「引き継ぎ」とは、担当者個人の対応から、会社としての対応へ切り替えることを意味します。
そのため、後任となる上長や経験のある社員は、担当者の続きを引き受けるというより、会社の方針を示す立場で相手に向き合う必要があります。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(2026年度改訂版)」も、この切り替えを示しており、悪質性が高いと疑われる場合には、単独での対応をせず複数名で対応する、としています。
また、比較的規模の小さい企業では、経営者等が相談窓口を担い、経営者等が直接顧客等に対応することも考えられる、としています。
従業員が数十名規模の会社であれば、社長や役員が引き継ぐ場面も珍しくはありません。
その場合でも、元の担当者を完全に外すのか、補佐として残すのかは、担当者の心身の状態を見て決めましょう。
休職・退職・転勤で、引き継ぎが避けられない場合
3つ目は、担当者の休職や退職、社命による転勤などで、自動的に引き継ぎが必要になる場合です。
このうち転勤や退職は、時期が事前に分かるため、情報を整理する時間を取れます。
しかし、揉めている案件を抱えた担当者の休職は、心身の不調をきっかけに突然始まることが大半です。
その場合、休職に入る担当者には、極力引き継ぎの負担をかけないように、気を付けましょう。
取引先からのクレームやカスハラに起因した心身の不調で休む社員に対し、引き継ぎが終わるまではとその取引先を担当させ続けたり、そうでなくても同席させたりするのは、原則として止めるべきです。
社内で引き継ぎ資料を作成するなど、今後の対応に貢献できることをやってもらい、安心して休職できるようにしましょう。
担当者の交代は、国のカスハラ対策の指針が例に挙げている措置
BtoBの取引において、担当者を替えることには、相手に屈したように見えないか、外される社員が傷つかないか、といった心配から、後ろめたさを感じる経営者の方もいらっしゃいます。
しかし、担当者の交代は、国のカスハラ対策指針が例として挙げている措置です。
そして、この指針は取引先からの言動も対象にしています。
交代を、個人の能力の不足ではなく、会社としての正当なプロセスに基づいた措置であることを冷静に伝えてあげることで、離任する担当者が必要以上に傷付くことは無くなります。
BtoB取引先担当者からの言動も、カスハラ対策の指針の対象に含まれる
改正された労働施策総合推進法の施行により、事業主は2026年10月1日から、カスハラへの対策として雇用管理上必要な措置を講じなければならなくなります。
その具体的な内容を定めたのが、2026年厚生労働省告示第51号の指針です。
この指針は、カスハラを行う「顧客等」に、BtoB取引の相手方を含めています。
加えて、今現在取引中の相手だけでなく、今後取引する可能性のある者も含むとしたうえで、例として取引先の担当者を挙げています。
つまり、BtoBの取引先の担当者から受ける言動も、BtoC(一般消費者)からの言動と同じく、カスハラになり得ることが、明確に示されています。
また、改正労働施策総合推進法は、他の事業主から措置の実施への協力を求められた場合に、これに応ずるよう努めることも定めています。
そのため、揉めている内容がカスハラに該当する可能性がある場合は、相手の会社に対して事実確認への協力を依頼することも、正当な手続きとして行えます。
指針は「担当者の変更又は複数人で対応」を例に挙げている
指針は、カスハラが生じた事実を確認できた場合に、速やかに被害者への配慮のための措置を行うことを求めています。
そして、その措置を適正に行っていると認められる例として、「事案の内容や状況に応じ、行為者に対応する担当者の変更又は複数人で対応すること、被害者と行為者を引き離すための配置転換」を挙げています。
つまり、揉めている案件で担当者を替えることは、会社として講じる措置の1つとして位置づけられています。
さらに、この考え方は会社の規模を問いません。
指針の解釈を示した厚生労働省の通達は、従業員が1名の小規模の店舗であっても、事実が確認できた場合には、担当者の変更や配置転換、メンタルヘルス不調への相談対応といった措置を講ずる必要がある、としています。
