クレーム・カスハラの対応で「今すぐ来い!」と言われたら | 訪問・来社のポイント
クレームやカスハラの対応では、「今すぐ来い!」「家に来い!」など自宅への訪問を要求されることがあります。
企業としては、経緯や素性がよく分からないまま訪問謝罪に応じては、対応コストも嵩みますし、様々なリスクもあるので、現に今、客先で大きなトラブルが生じているといった緊急事態で無い限り、極力、即時訪問の要求には応じたく無いところです。
しかし、訪問を要求された理由が、従業員・スタッフの不適切な言動や、トラブルの確認依頼だった場合などには、普段から対応方針を決めておかなければ対応に苦慮することになりかねません。
自宅訪問に伴うリスクとは、例えば、以下のようなことが挙げられます。
- 即答や確約を迫られる
- 脅迫的・威圧的な印象を受ける言動をされる
- 大人数で囲まれたり第三者に介入されたりする
- 軟禁されたり延々納得せず帰してもらえなくなる
- こっそり録音や録画をされSNSなどで拡散される
- 居留守などを使い、事後に「来なかった!」と非難される
- 私物を壊された、盗まれた、脅されたなどと主張される
もし上記のようなリスクに直面したことが無かったとしても、クレームやカスハラへの対応をしている方であれば、不用意な一言で訪問謝罪を要求され、対応に苦慮した経験があるのではないでしょうか。
そこで今回は、上記の様に対応が難航しがちな訪問・来社について、対応のポイントを解説します。
クレーム・カスハラの対応で「今すぐ来い!」と言われたら | 訪問・来社のポイント
訪問謝罪(自宅訪問および会社訪問)におけるリスク
「極力、即時訪問の要求には応じたく無い」と伝えましたが、大口のお得意様からのクレームだったり、客先に設置した商品に対する瑕疵を主張されているなど、避けられない場合もあります。
そのため、まずは訪問対応をする場合のリスクを理解しておく必要があります。
以下に挙げるリスクは、実際に出会った経験が無い方は大袈裟だと感じるかもしれません。
しかし、一度でも出会ってしまえば、これでも全く不十分だと見方が180度変わる筈です。
ポイントは、性悪説で対策することであり、相手の要求や素性がはっきりしないうちは決して警戒を解いてはいけません。
即答や確約を迫られる
訪問対応を担当するのは通常、いち担当者ではなく役職者であることが多いため、即答や確約を非常に強く求めて来ることがあります。
そのため、理不尽や過剰と思われる要求であっても「上司に確認します」とは言い難く、要求をお断りすると、「貴重な時間を割いて自宅に上げたのに、その程度のことも答えられない奴を寄越したのか! 今度こそ責任者を寄越せ!」と更なるクレームになることがあります。
脅迫的・威圧的な印象を受ける言動をされる
ハードクレームに伴う客先訪問は、ただでさえ密閉感や圧迫感を感じてしまいがちです。
そのような中で、言葉、語気、表情、姿勢など様々な要素を組み合わせてプレッシャーをかけて来られると、つい必要以上の譲歩をしてしまうことになりかねません。
大人数で囲まれたり第三者に介入されたりする
客先を訪問したら、家族、友人、上司などと称する人が複数いて、多勢に無勢で吊るし上げられ、譲歩を迫られると、相当なプレッシャーです。
筆者は勤務時代、柔道部出身の男性社員と2名で訪問し、女性5~6名に取り囲んで糾弾されたことがありますが、竦み上がるほどのプレッシャーでした。
軟禁されたり延々納得せず帰してもらえなくなる
最近はさすがに、自宅訪問に伴う監禁や軟禁の例はあまり聞かなくなりました。
しかし、はっきりとした軟禁では無くても、帰ろうとする度にお茶を出されて呼び止められたり、電話しようとすると「客先で電話するなど失礼だ!」と怒られたりし、こちらの説明に延々納得せず帰るに帰れなくなる可能性があります。
また、善意で飲食を出されたりした場合や、本当に分からなかったり困ったりして質問を繰り返されている場合でも、訪問というシチュエーションだと途中で辞去することは難しいです。
筆者は勤務時代、仕事帰りのお客様宅を訪問したところ、途中からお酒を飲み始めてしまわれ、24時近くまで帰れなくなったことがありました。
こっそり録音や録画をされSNSなどで拡散される
確信犯的なクレーマーやカスハラユーザーの場合、企業が自宅訪問してくれるのはまたとない機会です。
こちらの一挙手一投足を録画・録音し、それを都合よく切り取って、どのような目的で使われるか分かりません。
揚げ足取りや喧嘩腰などの態度を感じた時には、特に注意が必要です。
居留守などを使い、事後に「来なかった!」と非難される
特に、激怒している相手の勢いに負け、口頭で訪問を約束してしまった場合などは、注意が必要です。
