【広報】メディアリレーションのやり方 実務の流れを具体的に解説
(参考記事)
メディアからの取材対応 広報PR担当者が抑える6つのポイント
これまで、広報PRの仕事としてプレスリリースについてお伝えして来ました。
しかし、何度かお伝えして来た通り、プレスリリースを出したからと言って、簡単に取材やメディア掲載が実現する訳ではありません。大多数のプレスリリースは全く見られないか、見られてもほんの数秒で、日の目を見ること無く終わります。
そうならないようにするためには、プレスリリースの前後のアクションとして、いわゆる『メディアリレーション』を実施することが重要です。メディアリレーションとは、企業や団体がメディアとの関係を構築し、情報発信や露出機会を増やすための活動です。
メディアを通じて自社の製品やサービス、取り組みなどを積極的に発信してもらうためには、自社のブランディングやイメージアップを行い、商品やサービスが解決する社会課題、メディアにとってのニュースバリューなどを継続的に伝え、メディアや報道機関からの信頼を獲得する必用があります。
本コラムでは、このメディアリレーションについての基本的なアクションを解説いたします。
【広報】メディアリレーションのやり方 実務の流れを具体的に解説
メディアリレーションとメディアプロモート
最初に、メディアリレーションと混同されやすい言葉として、「メディアプロモート」があります。
「メディアリレーション」とは
メディアリレーションとは、メディア関係者からの自社に対する理解度を高め、長期的に良好な関係を築くために、自社の情報を積極的に提供することで、自社に対するメディアのレピュテーション(評判)を高めて好意的な露出を増やすための活動です。
「メディアプロモート」とは
メディアプロモートとは、プレスリリース配信や記者会見開催などを通じて、特定のメディアを対象にした、自社情報のメディア露出が目的の短期的な活動であり、メディアリレーションの一環として位置づけられます。
両者の違いについて
両者は厳密には、目的、対象、活動内容、効果などが異なります。
しかし、両者とも大枠ではメディアへの露出を拡大するための活動であり、メディアプロモートとはメディアリレーションの一環と位置付けられます。そのため、広報PRの専門家以外ではあまり意味のある区分けではなく、少なくても筆者は、実際のメディア対応において「プロモートします」「リレーションします」といった会話をした経験はありません。
そのため本コラムでは、特に両者を区分けせず「メディアリレーション」で統一して説明します。
事前準備
広報PRの仕事と言えば、自分の名前の入ったプレスリリースが報道されたり記者会見の司会進行をしたりなど、華々しいシーンを想像する方が多いと思います。しかし、そういった華々しい仕事を成功させるためには、地道なメディアリレーションの継続が不可欠です。
例えば、同じテーマであっても、全く見ず知らずの会社から突然送られてきたプレスリリースを掲載するのは躊躇するかもしれませんが、ある程度関係を築き、自社の専門性などについて信頼してもらっている状態であれば、少なくても躊躇や警戒心は無くなります。極論すれば、記者との間に十分な信頼感家を築き専門性と認知されており、直接情報提供することで取材や掲載に繋がるなら、わざわざプレスリリースなど送る必要もありません。
もちろん、メディアとの人間関係だけで掲載に繋がるなどということはありませんが、自社への理解を高め信頼を獲得するためには、日頃から関係作りが重要です。
メディアリサーチの実施
貴社が商品やサービスを掲載して欲しいのは、具体的にどんなメディアでしょうか。
テレビなら番組名やコンセプト、コーナー、ディレクター、放送日時、最近の放送内容などを確認し、ターゲットメディアを選定しましょう。雑誌なら、コンセプトやコーナーに加え、主要読者層、地域、曜日、最近どんな記事が取り上げられているかなどを確認しましょう。
新聞なら、当然、全国紙の経済面を希望するかもしれませんが、よほどのニュースバリューが無い限り、最初から全国紙の経済面への掲載は少しハードルが高いかもしれません。新聞はわらしべ長者のようなところがあり、地方紙や専門紙で話題になった情報が全国紙でも取り上げられることが少なくありません。ですから、最初は掲載の確率を高めるため、地方紙や専門紙の中からターゲットメディアを選定し、コーナーや最近どんな記事が取り上げられているかなどを確認するのが良いでしょう。
メディアリストの作成
メディアリサーチによりターゲットメディアを選定したら、メディアの連絡先を確認し、メディアリストを作成しましょう。情報ソースとしては、最近はWEBサイトを確認すれば、個別のメディアやコーナー、連絡先まで掲載されている場合が少なくありませんし、掲載されていない場合でも、後述の通り代表電話に直接電話して尋ねたら、たいていの場合は教えてくれます。また、住所や電話番号をまとめて把握したい場合は、日本パブリックリレーションズ協会が発行している『広報・マスコミハンドブック PR手帳』も便利です。
なお、ここでリストを作成する目的は、単にプレスリリースを送るだけでなく、メディアへのアフターフォローやレスポンスがあった時にしっかり対応できるようにすることです。そのため、リストの項目としては、社名、メディア名、電話番号などの基本情報だけで無く、担当者名、メールアドレス、直通番号、対応履歴なども残せるようにしておくと良いです。
