中小企業のカスハラ対策失敗例10選と理由を中小企業診断士が解説
中小企業の現場でカスハラが深刻化しています。
「従業員が疲弊して辞めてしまう」
「店長が毎日クレーム対応に追われて本来の業務が進まない」
「経営者として守りたいのに、何から手を付ければいいのか分からない」
──筆者は中小企業診断士として、こうした声を日々耳にしてきました。
中小企業は、大企業と同じカスハラ対策をしようとしても、上手く行きません。
しかし、人員も時間も限られている中、“正しい対策を知らないまま場当たり的に対応してしまう”ことが多く、その結果、カスハラが長期化・深刻化してしまうケースがあります。
例えば、経営者の判断が曖昧なまま現場に丸投げしてしまったり、属人的な対応が続いてしまったり、逆に「全部自社で抱え込もう」として疲弊してしまうケースも少なくありません。
これらの多くは「失敗パターンを知っていれば避けられる」ものです。
中小企業がカスハラ対策でつまずきやすいのは、単なる知識不足ではなく、構造的な理由があります。
人員が少なく、一人が複数業務を抱えるため、カスハラ対応に十分な時間を割けません。
さらに、専門部署がないためノウハウが蓄積されず、属人化しやすいという弱点があります。
こうした構造的な制約があるため、場当たり的な対応になりやすく、結果としてトラブルが長期化・深刻化してしまうのです。
本コラムでは、中小企業で実際によく起きるカスハラ対策の失敗例を10個に整理し、なぜその失敗が起きるのか、どうすれば防げるのかを、実務経験に基づいて分かりやすく解説します。
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中小企業のカスハラ対策失敗例10選と理由を中小企業診断士が解説
経営者の確固たる信念が見えない
カスハラ対応は、前向きで誰もがやりたがる仕事ではありません。
法改正により全ての企業で対策が義務化され、自治体での条例化も進んでいます。
しかし、よほどの変わり者でなければ、怒鳴られたり、侮辱されたり、暴力を振るわれたりするようなカスハラ対応に対し、自ら意慾的に対応したいと思う人はいないはずです。
そのような仕事に対して、「仕組みを作ったからこの通りにやって下さい」と言うだけでは、必ず失敗します。
従業員に前向きに取り組んでもらうためには、経営者の信念を明確に打ち出すことが不可欠です。
従業員が安心・安全に働けるように、何よりもまず、経営者が自分の言葉でカスハラ対策の意義をしっかりと伝えるようにしましょう。
カスハラ対策が社内の制度と連動してない
せっかく経営者が自分の言葉でカスハラ対策の意義を伝えたとしても、社内制度と連動していなければ、結局は絵に描いた餅になります。
例えば、営業職なら、獲った契約に応じてストレートに評価されます。
しかしカスハラ対応の場合は、未然防止が最良ですが、未然防止を達成しても誰にも気付かれず、炎上したときにだけマイナス評価されるということもあります。
最悪の場合、本来業務が滞ることで、更にネガティブな評価を下されかねません。
組織としてカスハラ対策を始めるなら、従業員の取組みが正しく評価されるように、評価や教育などの社内制度と連動させましょう。
研修については、下記のコラムで詳しく解説しています。
制度が現場の実態に合っていない
どんなに教育制度を充実させても、それが現場の実態に合っていなければ意味がありません。
外部研修をそのまま導入しても身にならないのは、実態に合っていないからです。
自社にどんなカスハラがあるのか、従業員はどんな場合に困るのか、しっかりと把握したうえで、実態に合った制度の構築を心掛けましょう。
従業員からのヒアリングは、社内の上層部が行っても、遠慮されて十分な情報を聞き出せない場合があります。
カスハラへの理解度が十分でなければ、ヒアリングした内容を正しく評価することもできません。
そのような場合には、外部の専門家にヒアリングを依頼することも一法です。
専門家が入ることで、必要なノウハウを確保することができますし、従業員にも本気度が伝わります。
お近くに信頼できる専門家がいない場合は、当社でも承っていますので、お気軽にご連絡ください。
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商品・サービスの価値が低い(低品質)
