【事例あり】使えるカスハラ対策マニュアルの作成を3ステップで解説
悪質クレームやカスハラが注目されるようになってから、「対策マニュアルの作成が重要」との意見を耳目にすることが増えました。
例えば、2022年2月には厚生労働省が『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』を公開していますし、2024年10月には東京都が事業者による措置等として「カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成」を定めています。書店でも、「カスハラ対策」と冠した書籍を目にする事は珍しくなくなりました。これらの動きは、クレームやカスハラの第一線で対応するスタッフにとっては、理念はもちろん重要ですが、“具体的にどう対応したら良いか?”というアクションの重要さを示すものと考えます。
一方で、カスハラ対策マニュアルを導入した企業・組織からは、以下のような声を聞くこともあります。
- 何が良くなったのか分からない、成果が見えない
- クレームやカスハラが減ったが、顧客満足度も下がってしまった
- せっかくマニュアルを作ったのに、現場のスタッフが使ってくれない
- 最初は良かったが、今は休憩室の奥で埃をかぶっている
- 使わない理由を訊いたら、「よく分からない」と言われてしまった
当社では、上記のような声に共通した原因は、マニュアルの作成自体が目的になっており、現状分析や活用の仕組みが十分ではないことが原因と考えています。
そこで本コラムでは、クレームやカスハラの対策マニュアルの作成に関し、大きく3つのポイントを解説いたします。
【事例あり】使えるカスハラ対策マニュアルの作成を3ステップで解説
<ステップ1>まず、現状を把握する
クレームやカスハラへの対策マニュアルを作成する際には、何のために、どのような業務を、どのようなマニュアルにするかを整理する必要があります。そのため、まずは以下のように自社の現状を把握します。
企業・組織としてどこを目指すか、どう在るべきかを明確にする
対策マニュアルの作成に着手する前に、自社が顧客対応を通じてどこを目指すのか(目的)、どう在るべきか(対応)、といったことを明確にします。目的や在るべき対応が明確でなければ、マニュアル化する手順も定まりません。
目的や在るべき対応については、ガイドラインなど、クレーム・カスハラに対する組織としての基本方針があるならそれに準拠しますが、ガイドラインを作成していない場合は、この機会に作成することを強くお勧めします。また、もしガイドラインがある場合でも、従業員やスタッフにどの程度理解されているかを確認しましょう。
マニュアルやオペレーションのルールなど、現場の整備状況を確認する
マニュアルやオペレーションのルールがあっても、それらとガイドラインが合っていなかったり、経営環境の変化が反映されていなかったり、何らかの理由で従業員に使われていなかったりする場合は、ほとんど意味がありません。
そのため、単にマニュアルがあるというだけでなく、従業員やスタッフが日々のオペレーションでマニュアル通りに対応しているか、していないならそれはなぜか、目的や現状と乖離が生じている場面はないか、といったことを確認しましょう。
管理者の視点だけでなく、従業員やスタッフの視点で見る
必要なマニュアルが揃っているように見えても、今あるマニュアルで十分とせず、必ず、他にマニュアル化すべき業務が無いかを確認しましょう。
この時のポイントは、今あるガイドライン、マニュアル、オペレーションを一旦脇に置き、例えそれらに該当しなかったとしても、従業員やスタッフの視点で、現に今、従業員・スタッフが困ったり嫌な想いをしたりしていることを注意深く拾い上げることです。そのうえで、それらがヒューマンエラーかロジックエラーかを見極めながら、必要に応じてマニュアルへの反映を検討して行きます。
<ステップ2>運用の仕組みを作る
マニュアルを作成する場合には、今ある手順をそのままマニュアル化するだけでなく、必要に応じて新たなルールを作ったり、不都合が生じている既存のルールを見直したりしながら、マニュアルを作り、検証を行い、修正し、組織に浸透させていきます。
