クレーム・カスハラの対応で「今すぐ謝りに来い!」と言われたら | 訪問・来社のポイント

クレーム カスハラ 訪問謝罪

クレーム対応の現場では、ミスに伴い訪問を要求されることがあります。企業としては、経緯も相手の素性もよく分からないまま訪問要求に応じては、対応コストも嵩みますし、様々なリスクもあるので、客先で現に今トラブルが生じているといった事態で無い限り、極力、即時訪問の要求には応じたく無いところです。
しかし、訪問を要求する理由が、従業員・スタッフの言動に対する謝罪であったり、トラブルの確認依頼であった場合には、普段からちゃんと対応方針を決めておかなければ対応に苦慮することになりかねません。

また、対応方針を打ち出したとしても「自宅訪問はNG、対面が必要な場合には来社対応」といった方針だけでは、単に訪問対応を来社対応に変えただけにしかなりません。一般的に来社対応では、「自分達のホームコートで対応できる」と思ってつい安心してしまいがちですが、訪問対応のようにこちらである程度タイミングをコントロールすることができないため、突発的に乗り込まれるシチュエーションに陥りがちです。そのような準備不足な状態でも、たまたまクレーム・カスハラに強いマネージャーがいれば何とか対処できる場合もありますが、居なければ十分な対応は困難です。むしろ、長時間の居座りや他のお客様をご不快な気持ちにさせるなどの状況となり、本来すべきでない譲歩により解決しようとしてしまうことになりかねません。

そこで今回は、上記の様に対応が難航しがちな訪問・来社について、対応のポイントを解説したいと思います。

クレーム・カスハラの対応で「今すぐ謝りに来い!」と言われたら | 訪問・来社のポイント

原則として、訪問対応は行わない

結論から申し上げると、例えクレーム対応であっても(カスハラの場合は尚更)、原則として訪問対応は行いません。

そうすることの理由について、「●●のリスクがあるため」といった解説を見ることがあります。確かに、そういったリスクを理解することは重要です。そのため当社でも、後述の通り訪問せざるを得ない場合には、リスクを踏まえた対策を推奨しています。
しかし、当社ではそういった防衛的な理由よりもまず、より本質的に、起きているトラブルとの関係で訪問の必要性を検討することが重要と考えます。

訪問対応を(特に、即時の訪問対応を)行うべきではない理由

訪問対応を行うべきではない理由は、以下の通りです。

因果関係が無い
 クレームの発生原因と訪問謝罪との間に直接的な因果関係が無い。
損害の回復に繋がらない
 訪問しても(特に即時訪問しても)、既に発生している損害の回復に繋がらない。

リスクを回避するために、また、従業員を守るために、訪問対応を避けるのは当然の選択ですが、例えどんなに執拗に要求されたとしても、お客様に真っ向から「ご自宅は●●のリスクがあるので訪問いたしません」などと伝えたら、火に油となることは明白です。実際に、筆者の知る例でお客様に対し「監禁されるような危険もあるので、ご訪問はお断りしています」と拒絶したことで大激怒されてしまい、訪問謝罪を避けられなくなったという皮肉な案件もありました。ですから、訪問要否についてはそういった防衛的な理由ではなく、常にトラブルとの関係において検討しましょう。

例外として、どのような場合に訪問対応をするかを明確にする

上記で「原則として、訪問対応は行わない」とし、その理由として、「因果関係が無い」と「損害の回復に繋がらない」ことをお伝えしました。ですから、左記が解消するのであれば、例外として訪問対応を検討することになりますが、もう2点、検討すべきことがあります。

訪問に伴うリスクを対策できる
 自宅はもちろん、勤務先であっても、客先を訪問する事には後述の通り様々なリスクが伴い、新たなトラブルとなる可能性があります。そのため、訪問する場合には、それらのリスクに十分な対策が取れるか、慎重に検討する必要があります。
相対的にメリットが大きい
 自社または自社とお客様の双方にとって、他の選択肢よりもメリットが大きいと判断できるなら、訪問の可能性を検討する理由となります。