例えば「3時」と「30分後」など、わざと聞き間違えるように話してその時間に居留守を使われ、事後に「来なかった!」と主張し更に大きな要求をして来る場合があります。
私物を壊された、盗まれた、脅されたなどと主張される
前項と同様、確信犯的なクレーマーやカスハラユーザーの場合、わざとトラブルを起こすように仕向けられる可能性があります。
例えば座布団を出されても、その下に割れ物を置かれている可能性があるので、絶対にそのまま座ってはいけません。
また、飲食物を出されても、落とされたりこぼされたりしないように、決して空中で受渡しをしてはいけません。
トイレもできれば借りたくないので、訪問前数時間は飲み物も必要最小限にし、どうしてもトイレを我慢できない場合には、複数名で移動することを強くお勧めします。
また、上記に類似したリスクとして、「汗や体臭で気分が悪くなった」といった主張も考えられるので、夏場などは特に、訪問直前に身だしなみを整えて汗を拭き、場合によってはシャツを変えるなどの対応を行いましょう。
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「今すぐ来い!」「家に来い!」をお断りする3ステップ
結論から申し上げると、原則として訪問対応は行いません。
そうすることの理由について、「リスクがあるため」といった解説を見ることがあります。
確かに、そういったリスクを理解することは重要です。
そのため当社でも、後述の通り訪問せざるを得ない場合には、リスクを踏まえた対策を推奨しています。
しかし、リスクを回避し、従業員を守るために、訪問対応を避けるのは当然の選択ですが、例えどんなに執拗に要求されたとしても、お客様に真っ向から「ご自宅は●●のリスクがあるので訪問いたしません」などと伝えたら、火に油となることは明白です。
実際、筆者の知る例で、お客様に対し「監禁されるような危険もあるので、ご訪問はお断りしています」と拒絶したことで大激怒されてしまい、訪問謝罪を避けられなくなったという皮肉な案件もありました。
ですから、訪問要否についてはそういった防衛的な理由ではなく、常にトラブルとの関係において検討しましょう。
具体的には、以下の3ステップでお断りすることをお勧めします。
訪問を要望された背景や理由を傾聴し、可能なら代替案を提案する
「今すぐ来い!」「家に来い!」などと自宅訪問を要求された場合には、焦らず、まずは背景や理由をお伺いし、可能なら代替案を提案しましょう。
ご訪問となると、社内での承認や訪問者の調整などにも時間を要しますし、お客様のお住まいによっては移動にも長時間かかります。
また、その場ですぐ解決できるトラブルなのかも分からないので、慌てて訪問することがかえって問題の解決を遠のかせる可能性もあります。
ですから、しっかりと状況を把握したうえで対応していくことは、非常に重要です。
ただし、何らかの理由で自宅訪問を強く要望されているお客様に対して、初手から「状況を教えて下さい」と連呼するだけでは、「家に来て見りゃ分かるだろ!」と火に油を注ぐことになりかねません。
そのため、「ご訪問だと時間もいただきますし、状況によってはこの場で提案できることもあるかもしれませんので、まず状況を教えていただけますか」など、お客様に状況説明のメリットを提示しながら傾聴していくのが有効です。
また、そのうえで、「訪問をお待ちいただかなくても、すぐに引き取り業者を手配いたします」など、訪問するか否かではなく、伺った問題を解決するための代替案を提案しましょう。
「どういう場合に訪問するか」を決めておく
「どういう場合にお客様宅を訪問するか」を予め明確にしておかなければ、何をどう確認し、訪問する場合にもどういった準備をすれば良いか分からないので、毎回大慌てすることになります。
そのため、自社の理念、ビジネスモデル、業務フローなどを踏まえて、どういった場合に訪問するのか(または訪問しないのか)を予め決めておきます。
具体的には、以下のような場合には訪問を検討します。
| 訪問を検討する場合の例 | |
|---|---|
| 訪問に伴うリスクを軽減するための対策をできる | 客先を訪問することには前述のような様々なリスクが伴い、新たなトラブルとなる可能性があります。 ただし、それらのリスクに十分な対策をとれるのであれば、訪問を選択肢から排除する必要はなくなります。 |
| お客様のお身体や財産への損害が生じている可能性がある | お客様のお身体や財産への損害が生じている可能性があるなど、現場や現物を確認する必要がある場合には、訪問を回避しようとする姿勢は不誠実に映ります。 そのため、リスクを軽減するための手立てを考えて行く必要があります。 一方、上記に該当しない場合は、例え自社に何らかの不備があったとしても、基本的には訪問以外の解決方法を優先的に検討します。 |