クレームやカスハラの対策では、担当者や顧客対応窓口だけでなく、製造や配送など様々な部門との連携が必要になる場合も少なくありません。そのため、マニュアルを作成する際には、単なる事務処理能力だけでなく、全体観を持ちながら、根気強く部門間調整をして行く能力が必要です。前段で把握した現状に基づき、誰が、どのような権限・ルールに基づいて、マニュアルを作成するかを決めて行きましょう。
責任者と推進メンバーを決める
マニュアルを作成する際は、それぞれの内容がバラバラになってしまわないように体制を明確に資、誰が、どの部分に対し、どのようなマニュアルを作り、誰が承認するかを予め決めてから着手します。
責任者を決める
ハードクレームやカスハラは、原因・改善策ともに広範に及ぶことが多いため、社内の利害関係を俯瞰的に判断し、組織として進むべき方向に導けるように、役員クラスを責任者にすることをお勧めします。
推進メンバーを決める
役員の下で具体的に誰が部門間で調整を行い、誰がマニュアルを作るかを決めます。
基本的には、部課長などの役職者が部門間や役員との調整を行い、その内容に沿って推進メンバーがマニュアルを作成して行くのが良いと思います。しかし、役職者の稼働時間が取られると、コストも嵩みますし他業務の繁忙時にはマニュアル作成が停滞してしまう可能性もあります。 そのため、商材やビジネスモデルにもよりますが、クレームやカスハラへの対策マニュアルの作成が得意なコンサルタントに対し全体の進捗管理や客観的な視点からのレビューを依頼したり、作成そのものを依頼したりすることをお勧めします。
教育、評価、報酬などの社内制度と連携させる
クレームやカスハラに対応する可能性のあるスタッフには、必ず、判断基準や基本方針など必要な教育を受けさせるほか、実際の対応にも備えロープレも実施するようにしましょう。そうしなければ、上司へのエスカレーションさえできなかったり、最悪の場合、自分では気付かないままクレームやカスハラを増やし続けてしまったり、といったことになりかねません。
また、クレームやカスハラへの対応は、営業目標達成などプラスのインパクトが無いので評価されにくいですが、組織にとっては重要な仕事です。そのため、対応スキル、意慾、周囲への影響、実際の対応状況などを組織として正しく評価してあげられるようにしましょう。
「教育」との連動
教育については、カスハラそのものに対し理解を深めるための研修と、シチュエーション別の具体的な対応を身に付けるための研修に大別できます。社内にノウハウが無い場合などは、片方に偏重してしまいがちですが、両方とも必用な研修なので、片方に偏重してしまわないように注意しましょう。
また、研修を検討する場合は、以下のような視点を持つことが有効です。
- 中経(中期経営計画)や年間活動計画に教育・研修などを反映させる
- 毎回同じにならないように、少なくても毎年1回以上は見直しをして行く
- 専門家や公的機関による教育・研修を活用する
「評価・報酬」との連動
教育だけでなく、商材やビジネスモデルに応じた評価や報酬についても検討します。必要に応じ、人事や評価委員委員会に取り組みを予め共有するなどし、適正な評価・報酬を受けられるように働きかけます。
例えば、正社員中心で目標管理もしっかり機能している組織なら、目標に組み込むだけで良いかもしれません。しかし、小売り、飲食、コールセンターなど非正規雇用中心の労働集約型ビジネスでは、もっと多様かつ即効性が高く分かりやすい報酬が有効です。
なおこの“報酬”は、必ずしも金銭的な対価だけを指しません。以下のような取組みも全て“報酬”です。
- その従業員の貢献度に触れながらちゃんとお礼を伝える
- 全体朝礼などの場で表彰する
- 閑散期にだけ使える特別有給休暇を付与する
このような“報酬”は、人によって価値が変わるため、できるだけ多くの選択肢カードを持ちながら、相手や状況に応じ適切なカードを切れるようにしておきましょう。
クレームやカスハラへの対策として使えるマニュアルを作るためには、実態を把握するための現状分析が不可欠です。しかし、社内で現状分析を行おうとしても、客観的に評価できず、過不足が生じてしまうことも少なくありません。そのため、今からクレームやカスハラへの対応体制を構築しようとする場合には、最初は専門家の支援を受けることをお勧めします。