ポイントは、上記の様な検討について、担当者任せにせずちゃんと経緯を確認し、組織として判断するプロセスを持つことです。客先訪問は、勝手知ったる自社内で対応をするのとは訳が違います。特に、揉めに揉めたハードクレームやカスハラの場合には、対応状況を社内に共有し、サポートできるようにしておきましょう。

訪問によるクレーム対応で考慮すべき事

原則として訪問対応は行わないと伝えましたが、客先に設置した商品に対する瑕疵を主張されているなど、避けられない場合もあります。そのため、訪問対応する場合に理解しておくべきリスクと対策について解説します。

訪問対応に伴うリスク

訪問対応時には下記のように様々なリスクがあります。実際に出会った経験が無い方は大袈裟だと感じるかもしれませんが、一度でも出会ってしまえば、これでも全く不十分であると、見方が180度変わる筈です。ポイントは性悪説で対策することであり、相手の要求や素性がはっきりしないうちは決して警戒を解いてはいけません。

即答を迫られる、確約を迫られる

訪問対応を担当するのは通常、いち担当者ではなく役職者であることが多いため、即答や確約を非常に強く求めて来ることがあります。また、それをお断りすると、「貴重な時間を割いて自宅に上げたのに、その程度のことも答えられない奴を寄越したのか! 今度こそ責任者を寄越せ!」と更なるクレームになることがあります。

脅迫的言動や威圧的な印象を受ける対応をされる

ハードクレームに伴う客先訪問は、ただでさえ密閉感や圧迫感を感じてしまいがちです。そのような中で、言葉、語気、表情、姿勢など様々な要素を組み合わせてプレッシャーをかけて来られると、つい必要以上の譲歩をしてしまうことになりかねません。

多人数で囲まれたり、第三者に介入されたりする

客先を訪問したら、家族、友人、上司などと称する人が複数いて、多勢に無勢で吊るし上げられ、譲歩を迫られると、相当なプレッシャーです。筆者は勤務時代、柔道部出身の男性社員と2名で訪問し、女性5~6名に取り囲んで糾弾されたことがありますが、竦み上がるほどのプレッシャーでした。

軟禁されたり、延々納得せず返してもらえなくなる

はっきりとした軟禁では無くても、帰ろうとする度にお茶を出されて呼び止められたり、電話しようとすると「客先で電話するなど失礼だ!」と怒られたりし、こちらの説明に延々納得せず帰るに帰れなくなる可能性があります。筆者は勤務時代、仕事帰りのお客様宅を訪問したところ、途中からお酒を飲み始めてしまわれ、23時過ぎまで帰れなくなったことがありました。

こっそり録画や録音をされる

確信犯的なクレーマーやカスハラユーザーの場合、企業が自宅訪問してくれるのはまたとない機会です。こちらの一挙手一投足を録画・録音し、それを都合よく切り取って、どのような目的で使われるか分かりません。揚げ足取りや喧嘩腰などの態度を感じた時には、特に注意が必要です。

居留守などを使い、事後に「来なかった!」と主張される

特に、激怒している相手の勢いに負け、口頭で訪問を約束してしまった場合などは、注意が必要です。例えば「3時」と「30分後」など、わざと聞き間違えるように話してその時間に居留守を使われ、事後に「来なかった!」と主張し更に大きな要求をして来る場合があります。

私物を壊された、盗まれた、脅された、などと主張される

前項と同様、確信犯的なクレーマーやカスハラユーザーの場合、わざとトラブルを起こすように仕向けられる可能性があります。例えば座布団を出されても、その下に割れ物を置かれている可能性があるので、絶対にそのまま座ってはいけません。また、飲食物を出されても、落とされたりこぼされたりしないように、決して空中で受渡しをしてはいけません。トイレもできれば借りたくないので、訪問前数時間は飲み物も必要最小限にし、どうしてもトイレを我慢できない場合には、複数名で移動することを強くお勧めします。
また、上記に類似したリスクとして、「汗や体臭で気分が悪くなった」といった主張も考えられるので、夏場などは特に、訪問直前に身だしなみを整えて汗を拭き、場合によってはシャツを変えるなどの対応を行いましょう。