商品やサービスが低品質の場合には、お客様の潜在的なご不満を抱え込むことになるため、どうしてもクレームやカスハラが起きやすくなります。
実際、筆者が通販コールセンターの仕事をしていた時も、「料金が高い」といった直接的なコスト面のクレームより、「品質が金額に見合って無い!」「あの値段でこの品質か!」といった品質面(特に費用対効果の面)のクレームが圧倒的に多く起きていました。
商品やサービスの価値は、店舗の理論ではなく、お客様の視点で考えることが重要です。
ただし、攻撃的なカスハラを繰り返すクレーマーの思考回路をなぞることを推奨している訳ではありません。
必要以上に手間をかけている箇所を改善したり、利用方法を予め分かりやすく伝えたりすることで、お客様が体感される価値を相対的に高めて行きます。
そうすることで、低品質に起因したクレーム・カスハラを減らすように心がけましょう。
カスハラ対応をする従業員への共感が無い
カスハラ対策は、どんなにしっかりとした仕組みを作ったとしても、動かすのは現場の従業員です。
従業員が共感してくれることなしに、に仕組が適切に動くことはありえません。
実際、あるコールセンターでは経営層が理念に基づいたガイドラインを作成しましたが、現場の声を一度も聴かずに作った結果、誰も使わない資料になってしまったという事例があります。
従業員が共感できないと、以下の問題が必ず起きます。
- 「気持ちを分かっていない」と不信感が生まれる
- ガイドラインが“高すぎる目標”として拒否される
- 一度失った信頼は長期間回復しない
特に、一度「私たちの気持ちを分かって無い」などと思われてしまえば、修復には長期間を要します。
そうなってしまわないように、その従業員の就業動機やモチベーションの強さを踏まえ、共感してもらえる仕組み作りを心掛けましょう。
仕組化せず属人化している
時折、中小企業であっても経験豊富で高品質なクレーム・カスハラ対応ができる優秀な担当者の方に出会うことがあります。
しかし、そのような担当者がいる場合であっても、組織としての対応の仕組みを構築せず、任せ切りにしてしまうことはお勧めできません。
その担当者がいる場合には乗り切ることができるけれど、不在の時には滅茶苦茶に荒らされてしまうのでは、残された従業員にとってはまさに恐怖であり、企業にとってはリスクそのものです。
採用難と人手不足にあえぐ中小企業にとって、そのような、業務そのものと無関係なトラブルによって従業員が退職してしまうことは、絶対に避けたいところです。
しかし、中小企業の場合は、マニュアル化や業務フローの整備が遅れて、対応ノウハウが属人化している場合が少なくありません。
そのような場合には、外部の専門家の支援を受けてでも可視化・共有化することをお勧めします。
対応打切りについては、下記のコラムで詳しく解説しています。
カスハラ対応・対策に一貫性が無い
例えば、従業員が100人もいる大型店舗と、2人しかいない中小企業では、一つ一つのカスハラのインパクトが大きく違います。
そのため、中小企業ではどうしても、一つ一つのカスハラに振り回され、対応に一貫性が無くなりがちです。
もちろん、柔軟であることはとても重要です。
しかし、一貫性の無い対応や対策は、仕組みにすることが困難なため、属人化の温床になりかねません。
また、安易な迎合に見えてしまうと、従業員に「ベタ折れするなら最初からそうしろよ」「だったら私に任せないでよ」と思われ、大きくモチベーションを低下させることになります。
そのため、カスハラ対策を始める時には、組織としての一貫した基本方針を定めることを強くお勧めします。
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何でも屋になる(優先順位を付けない)
中小企業の場合、何でも手を出してしまったら必ず失敗します。
カスハラ対策のセミナーに出席したり、対策本を読んだりすると、様々な取組み・ノウハウが紹介されていますが、優先順位をつけて対応して行くことが重要です。
同様に、完璧を求めることもNGです。
何でも屋や完璧屋は、人・物・金に余裕のある大企業の取るべき戦略です。
中小企業は、不足があっても早く着手し、状況に合わせて機動的に動けることが強みです。
そのため、必要なこと・重要なことから、ポイントを絞って対応して行きましょう。
