【全企業が義務化】カスハラ対策指針要綱案を中小企業診断士が解説します
2026年1月20日、厚生労働省から『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針案要綱(以下「カスハラ対策指針」)』が公開されました。
カスハラ対策指針は元々、2026年中に施行され全企業が対象となる『改正労働施策総合推進法』の中で、厚生労働大臣が定めるものとされており、改正法と一体のものです。
具体例として、カスハラ対策指針は、カスハラに該当する行為について、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「威圧的な言動」などと類型し以下のように例を挙げています。
【身体的な攻撃】
- 物を投げつけること
- わざとぶつかること
【精神的な攻撃】
- 悪評を投稿することをほのめかす発言
- 店舗の物を壊すことをほのめかす発言
【威圧的な言動】
- 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること
- 反社会的な言動を行うこと
しかし、これらの行為自体は、これまでもカスハラとされていたものであり、目新しくはありません。
カスハラ対策指針で最も重要なことは、カスハラや、改正労働施策総合推進法のための事業者に求められる取組みについて、具体例が示されたことであると言えます。
ただ、読めば分かりますが、カスハラ対策指針は少し分かり難く、対策をイメージし難いかもしれません。
そこで本コラムでは、クレーム・カスハラの対策の専門家である中小企業診断士が、カスハラ対策指針の中で特に重要と思われるポイントを取り上げ、対策について解説します。
※内容には細心の注意をしておりますが、コンサルタントとしての見解です。厳密な解釈については、監督省庁などへのご確認をお願いいたします。
【全企業が義務化】カスハラ対策指針要綱案を中小企業診断士が解説します
用語・言葉の定義
カスハラ対策指針では、カスハラに関する様々な言葉について、以下の通り定義しています。
「カスハラ」とは
カスハラ対策指針では、職場で行われる以下の3つの要素をすべて満たす行為をカスハラとしています。
- 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動により
- 労働者の就業環境を害すること
上記の定義は改正労働施策総合推進法と同じ内容です。
また、表現は若干違いますが、同じ厚生労働省が2022年2月に公開した『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』や、『埼玉県カスタマーハラスメント防止条例』とも、基本的な内容は同じです。
カスハラ対策指針における本項のポイントは、カスハラの定義そのものではありません。
顧客等からの苦情であっても「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない。」と明記されたことです。
このような、カスハラの排撃に偏重せず、正当なクレームに対しては真摯に対応し自社のサービス改善に努めていくことの重要性は、指針の後段でも繰り返し触れられています。
「職場」とは
労働者(社員、従業員、スタッフ)が通常業務を遂行している場所以外でも、業務を遂行する場所は「職場」に含まれます。
従って、以下のような場所も「職場」に該当することになります。
- 勤務先である会社
- 取引先の事業所、事務所、店舗など
- 取引先と打合せをするための飲食店
- 顧客の自宅等
外回りの営業の他、テレワーク(在宅勤務)やシェアオフィスが浸透している現在においては、社外でカスハラが起きても適切にフォローができるように、企業には十分な注意と仕組み作りが求められます。
「労働者」とは
正規、非正規を問わず、事業主が雇用する全ての労働者を指します。
また、派遣労働者については、派遣元と派遣先の双方が、その派遣社員の雇用主とみなされます。
従って、両方の事業主は、派遣社員に対しても以下の対応が求められます。
- 直接雇用の労働者と同様の配慮および措置
- カスハラ相談を理由とした不利益取扱いの禁止
「顧客等」とは
今既にいる顧客(既存顧客、顕在顧客)だけでなく、潜在的な顧客も含めて以下の例を挙げています。
- 商品の購入やサービスの利用をする者
- 事業に関する問い合わせをする者
- 取引先の担当者
- 企業間での交渉を行う際の担当者
- 施設・サービスの利用者
- 施設の近隣住民
- 上記の家族
ポイントは、B to B(企業間取引)における顧客も挙げている点です。
カスハラ対策指針では、後段でもB to Bのカスハラについての雇用管理上の措置の実施に関する協力義務を定めており、B to Bのカスハラを重視していることが伺えます。
カスハラと言えばB to Cの問題だと思われがちです。
しかし、B to Bのカスハラは、取引額も大きいため担当者の負荷も甚大になり、被害も深刻になりがちです。
B to B企業で今まで対策を検討したことが無い方は、この機会にぜひ、しっかりと検討することを強くお勧めします。
「社会通念上許容される範囲を超えた言動」とは