担当者を替えられない規模でも、カスハラへの措置が不要になるわけではありません。
上長や経営者が対応を引き取る、あるいは担当者と2名で対応するといった形で、同じ考え方を取り入れることができます。
引き継ぎで最初にやるのは、案件情報の整理
引き継ぎが決まったら、後任者が相手と接する前に、案件の情報を整理します。
具体的には、案件の時系列、揉めているポイント、先方のキーマンの3つを中心に整理します。
あわせて、社内の記録上は対応済みでも、相手が納得していない事柄がないかを確かめます。
厚生労働省の企業マニュアルも、本社・本部へ対応を引き継ぐ際に共有する情報の例として、以下の6つを挙げています。
- 対応日時と場所
- 対応した従業員
- 顧客等からの要望の内容
- 顧客等の情報
- 現場監督者の指示
- 対応結果
案件の時系列を、日付と出来事で並べる
1つ目は、案件の時系列です。
いつ、誰が、相手とどのようなやり取りをしたのかを、日付や時間帯の順に並べます。
整理するときには、事実と、それに対する評価を分けましょう。
「3月5日、先方の購買担当から納期短縮の要求。
担当者が社内で確認のうえ回答すると伝えた」は事実です。
一方、「無理な要求をされた」は評価であり、時系列の欄に入れる場合には評価であることが明確にわかるようにする必要があります。
事実と評価を区別せず混ざってしまうと、後任者は事実関係に基づいた冷静な判断ができなくなり、前任者の感情ごと相手を受け取ることになりかねません。
また、企業マニュアルも、時系列での整理を勧めています。
これまで対応者がいつ、どこでどのように対応し、どのような結果だったかを整理しておくと、引き継いだ担当者がスムーズに対応しやすくなる、としています。
時系列を整理する期間は、揉め始めた時点ではなく、案件が始まった時点からにします。
揉め始めたときからにすると、相手が最初に何を求めていたのかが抜け落ちがちです。
例えば、値引きの要求が、実は納期の遅れへの不満から始まっていたという流れは、始点まで戻らないと見えません。
時系列を並べ終えたら、日付が抜けている期間を確かめてください。
3週間やり取りの記録がない期間があれば、そこで何が起きていたかを確認します。
抜けている期間は、相手が社内で検討していた時間であることもありますし、こちらが返答を止めていた時間であることもあります。
取引先と揉めているポイントを、要求と論点に分ける
2つ目は、揉めているポイントです。
ここでは、相手が求めていることと、その背景にある論点を分けて整理します。
例えば、相手の要求が「代金を半額にしろ」だったとします。
その場合でも、その理由が納品物の品質に対するご不満なのか、納期の遅れなのか、担当者の態度へのお怒りなのかによって、取るべき対応は異なります。
例えば、理由が品質に対するご不満であれば事実の確認が、納期の遅れであれば遅れの原因と今後の日程の提示が、担当者の態度であれば窓口の体制の見直しが、それぞれ解決の糸口となる可能性があります。
そのうえで、それらの理由ごとに、どのような検討状況なのか、どのような点が相手と一致しておりどのような点が対立しているのか、自社にどの程度責任があるのかなど、要求に対する論点を分かりやすく整理しておきましょう。
そのように要求と論点を整理しておけば、後任者は、相手が不便を感じていることにはお詫びを伝えつつ、認めていない事柄の非までは認めない、という対応を保てます。
加えて、前任者が相手に約束したことと、検討すると伝えたことも整理します。
その際、口頭で「前向きに検討します」と伝えただけでも、相手は約束として受け取っていることがありえますので、言い回しや相手のリアクションも含めて正確に残しておきましょう。
先方のキーマンを、決裁者・要求する人・止められる人で分ける
3つ目は、先方のキーマンです。
BtoBの取引では、クレームを伝えてくる人と、取引の継続を決める人が同じとは限りません。
そこで、相手の会社の関係者を、以下の3つに分けて整理します。
- 取引を続けるかどうかを決める人
- 実際に要求を伝えてくる人
- 要求を伝えてくる人を社内で止めたり、取りなしたりできる立場の人