| 訪問することのメリットが相対的に大きい | リスクに対し対策が取れなかったとしても、例えば、訪問確認するか否かにより多額の賠償額が左右されるなど、リスクを大きく上回るメリットがあるなら訪問を検討します。 また、訪問することでお客様に大きなメリットが創出される場合や、お客様のデメリットの解消が期待される場合にも訪問を検討します。 |
一方、自社の理念やポリシーにもよりますが、上記に該当しない場合には訪問をお断りした方が無難です。
なお、このうち3つ目の「訪問することのメリットの相対的な大きさ」は、より建設的な他の代替案を充実させることで小さくすることが可能です。
そのため、訪問するかしないかといった眼前の対応だけでなく、経営層のリーダーシップによる改善活動が重要です。
訪問を断る時には堂々と断る
お客様のお話しを丁寧に傾聴したうえで、それが訪問を検討する場合に当てはまらないときは、訪問をお断りし、他の解決方法を提案していきます。
このとき、曖昧な断り方をすると、「何言ってるか分からねーよ!」「分かったから早く来いよ!」など、断ろうとしていること自体に腹を立てられることになりかねません。
下手をしたら、こちらは「NO」と伝えたつもりだったのに、お客様は「YES」と思いこまれ、「来ると言ったのに来なかった!」と大炎上になる場合もあります。
そのため、訪問をお断りする時には、冷静かつ丁寧に、しかし以下のように明確にお断りしましょう。
- 恐れ入りますが、当社では原則として、ご自宅への訪問はしておりません。
- 社内規定により本件でのご訪問はいたしかねますが、訪問以外は責任を持って対応いたします。
- 上司とも協議しましたが、トラブル防止のため、ご自宅への訪問はご容赦をお願いいたします。
ポイントは、訪問しないことは会社のスタンスであることを丁寧に伝えることです。
ただ単に「訪問はできません」と連呼するだけでは、担当者の意見と思われ、「お前じゃ話しにならないから上司に代われ!」など、別なクレームになることもあります。
ですから、そうならないように、断るなら明確にお断りするようにしましょう。
「訪問が避けられない場合」に備える
カスハラに伴う訪問のリスクを解説して来ましたが、実は、客先で座布団の下の私物を壊してしまったり「来なかっただろ!」と糾弾されたとしても、それ自体が与える損害額は僅かであり、大きな問題ではありません。
問題なのは、従業員が精神的に追い詰められることや、それにより過剰要求を受け入れてしまうことです。
しかし、現実の対応においては、そのお客様が大口の得意先だったりなどの理由で、どうしても訪問が避けられない場合もあります。
そこでここからは、訪問が避けられない場合にどうやってリスクを軽減させるかについて解説します。
「訪問後」ではなく「訪問前」の事前対策が重要
既に説明した通り、自宅訪問をした相手に悪意があり、確信犯的に仕掛けて来た場合、極めて幅広にリスクが隠れていることになるため、その場その場の対応で全てのリスクを回避することは困難です。
そのため、訪問の前にできるだけ対策をすることが極めて重要です。
基本的な方向性としては、不確定要素を極力低減させることであり、通常の会議と同じ様に事前に面談アジェンダを合意し、訪問後も極力そこから逸脱しないようにコントロールして行くことです。
具体的には、以下のような対策が有効です。
予め訪問日時、議題、参加者、時間枠などを確認しておく
議題は、訪問要求を応諾した段階で暗黙の了解になっていることが多いです。
しかし、訪問後に無関係な要求をねじ込まれないように、事前に相手に文書で提示し(メールでも可だが極力文書)、過不足があれば訂正を促すなどすることで、極力、事前にアジェンダを確定させるように心がけましょう。
また、参加者については、自社の参加者だけでなく、お客様にも本人以外にいないか確認しておくことで、訪問後に予定外の人物が介入して来た場合にも断りやすくなります。
繰り返しになりますが、不要なトラブルを避けるため、これらは必ず事前に確定させるようにしましょう。
訪問を要望された時点ですかさず、「社内報告のため事前確認ができなければ訪問できない」と言い切ってしまい、時間的な猶予を確保することも一法です。
予め注意点やNG事項を伝えておく
例えば、以下のような『注意事項』を、「会社として訪問時は皆様にお渡しすることになっております」として事前に書面で渡しておくことで、リスクの回避を図ります。
- 大変恐れ入りますが、飲食物のご提供はお断りしております。