カスハラ対策指針では、「業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた言動」の類型として、以下の具体例を挙げていました。
ただし、この判断に当たっては、「労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む様々な要素を総合的に考慮することが適当」とされており、具体例に該当するものが直ちにカスハラであると言えない可能性があることには、注意が必要です。
言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
「言動の内容」については、以下の具体例が挙げられています。
そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
- 性的な要求
- 労働者のプライバシーに関わる要求
契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求
対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
契約金額の著しい減額の要求
不当な損害賠償昇給
商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求
手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
「手段や態様」については、以下の具体例が挙げられています。
身体的な攻撃(暴行、傷害等)
- 殴る、蹴る、叩く等の暴行を行う
- 物を投げつける
- わざとぶつかる
- つばを吐きかける
精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
- ネット上に悪評を投稿することをほのめかす発言
- ネット上に労働者のプライバシーに係る情報の投稿等
- 店舗の物を壊すことをほのめかす発言
- 上記により労働者を脅すこと
- 労働者の人格を否定するような言動
- 相手の性的指向に関する侮辱的な言動
- ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動
- 土下座を強要すること
- 盗撮や無断での撮影をすること
- 労働者の機微情報に関する暴露・開示の強要・禁止
威圧的な言動
- 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること
- 反社会的な言動を行うこと
継続的、執拗な(しつような)言動
- 同様の質問を執拗に繰り返すこと
- 当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立て
- 同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつける
拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
- 長時間に渡る居座りで労働者を拘束すること
- 長時間に渡る電話で労働者を拘束すること
雇用管理上講ずべき措置の5つのポイント
カスハラ対策指針では、職場におけるカスハラを防止するため、以下の雇用管理上の措置を講じることを定めています。
なお、本項は努力義務ではなく実施義務であることに、注意が必要です。
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
事業主の方針の明確化とは、ガイドラインの作成と解すことができます。
これに対しカスハラ対策指針では、単にガイドラインを作成するだけでなく、「職場におけるカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨」について、以下のような周知・啓発の措置を求めています。
- 社内ホームページへの掲載
- 社内報、パンフレット、等に記載し配布等する
- トップメッセージとして広く社内に発信する
- 労働者に対して研修、講習等を実施する
相談体制の整備
労働者からの相談に対し、適切かつ柔軟に対応するため相談体制の整備が求められています。
なお、この相談体制については、をあらかじめ定め、労働者に周知するとともに、以下の対応が例示されています。
- 相談先として、上司に当たる管理監督者等を定める
- 他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置をする
- 外部の機関に相談への対応を委託する
ポイントは、カスハラが実際に生じている場合だけでなく、カスハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることが求められている点です。
カスハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
カスハラに係る相談の申出があった場合、事実関係の迅速かつ正確な確認及び適切な対処として、次の措置を講じなければならないとしています。
なお、本項は「“事後”の迅速かつ適切な対応」となっていますが、ポイントは、管理監督者への交代や被害者と行為者の引き離しなど、“発生中”の適切な対応も求められている点です。