また、専門家への相談の前に自社で対応してみたいという方は、当社のノウハウを満載した資料をご用意していますので、お気軽にダウンロードいただけますと幸いです。
<ステップ3>具体的なマニュアルを作成する
前段で説明した通り、「正当なクレームには誠実に対応し、悪質なクレームには毅然と対応する」といったスローガンレベルのものでは、現場で実際にクレーマーやカスハラと対峙している従業員・スタッフにとっては、ほとんど役に立ちません。
そのため、前述の現状把握に基づいて、推進メンバーがどのような対応が必要かを検討し、フロー、基準、トークスクリプトや作業手順などのマニュアルにまとめて行きます。
この時、基準が曖昧だと、ハードクレームやカスハラなどのプレッシャーの大きな場面において、「これは“しつこい要求”になるのだろうか」と躊躇して長時間の罵倒を受け続けることになったり、反対に、案内すべきことをしないまま「“しつこい”要求だ」と判断し、不適切な拒絶をしてしまったりしかねません。そのため、誰でも客観的に判断できるように、できるだけ具体的な数値基準を設定しましょう。
| Before | After |
|---|---|
| しつこく要求 | 30分以上経過し、これ以上同じ内容は案内しかねることを伝えた後に2回以上要求 |
| 長時間の拘束 | 30分以上経過し、2回目の退出依頼から15分以上経過 |
| 大声で怒鳴る | マネージャーから平静な対応を3回依頼した後も状況が変わらない |
なお、「対策マニュアル」と聞くといわゆる業務手順書のようなイメージを持つ方がいますが、それだけに限りません。業務特性に応じて以下のようなドキュメントを組み合わせながら、具体的な案件に対し実効性を高めて行きましょう。
業務手順書
主に業務のやり方そのものを解説したマニュアルです。クレームやカスハラの判断基準、確認内容、案内事項、事後処理などについて具体的に解説します。また、専用システムを使う場合は、その操作方法や対応履歴の残し方についても記載しておきましょう。その他、対面接客の場合には、監視カメラの位置や立ち位置について記載しておきます。
なお、近年は分厚い紙のマニュアルではなく、オンライン上で共有するマニュアルを使っている例を目にすることも多いですが、当社でも、赤入れする場合は紙がやりやすいですが、従業員への共有はオンラインマニュアル化することをお勧めしています。
オンラインマニュアルであれば、常に最新版を共有することもできますし、検索性にも優れ、必要な情報へのリンク設定なども可能です。もしまだ紙のマニュアルをお使いの場合も、ぜひ、オンライン化を検討しましょう。
トークスクリプト
クレームやカスハラの対応において、シチュエーション別の案内事項を、そのまま読んで使える台本形式にして共有します。この時、1問1答のようなカウンタートーク集でも良いですが、頻出のシチュエーションについては、案内の流れに沿ったフローチャートや、実際の対応をそのまま台本にしたスクリプトの方が、対応全体の流れが理解できるため使い勝手が良い場合もあります。
自社のビジネスモデルやクレームやカスハラの内容に応じ、どのようなトークスクリプトが良いか検討しましょう。
フローチャート型のトークスクリプト
台本型のトークスクリプト
各種フロー図
画面遷移、業務の進み方、関連部門との連携、エスカレーションの流れなど、フロー図にした方がぱっと見で分かりやすくなる情報は、できるだけフロー図にしましょう。
全てをフロー図にするのは大変ですが、咄嗟のクレームやカスハラでは分厚いマニュアルを読み解いている時間はないので、参照頻度の高い箇所や迷い易い箇所から優先的にフロー図の作成を検討します。
フロー図については、様々な専門書があるので、詳細はそちらに譲ります。クレームやカスハラへの対応マニュアルとしては、フロー図作成における厳密なルールに沿って対応する必要はないと思いますが、完全な自己流だと他の人が見た時にかえって分かり難いフロー図になることもあります。そのため、専門書などを参考にしながら、自社の対応が直感的に分かり、誰が見ても同じように理解できるフロー図を作成します。
なお当社では、それぞれの段階で何をするか定義し、同じものは同じように表記し、同じ動きは同じ方向になるように表記する、といったことを注意していますが、それだけでも非常に見やすくなると感じています。