- 細心の注意を払いますが、不知や不可抗力が原因の際は賠償に応じかねる場合がありますので、割れ物その他私物の管理などについてはご注意願います。
- 「軟禁」と言われないように、訪問は90分以内としており、時間内にご納得いただける結論とならなかった場合は、社に持ち帰って検討となることを予めご了承ください。
- 当社は、厚生労働省のカスハラ対策マニュアルに沿って対応をしています。そのため、万が一、暴力、脅迫、軟禁などの行為があれば、警察などへ速やかに相談いたします。
- 従業員・スタッフのプライバシー保護のため、録画や録音はご遠慮ください。
「NO」は「NO」とはっきり伝え、それでもダメなら対応を終える
訪問後には、相手のプレッシャーの強さに応じて、以下のように段階的に対応を変えて行きます。
こちらを決裁権者だと思い即答や確約を執拗に迫って来る場合
ご心配をおかけしていることにお詫びをしたうえで、「今回は具体的な状況の確認のために訪問しておりますので、それ以上のご要望については、即答や確約は致しかねます」などと明確に伝えます。
また、それでも強要して来る場合には、マネージャーではあるが独断で会社としての回答を行える権限が無いと言い切ってしまうことも一法です。
そのように答えると、「なら答えられる奴を連れて来い」などと要求してくる相手もいますが、「経緯確認については私が責任者であり、私が確認をした経緯に対し、社として検討して行くことになっている」と答えれば良いでしょう。
暴力、脅迫、威圧などや第三者の介入で要求をゴリ押しして来る場合
会社としてアジェンダ以外の対応はできないため止めるように伝え、止めてくれないなら直ちに交渉を打ち切って帰りましょう。
ポイントは、一度警告をしても聞き入れてくれない場合は、「事前のお約束と違う以上、これ以上の交渉は致しかねるので、今回は帰らせていただきます」などと“言いながら”立ち上がって帰ってしまうことです。
こちらが帰ってしまうと、相手は目的を達成できなくなるので、色々な理由をつけながら引き留めようと来ることがあります。
しかし、そこで対応を再開させると帰るタイミングを見失ってしまうことになりかねないので、交渉を続ける必要はありません。
むしろ、自宅に呼び付けて暴力、脅迫、威圧などの行為をして来るような相手では、従業員の心身の安心・安全が損なわれる可能性があります。
そのような言動が目立つ場合にグズグズと残ってしまわないように注意しましょう。
来社された場合にも備える
原則として訪問要求には応じないとなると、対面要求に対してはおのずと来社を促すことになります。来社対応はホーム感がありますが、突発的に乗り込まれたら準備不足になってしまう場合もあります。
また、お客様の立場からしたら、企業を自宅に来させることと、自分から時間と交通費をかけて企業を訪問することでは、心理的にも実質的にもハードルが全く違っており、そのようなハードルを乗り越えて突発的に訪問して来る相手の場合、暴力沙汰に発展する可能性もあることにも注意が必要です。
実際、このようなトラブルは何度も起きており、例えば2024年の7月に愛知県高浜市役所にも、長年にわたるトラブルの末に乗り込んできた男が灯油と思われる液体を巻き散らした事件がありました。
このようなトラブルになる可能性を踏まえて、以下のような対策を取ることが望ましいです。
- セキュリティーカード認証などにより、部外者の侵入を物理的に遮断する。
- カメラ付きの受付電話から訪問先部署に連絡させるなど、できるだけ無人対応化する。
- 手荷物は受付のロッカーに預けてもらい、手帳や書類などについてのみ持ち込んでもらう。
- 録画可能な応接室を用意しておく。
- ガラス、陶器、重量物、突起物などは、来訪者の手の届く位置に置かない。
- 男性中心かつ複数名で対応する。
まとめ | 組織的な準備により訪問に伴うリスクを減らす
これまでの説明で、訪問対応は極めてリスクが大きく、極力避けるべきであることが、ご理解頂けたかと思います。
しかし、こちらにも一定の落ち度がある場合や、長年の得意先でトラブルになった場合など、現実的には訪問要求を断ることが困難な場合もありえます。
そのような場合には、訪問により二次的なクレームに発展しないように、本コラムを参考に細心の注意を払って準備をしていただくことを強くお勧めします。
また、訪問や来社における対応では、事前にどのようなシチュエーションで訪問や来社が発生するか、どのようなリスクがあるかを洗い出し、対策を立てておくことが有効であり、組織的なアセスメントの実施やチェックリストの活用をお勧めしています。
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