例えば、購買部門の担当者が、強い言葉で値引きを求めていることがあります。
しかし、その上司や、商品を実際に使っている部門の責任者は、取引を穏やかに続けたいと考えている場合もあります。
そのため、そういった場合は後者にリーチすることができれば、不要な衝突を避け、取引関係を続けられる可能性が高まります。
ただし、要求を伝えてくる人を飛び越えて上位の人に訴えると、相手の面子を潰し、かえって対立を深めることになりかねません。
そのため、誰に、どの順番で接触するかは、引き継ぎのシナリオを作る段階で慎重に検討する必要があります。
「対応済み」と「相手が納得している」を分けて書く
最後に、記録上の対応状況と、相手の受け止めを分けて書いておきます。
社内の記録では「回答済み」「謝罪済み」となっていても、相手はそれで終わったとは考えて不満を残したままになっている場合があります。
そのため、相手の心境を知らず安易に「その件は完了しております」などと伝えると、せっかく治まりかけていた火種が大きく再燃することになりかねません。
一方で、合理的な説明を尽くしたうえで応じられないと判断した要求に対しては、心情へは理解を示しつつ、それで相手が納得しなくても、会社の回答として維持することが重要です。
そこで、案件ごとに「会社としての対応状況」と「相手の受け止め」の2つの欄を設けましょう。
なお、後者については、正確には分からない場合もありますが、その場合にはなぜ何が分からないかを事実ベースで引き継ぐようにし、「ちゃんと謝ったから分かってくれるはずだ」といった安易な希望的観測に陥らないように注意しましょう。
整理した情報から、クレーム・カスハラ案件の引き継ぎのシナリオを作る
情報が整理できたら、クレームやカスハラを引き継ぐためのシナリオを作ります。
シナリオとは、取引先に対して担当者の交代をどう伝えるかを、前任者が離任する前に、5W1Hで具体的に決めておくことです。
クレーム化・カスハラ化しているBtoB案件では、後任者による取引先との初期段階での接触が、その後の関係が大きく左右されます。
そのため、「とりあえず挨拶」や「話せばわかるはず」といった不確かな流れに任せず、必ず、関係者が集まり、可能であれば前任者も交えて、あらかじめ流れをシナリオとして組み立てておくことが極めて重要です。
誰が、いつ、どうやって相手に交代を伝えるかを決める
BtoBのクレーム・カスハラ案件の場合は、前任者からではなく責任者から交代の事実を伝えて、後任者を紹介するのが無難です。
この時、基本は事前に解決させてから引き継ぐべきですが、前述のような様々な事情によっては、未解決のまま引き継がざるを得ない場合もあります。
そのような場合は、上長と後任とで客先を訪問し、経緯を直接伝えたうえで、今後についての目線合わせをしておくことをお勧めします。
また、取引先への伝え方も極めて重要です。
時折、相手に委縮するあまり、つい、「スイマセン、ちょっとで良いので時間もらえますか?」といった伝え方をしてしまっている例もありますが、これでは意図が伝わらず、下手をしたら先方の担当者と立ち話で終わりということになりかねません。
そうではなく、クレームやカスハラになりかけている案件だからこそちゃんと時間をもらい、先方の責任者にも出席してもらうように依頼します。
そのうえで、自社のミスやフォローの不足など認めるべきところは認めたうえで、より良い顧客対応を目指すための体制変更であることをしっかり伝えるようにしましょう。
双方の責任者が顔を合わせたオフィシャルな場で、トーンをリセットすることができれば、以降のカスハラや理不尽な要求に対し、大きな抑止力となります。
会社として譲れないことと、相手の要求に応じられる範囲を先に決める
シナリオの中でも忘れてはいけないのが、会社として譲れないことと、応じられる範囲を決めることです。
クレーム化やカスハラ化で揉めている案件では、担当者が替わった直後に、相手が改めて要求を出してくることがあります。
そのような場合にその場で後任者が判断すると、前任者が断っていた要求に応じてしまったり、反対に、応じてよい要求まで断ってしまったりします。