理不尽な要求のゴリ押しや、無関係な話しのねじ込みをされる可能性がある

確信犯的なクレーマーやカスハラユーザーの目的は、クレームやカスハラそのものでは無く、平常な対応の中では認められないような理不尽な要求を飲ませ、特別対応をさせようとすることである場合は少なくありません。そのような相手にとっては、これまで例を挙げた訪問対応時のリスクは全て、要求を飲ませるための布石です。こちらが謝罪し続けなければならないようなシチュエーションに追い込まれている場合には、その謝罪と直接結び付かない要求の混入に注意しましょう。特に、それは別途確認が必要と言った瞬間激怒するなど、高低差のある態度をとる場合には要注意です。


過去に訪問対応を乗り切った経験がある場合、その企業は往々にして、訪問対応のリスクを軽視し「○○部長なら上手くやってくれるだろう」などと考えがちです。しかし、クレームやカスハラは突発的に発生し、相手も内容も違えば、自社の対応者も違います。個人の経験に頼らず、上記のようなリスクに対し組織的な対策をしていく必要があります。

訪問・来社によるクレーム対応について、自社に不安がある場合には、ぜひ一度、専門家へのご相談をお勧めします。もし周囲にご相談できる方がいらっしゃらない場合は、当社でも承っておりますので、お気軽にご連絡ください。

レクーム カスハラ 専門家

リスクを軽減するための対策

既に説明した通り、自宅訪問をした相手に悪意があり、確信犯的に仕掛けて来た場合、極めて幅広にリスクが隠れていることになるため、その場その場の対応で全てのリスクを回避することは困難です。そのため、訪問の前にできるだけ対策をすることが極めて重要です。

基本的な方向性としては、不確定要素を極力低減させることであり、通常の会議と同じ様に事前に面談アジェンダを合意し、訪問後も極力そこから逸脱しないようにコントロールして行くことです。具体的には、以下のような対策が有効です。

訪問相手に対し、予め訪問日時、議題、参加者、時間枠などを確認しておく

議題は、訪問要求を応諾した段階で暗黙の了解になっていることが多いですが、訪問後に無関係な要求をねじ込まれないように、事前に相手に提示し、過不足があれば訂正を促すなどすることで、言語化するように心がけましょう。また、参加者については、自社の参加者だけでなく、相手にも本人以外にいないか確認しておくことで、訪問後に予定外の人物が介入して来た場合にも断りやすくなります。
これらはいずれも、口頭で約束した場合はおざなりになることが多いですが、不要なトラブルを避けるため、必ず事前に確認しましょう。「社内報告のため事前連絡しなければ訪問できない」と言い切り、時間的な猶予を確保することも一法です。

訪問相手に対し、予め注意点を伝えておく

例えば、以下のような『注意事項』を、「会社として訪問時は皆様にお渡しすることになっております」として事前に書面で渡しておくことで、リスクの回避を図ります。

  • 大変恐れ入りますが、飲食物のご提供はお断りしております。
  • 細心の注意を払いますが、不知や不可抗力が原因の際は賠償に応じかねる場合がありますので、割れ物その他私物の管理などについてはご注意願います。
  • 「軟禁」と言われないように、訪問は90分以内としており、時間内にご納得いただける結論とならなかった場合は、社に持ち帰って検討となることを予めご了承ください。
  • 当社は、厚生労働省のカスハラ対策マニュアルに沿って対応をしています。そのため、万が一、暴力、脅迫、軟禁などの行為があれば、警察などへ速やかに相談いたします。
  • 従業員・スタッフのプライバシー保護のため、録画や録音はご遠慮ください。