なお、何でも屋にならないようにするため、中小企業にとって優先順位よりも重要な考え方として、劣後順位という考え方があります。
劣後順位とは、「優先順位」の対義語で、「やらないこと(退けるべきこと)」の順位を指します。
限りある時間やリソースを有効活用するため、あえて優先度の低いものを明確に切り捨てるプロセスです。
例えば、「マニュアル作成は自社ではやらず、外部の専門家に外注する」などと劣後順位を明確にするとこで、限られたリソースを、真に優先すべきことに集中させられるようになります。
マニュアル作成については、下記のコラムで詳しく解説しています。
現場への丸投げ志向
クレームやカスハラの対応においては、現場での臨機応変で柔軟な対応が重要です。
しかし、それは決して現場への丸投げ志向ではありません。
そのため、現場への一定の権限移譲は必要ですが、基本的な仕組みは、会社で構築しなければ、現場から「結局丸投げかよ」と支持を失い、運用が形骸化することになります。
一方、現場を支援すべきマネジメント層についても、丸投げをしたい訳じゃないけれど、ノウハウが無いので結果として丸投げになってしまっているというケースもあります。
筆者が勤務時代も、クレームとなるといつも丸投げしてくる上司に理由を尋ねたところ、「だって、私はそういう訓練受けた訳じゃないし、ノウハウも無いけど、花村さんは経験豊富だから、、、」と申し訳なさそうに言われたことがあります。
丸投げ志向は良くありません。
一人で色々なタスクをこなさなければならず忙しい中小企業では、現場の負荷を考えずに丸投げしていたら、最悪の場合は現場が崩壊します。
ですが、丸投げをしないためには、単なる掛け声だけでなく、マネージャー層や、場合によっては経営層に対しても、適切な教育・研修の機会を設け、組織として吸収できる仕組みを作ることが不可欠です。
自社での丸抱え志向
筆者は、現場丸投げは最悪の方策だと思いますが、リソースの限られた中小企業にとっては、自社丸抱えは次悪の方策であると考えます。
人手不足の多くの中小企業は一人で複数のタスクを抱えています。
そのような中で、自社の本来業務ではないカスハラ対応や対策の仕組み作りを持ち込まれると、どうしても後回しになりがちです。
特に、トークスクリプトやカウンタートーク集など、具体的なカスハラ対応のノウハウが無ければ作れないツールを自社で調べて作ろうとすると、それだけで膨大な時間がかかるうえ、品質にも不安が残ります。
実際、筆者の支援先の中にも、4か月かかってもマニュアル作成が全く進まず、筆者に声をかけてくれた会社がありました。
ご依頼いただいた際、拠点長は「4か月の間にもカスハラは発生し続け、従業員が退職するなど、最初に比べてむしろ必要性が大きくなった。これなら、最初から専門家に依頼しておけば良かった」と仰っていました。
もちろん、できるなら自社で対応しても良いです。
しかし、そうで無いなら、リソースの少ない中小企業が自社で丸抱えすることは、営業活動など本来やらなければならないことに押しやられて滞留し、従業員を不安にさせるだけです。 自社にリソースやノウハウが無いなら、外部の専門家を活用することを強くお勧めします。
まとめ|中小企業のカスハラ対策は「時間が経つほど深刻化する」
- 優秀な担当者の不在時にトラブルが起きると現場が崩壊する
- 対応が人によってバラバラでクレーマーに付け込まれる
──こうした声は、実際に筆者が耳にしたものです。
しかし、だからと言って何でも自社で抱え込もうとすると、マニュアル作成や仕組みづくりが滞留し、その間にもカスハラは発生し続け、従業員の離職リスクが高まります。
人・物・金が十分ではない中小企業は、大企業と同じカスハラ対策をしても上手く行きません。
むしろ、「やり方を間違えると、むしろ被害が拡大する」という厄介な特徴があります。
そして、カスハラは一度深刻化すると、現場の負荷は指数関数的に増え、経営者が気付いた時には手遅れになっているケースも少なくありません。
場当たり的な対応を続ければ、同じようなトラブルが繰り返され、従業員の離職・店舗の炎上・本業の停滞といった“経営リスク”が確実に積み上がっていくことになるので、注意しましょう。
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