事実関係を迅速かつ正確に確認していると認められる例
- 管理監督者等がその場で事実関係を確認し対応する
- 関係部門や委員会等が、相談者に事実関係を確認する
- その際、相談者の心身の状況などにも適切に配慮する
- 必要に応じて、周囲からも事実関係を聴取する
- 必要に応じて、録音・録画等の客観的な証拠を確認する
速やかに被害者に対する配慮措置を行っていると認められる例
- 管理監督者等が被害者に代わって対応する
- 被害者と行為者を引き離すこと等の措置を講ずる
- 暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
- 行為者に対応する担当者の変更又は複数人で対応する
再発防止に向けた措置を講じていると認められる例
カスハラの原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などが把握された場合には、その問題等そのものの改善を図ること
実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
カスハラについて特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならないとしており、以下の対応例を挙げています。
- 行為者に対し警告文を発出する
- 行為者に対し商品の販売、サービスの提供等をしない
- 行為者に対し店舗及び施設等への出入りを禁止する
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる
ポイントは、これらの措置について、誰が、どのような基準で、どこまで、どの様に対応するか具体的に決めておくことです。
また、決めるだけでは、いざという時に対応できず、実効性が確保できません。
そのため、ロープレなどでカスハラ発生時の動きをなぞってみて、曖昧な点がないか、予め必ずチェックしておくことを強くお勧めします。
従業員への保護に関する措置
カスハラに対する相談をして来た従業員を保護するため、以下の措置を求めています。
相談者のプライバシーの保護
- プライバシーに必要な事項をマニュアルに定める
- 相談を受けた際は、当該マニュアルに基づき対応する
- 相談窓口の担当者に必要な研修を行う
- 上記を労働者に対し、周知、啓発、配布等する
相談者の不利益取扱いの禁止
- カスハラ相談への不利益取扱いの禁止を規程に定める
- 上記を労働者に対し、周知、啓発、配布等する
他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力
本項は、B to Bの取引(企業間取引)において、自社の労働者が他社へのカスハラ加害者となった可能性があるなどで、事実関係の確認などの協力を求められた場合に、以下の措置を講じるよう努めるとしています。
- 協力の求めに応ずるように努める
- 協力を求めたことを理由に不利益取扱いを行わない
- 協力した労働者に不利益な取扱いを行わない
- カスハラが確認できた場合は、就業規則等に基づき、懲戒その他の措置を講ずる
ポイントは、B to Bのカスハラにおいては、加害者だけでなく被害者になる場合もあることです。
前述の通り、B to Bのカスハラは取引額が高額であることに加え、契約関係が複雑、叱責や要求がKPI未達など自社の不足が原因になっているなどの理由により、カスハラと認識されにくいです。
また、営業担当者にとっては、クライアントからの叱責や契約の終了は、自分の成績に直結するうえ、自らの対応についての不足点をあげつらわれることが多いため、周囲に相談できず一人で抱え込みがちです。
そのため、B to Bの企業においては、協力を求められてから上記のような措置を受動的に講じるのではなく、普段から取引先と誠実にコミュニケーションを行うことが不可欠です。
カスハラ対策指針や労働施策総合推進法の改正に伴うカスハラ対策義務について、協力して取り組むなど、建設的な対応をするようにこころがけましょう。
まとめ|カスハラ対策は、組織的・計画的な対応が有効
今回公開された『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針案要綱(カスハラ対策指針)』は、改正労働施策総合推進法に比べ内容が具体的であり、その分、細かく分かり難い点も多いかと思います。
しかし、カスハラ対策指針や改正法に対応しなければ、カスハラが発生した場合、カスハラそのものの被害に加えて、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことにもなりかねません。
クレームやカスハラに特効薬はありません。
ですが、顧客満足度がいつも低い状態ならちょっとした火種がクレームやカスハラに発展しやすく、いつも高い状態ならちょっとした火種は自然に鎮火します。
そのため、義務だからと外形的にカスハラ対策をするのではなく、法改正によるカスハラ対策義務を機会に、クレーム・カスハラを減らし更に顧客満足度向上を高める、一貫した対応を強くお勧めします。
専門家に無料相談をご希望の方は、お気軽に下記からご連絡下さい。