訪問後にトラブルが起きた場合ははっきり「NO」と伝え、それでもダメなら対応を終える

実際に訪問開始後には、相手のプレッシャーの強さに応じて、段階的に対応を変えて行きます。
まず、こちらを決裁権者だと思って、即答や確約を執拗に迫って来るような場合には、ご心配をおかけしていることにお詫びをしたうえで、「今回は具体的な状況の確認のために訪問しておりますので、それ以上のご要望については、即答や確約は致しかねます」などと明確に伝えます。また、それでも強要して来る場合には、マネージャーではあるが独断で会社としての回答を行える権限が無いと言い切ってしまうことも一法です。そのように答えると、「なら答えられる奴を連れて来い」などと要求してくる相手もいますが、「経緯確認については私が責任者であり、私が確認をした経緯に対し、社として検討して行くことになっている」と答えれば良いでしょう。

次に、暴力、脅迫、威圧など乱暴な言動のほか、第三者の介入など事前に提示したアジェンダを逸脱した対応をして来る場合には、会社としてアジェンダ以外の対応はできないため、止めるように伝え、止めてくれないなら直ちに交渉を打ち切って帰りましょう。ポイントは、一度警告をしても聞き入れてくれない場合は、「事前のお約束と違う以上、これ以上の交渉は致しかねるので、今回は帰らせていただきます」などと“言いながら”立ち上がって帰ってしまうことです。
こちらが帰ってしまうと、相手は目的を達成できなくなるので、色々な理由をつけながら引き留めようと来ることがありますが、そこで対応を再開させると帰るタイミングを見失ってしまうことになりかねません。自宅に呼び付けて暴力、脅迫、威圧などの行為をして来るような相手では、従業員の心身の安心・安全が損なわれる可能性があります。そのような言動が目立つ場合にグズグズと残ってしまわないように注意しましょう。

来社された場合にも備える

原則として訪問要求には応じないとなると、対面要求に対してはおのずと来社を促すことになります。来社対応はホームコート感がありますが、前述の通り突発的に乗り込まれることもありえるため、準備不足になってしまう場合もあります。また、お客様の立場からしたら、企業を自宅に来させることと、自分から時間と交通費をかけて企業を訪問することでは、心理的にも実質的にもハードルが全く違っており、そのようなハードルを乗り越えて突発的に訪問して来る相手の場合、暴力沙汰に発展する可能性もあることにも注意が必要です。実際、このようなトラブルは何度も起きており、例えば2024年の7月に愛知県高浜市役所にも、長年にわたるトラブルの末に乗り込んできた男が灯油と思われる液体を巻き散らした事件がありました。
このようなトラブルになる可能性を踏まえて、以下のような対策を取ることが望ましいです。

  • セキュリティーカード認証などにより、部外者の入館を物理的に遮断する。
  • 来社受付は、カメラ付きの受付電話から訪問先部署に連絡させ、入館前にアポを確認するなど、できるだけ無人化する。
  • 手荷物は受付のロッカーに預けてもらい、手帳や書類などについてのみ、入館時に確認の上持ち込んでもらう。
  • 録画可能な応接室を用意しておく。
  • ガラス、陶器、重量物、突起物などは、来訪者の手の届く位置に置かない。
  • 男性中心かつ複数名で対応する。

まとめ

これまでの説明で、訪問対応には極めてリスクが大きく、極力避けるべきであることが、ご理解頂けたかと思います。
しかし、こちらにも一定の落ち度がある場合や、長年の得意先でトラブルになった場合など、現実的には訪問要求を断ることが困難な場合もありえます。そのような場合には、訪問により二次的なクレームに発展しないように、本コラムを参考に細心の注意を払って準備をしていただくことを強くお勧めします。

また、訪問や来社における対応では、事前にどのようなシチュエーションで訪問や来社が発生するか、どのようなリスクがあるかを洗い出し、対策を立てておくことが有効であり、当社では組織的なアセスメントの実施やチェックリストの活用をお勧めしています。

このような事前対策の構築について、専門家に相談してみたいという方は、ぜひお気軽にご連絡いただければ幸いです。

カスハラ、対策、相談

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花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。