そのため、先に整理した論点ごとに、応じられること、条件付きで応じられること、応じられないことを決めておきます。
例えば、金額や納期に関わるものは、後任者がその場で約束せず、社内で決裁を経てから回答する、と決めておきましょう。
そのうえで、応じられないと決めた要求については、具体的なトークスクリプトを用意しておきます。
前任者が抜ける前にシナリオをシミュレーションし、社内に共有する
シナリオがある程度固まったら、できるだけ前任者が離任する前に検証やシミュレーションを行い、社内の関係者に共有しておきましょう。
前任者の離任前に検証やシミュレーションを行う理由は、取引先の人となり、リアクション、交渉姿勢などについて、最も解像度高く理解しているはずだからです。
共有する理由は、相手が社内の別の窓口に連絡してくることがあるためです。
例えば、後任者が断った要求を、前任者に「話しが違う!」とクレームを入れてゴリ押ししようとする場合があるため、そういった場合の対処もシナリオに含めつつ、原則として案件の窓口は後任者と上長に一本化します。
シミュレーションの進め方は、前任者に相手の役をお願いする形が早いです。
後任者が伝える文言を読み上げ、前任者が相手の反応を返します。
想定していなかった反応が出た時点で、その場でシナリオを足していきます。
取引先に担当者交代を拒絶された場合の対応
引き継ぎの連絡をした後、揉めている案件では、相手からネガティブな反応が返って来ることがあります。
例えば、交代そのものを受け入れないという意思表示などです。
こういった場合、人事は自社の専権事項であるため、例え取引先だからといって拒否や否定をする権利はありません。
しかし、いくら専権事項だからといって、得意先に対して面と向かって「口を出すな」とは言いにくいものです。
そこで、担当者交代にネガティブな反応をされた場合の対応についても、予めシナリオに含めて置くことをお勧めします。
ここでは、実際に起こりがちな2つの例について解説します。
「なぜ替わるのか」「前任者を出せ」と言われたら
交代の理由を問い、前任者を呼び戻すよう求めてくるようなケースです。
こういった場合には「社内のジョブローテーションにより、先月末日付で担当者が変更になっておりますので、前任者の呼び戻しはご容赦ください」などと伝えます。
また、取引先への事前相談が無かったなどと更なるクレームに発展する場合は、「実は、前任の担当者では貴社のご要望に的確に対応できないことがあったと承知しておりました。
そのため、社内で検討を重ねていた折、ジョブローテーションのメンバーがおりましたので、適切に対応できる体制とするため担当者を交代させました」などと、事実に基づきつつ相手を非難しないように伝えるのも一法です。
ポイントは、上記の通り、事実に基づいて非難や言い訳をしないことです。
事実であれば、当然、相手も知っているはずなので、基本的にそれ自体を否定される可能性は低いです。
しかし、そこに評価や感情が入れば、相手には相手の言い分があるので、批判や反論に繋がり、更なるクレームやカスハラの火だねになりかねないので、注意しましょう。
「前の担当から約束されていた」と言われたら
前任者が個別に認めていた例外を持ち出されるケースです。
また、実際には約束していなくても、交代を機に「していた」と言われる場合もあります。
こういった場合は、2段階で対応することをお勧めします。
1段階目は、しっかりと事実確認を行うことです。
ただし、事実確認にこだわり過ぎたり、確認が取れないからといって直ちに「確認できないから対応できない」と言ったりすると、相手を「私が嘘をついていると言うのか!?」と怒らせてクレーム化することになりかねません。
また、本当に約束していた場合は、その約束を一方的に反故にすることになり、自社の信用問題に繋がります。
そこで2段階目は、担当者交代を機に、腹を割って話す機会を持ち、妥協点を見付けることです。
具体的には、以下のようなことを伝えたうえで、自社の約束が発端になっている経緯を踏まえ、一定の猶予期間を設けて是正を提案する、といった対応です。
- 「大前提として、貴社とのビジネスは今後も継続していきたい」
- 「しかし、ビジネスである以上、不利益を知りながら譲歩し続けることはできない」