チェックリスト
例えば、一次対応で最低限確認する情報や、クレームやカスハラに特有の後処理で忘れがちなことなどは、マニュアルとは別にチェックリストを用意しておきましょう。
チェックリストが無ければ、どうしても対応が属人的になり、同じようなクレーム・カスハラでも、ある人は適切にエスカレーションできたのに他の人はそうではない、といったことが発生してしまうことになりかねません。
特に、クレーム・カスハラといった強いプレッシャーのかかる顧客対応の場面では、普段通りに冷静に対応することは難しいので、ルールやマニュアルを作っても、それだけでは、なかなかその通りに対応することはできません。そのため、平時には簡単に思える対応であったとしても、その対応を漏れなく実施できるようにチェックリストを作成しておくことを強くお勧めします。
関係者の連絡網
そもそも連絡先を知らなければ、いざという時に連絡が着かず役に立ちません。
しかし、役員や管理職の連絡先までズラっと並んだ連絡網があっても、遠慮して誰もそこに連絡しなければ無用の長物です。連絡先を一覧表にするとともに、連絡基準、連絡手段(緊急時は電話優先)、SMSやeメールの場合の冒頭件名、担当者や責任者の確認サイクルなども定め、有事の際に活用できる連絡網を作りましょう。
なお、会社が業務用携帯を支給している場合には、関係者の連絡網を登録しておくことは必須ですが、そうでない場合にも、店舗ごとに設置された固定電話の短縮番号に予め番号登録しておくなど、いざという時に迷わず迅速に連絡できるようにしておくことをお勧めします。
動画マニュアル
動画マニュアルは、例えば飲食店や小売店における表情や立ち居振る舞い、客先での現況調査など客先訪問時の服装や言動、といったテキストでは分かり難いコツについてガイドする際に、非常に効果的です。
動画を作るのか、と思えばハードルが高く感じるかもしれません。ですが、最近はすごく使いやすいSaaSツールもあります。そういったツールを使えば、動画マニュアルを作るだけでなく、参照状況の確認やFBの収集も簡単にできます。
筆者が実際に使った中では、株式会社スタディストのTeach me Bizというツールが使いやすかったです。また、そういったツールを導入するほどのコンテンツボリュームが想定できないなら、まずは、Microsoft StreamやYouTubeで動画を共有しても良いでしょう。朝礼や夕礼の時に皆で参照し、お客様とスタッフに分かれて簡単に練習をしてみたり、閑散時間帯に現場から一人ずつ抜いてショート動画を見せ、感想を聞いたり、といった対応をして行くだけでも良いです。テキストだけのマニュアルと違い、動画の場合は対応イメージやポイントが分かりやすく伝わるので、非常に効果的です。
なお、接客業務に追われるスタッフが参照するマニュアルであることを踏まえるなら、一つ一つのコンテンツは朝礼などで読み合わせられる程度のボリュームにし、いざクレームやカスハラが発生した時にも迅速に検索できるように索引や目次をつけるようにしておきましょう。
また、それでも実施にクレーム・カスハラが発生してからでは、どんなに見やすい動画マニュアルでも、それを見ながら対面型の接客をすることはできません。
まとめ| 「マニュアルを作る」から「組織的な対応の仕組みを作る」に
クレーマーやカスハラへの対策としてマニュアルの重要性はよく耳にしますが、真に重要なことは、単にマニュアルを作るだけでなく、どのようなリスクに対応しどのように運用するかといった枠組みを明確にし、組織的な対応の仕組みを中でマニュアルを作成するアプローチが不可欠です。加えて、そういったアプローチを成功させるためには、マニュアルを作った後で、それを組織に浸透させるための教育や研修が不可欠です。
仕組み作りや浸透のための研修と言えば、大袈裟で大変だと思うかもしれません。しかし、そういった取組みをせずに、法改正や条例への対応のためにとりあえずマニュアルを作ったとしても、従業員・スタッフに趣旨が理解されなかったり、実際のクレーム・カスハラに合っていなかったりなどで、結局今までと同じで誰にも使われず埃をかぶり続けることになりかねません。
上記の様な取組みについて、専門家に相談してみたいという方は、ぜひお気軽に当社にご相談ください。