- 「契約外の対応である点が監査でもカスハラの可能性があると指摘されている」
そのうえで、もし相手が過去の約束に拘泥して来たとしても、過去の対応の是非は論じず、2段階目の対応をしたうで、これからの話に切り替えて行きましょう。
よくあるご質問
揉めている案件の引き継ぎについて、実際にいただくご質問への回答をまとめました。
クレーム中の引き継ぎの挨拶に、前任者を同席させてもよいですか
揉めている案件では、原則として同席させないほうがよいでしょう。
特に、前任者が相手の言動に傷ついている場合は、同席そのものが大きな負担です。
また、前任者が同席することで、これまでの延長のように受け止められ、トーンをリセットし難くなることにも注意が必要です。
クレーム化やカスハラ化している取引先の場合は、上長が後任者に同席し、後任者が窓口であることを示すことがお勧めです。
なお、それでも相手から前任者を出すよう求められることがあります。
しかし、その場合も、担当が替わったことについて会社の判断として伝え、原則として、前任者は取り次がないようにしましょう。
相手が後任者を受け入れない場合は、どうすればよいですか
後任者も気に入らない、別の人に替えろと、交代を繰り返し求められる場合があります。
この場合、相手の求めに応じて担当者を替え続けることは避けましょう。
替えるたびに、担当者を選べるのは相手だという認識が強まり、社内で引き受ける人がいなくなってしまいます。
そのため、再び交代を求められても、合理的な理由が示されない場合は、上長を含む体制で対応していることを伝えたうえで、窓口の変更には応じられないことを会社の回答として示します。
なお、それでも要求が続き、後任者への言動が威圧的になっている場合など、カスハラの可能性がある場合には、改正労働施策総合推進法に基づき、先方に調査への協力を依頼するのも一法です。
替わりの担当者がいない小さな会社では、どうすればよいですか
従業員が少なく、同じ取引先を担当できる社員が他にいない会社の場合は、担当者を替える代わりに、上長や経営者が対応を引き取るか、担当者と上長の2名で対応する形を取ります。
また、先にご紹介した企業マニュアルの考え方に沿えば、経営者自身が窓口に立つことも選択肢の1つとなります。
人数が少ない会社ほど、1人が抱える負担は大きくなるため、担当者が限界を迎える前に、日頃から経営者も交えてクレームやカスハラの情報を共有しておくようにしましょう。
まとめ|クレーム化やカスハラ化している案件の引き継ぎは、情報の整理とシナリオで進める
引き継ぎの時期を選べるのであれば、揉めている案件は解決してから担当を替えることが望ましいといえます。
しかし、顧客から担当者の交代を強く求められた場合、担当者では対処できなくなった場合、休職・退職や転勤の場合など、解決を待たずに引き継ぎが避けられない場面もあります。
いずれの場面でも、引き継ぎの必要性が分かった時点で、速やかに、計画的に動き始めることが大切です。
具体的には、案件の時系列、揉めているポイント、先方のキーマンなどの情報を整理するとともに、5W1Hで引き継ぎシナリオをまとめます。
担当者の交代や引き継ぎは、失敗すると、せっかく消えかけていたクレームの火種を再び燃え上がらせ、「前任の方はそれで良いと約束してくれていました」「そんなことも引き継いでなかったのですか」などゴリ押しされる隙を与えてしまうことになりかねません。
そのため、感覚で交渉せず、ゴールとそこに辿り着くまでのロードマップを明確にし、具体的なシナリオを作ることが極めて重要です。
また、揉めている案件で担当者を交代することは、トーンをリセットし、取引先の目を過去への不満から未来へと向けさせるきっかけになる場合もあります。
そのためにも、事実関係をしっかり整理し、それに基づいたシナリオを作り、しっかりとシミュレーションをして交渉に臨みましょう。
なお、2026年10月1日から適用される改正労働施策総合推進法でも、カスハラ被害を受けた労働者への配慮のための措置の例として、担当者の変更や複数人での対応を挙げています。
BtoBの場合でも、交代を会社の措置として扱い、前任者と後任者の双方を守る形で引き継ぎを進めましょう。