情報項目が増えると管理負荷が増えて運用が大変ですが、最近は使い勝手の良いCRMツールも多く出ています。リストが少ないうちはエクセル管理でよいと思いますが、リストが増えてきたらそういったツールを使って管理することを検討しても良いでしょう。
メディアへの事前アプローチの実施
メディアリストを作っても、すぐにプレスリリースを送るのではなく、できるだけ事前に電話を入れるようにしましょう。ちゃんと社名や氏名を名乗って担当部署につないでもらい、「当社は●や◎の取り組みをしております。貴社の▲の記事を拝見し、当社の情報がお役に立つと思いプレスリリースを送りたくご連絡しました。これからすぐ送りますので、ご確認をお願いできますか」などとストレートに伝えれば、ほとんどの場合は対応してもらえます。
また、担当者に繋がったらできるだけ名前や直接の連絡先(部署名、メールアドレス、電話番号など)を確認し、継続的な情報提供アフターフォローを行うようにしましょう。例えば、自社の記事ではなくても担当記者の記事や業界についての記事を目にしたら、感想に自社の情報を添えて送るといった対応も有効です(「記事への感想」として封書で送れば、ほとんどの場合は目を通して貰えます)。
事前アプローチは、自社以外からも大量に寄せられる情報の中から自社のプレスリリースを確実に見付けてもらうためなので、記者とある程度の関係を作ってからも、できるだけ毎回実施しましょう。
組織内外の情報の収集
広報PR担当は、メディアリレーションの一環として、自社や業界に関するメディアの報道状況をモニタリングしたり、そういった報道状況、トレンド、興味などに合った情報を提供するために、情報の収集や発信を行います。
具体的には、以下のような例が挙げられます。
報道状況やトレンドの確認
中小企業の場合、自分の会社が取り上げられることなんて無さそうだからといった理由で、大手紙の確認に時間を取れないという方もいらっしゃいます。しかし、業界全体の動きや元請けの名前などは確認しておかなければ、トレンドに合わせた情報発信ができません。
興味のある情報だけ効率的に確認したい場合、地域紙や業界紙の他に、Googleアラートに興味のあるキーワードを登録しておくことがお勧めですし、テレビの場合は専門の調査会社もあります。
なお、雑誌などで特集されるのを待つことは、あまりお勧めはしません。メディアへの情報提供では、「なぜ今それを報じる必要があるのか?」といった時事性がニュースバリューになる場合があります。そのため、できるだけ早期にキャッチアップできる方法を選択しましょう。
社内情報の確認
外の情報だけでなく、社内の情報も把握するようにしましょう。
広報PRの世界では、「広報を突き詰めれば経営になる」と言われることがあります。実際、新製品発表でも不祥事でも、企業にとって大きな出来事の発表はほとんどの場合、トップ自らが行っています。
広報PR活動が経営活動である以上は、経営方針や各部の重要な取り組みを正しく理解していなければ、いかにトレンドを把握しても、適切な情報の発信はできません。経営会議や営業会議を含め、社内の重要な会議は最低でも議事録に目を通しておき、できれば、結論だけじゃ無く過程の検討状況なども知れるように、会議に出席するようにしましょう。
また、いざ取材となれば、各部に大きく協力してもらったりするため、浪花節ではありませんが、人を理解し、人間関係を良好に保ち、有形無形の情報が入って来るようにネットワークを作りましょう。
対応方針の検討
社外のトレンドと自社の経営方針や取り組みを掛け合わせ、何が、いつなら、どうやったら、メディアに受けそうか検討し、広報PRの活動計画に反映させて行きましょう。また、一見して「ウケそう」だと思っても、メディアに発信するためには情報不足といったことも少なくありません。直前に不足している情報に気付かないように、予めシミュレーションをしたうえで、不足情報の調査をしたりするのも、広報PRの重要な役割の一つです。
メディアへのアプローチの実施
メディアリレーションにおけるメディアへのアプローチの目的は、自社のテーマ、活動方針、取り組み内容などを伝えてブランディングをすることで、スタンスや専門性などを理解してもらい、メディア側でそのテーマについて取材対象を探すときに「この件はあそこが頑張っていたな」と真っ先に思い出してもらうことです。
以下に具体的なアプローチ例を解説します。
メディア向けイベントの実施
メディア向けイベントとしては、以下のような例が挙げられます。
発表会・説明会・体験会など
自社の商品やサービス、店舗施設などを実際に体験してもらうために、メディアを招へいするイベント。また、ユーザー向けにイベントを開催し、参加したユーザーの声などをメディアに取材させるといった場合もある。
メディアオーディット
目的に応じて予め選定した複数の記者に個別でヒアリングを行い、企業の認知度、イメージ、広報PRへの評価をヒアリングし、記者の目から見た企業の評価する調査。
メディアキャラバン
自社の商品・サービスのサンプル、資料、プレスリリースなどを持ってメディアを訪問し、自社への理解を深めるための情報を提供する広報PR活動。
プレスリリースの実施
プレスリリースの作成については、以下のコラムで詳細に解説しているので、ここではポイントのみお伝えいたします。
刺さるプレスリリースの書き方/7つの基本と背景を解説
刺さるプレスリリースの書き方/取材したくなる5つの仕掛け
刺さるプレスリリースの書き方/メディアに掲載される7つの理由
一目で理解し、興味を持ってもらえるように、とにかくタイトルにこだわる
具体的には、以下のようなポイントが重要です。
- 計30文字以内を目安にまとめ、興味を持ってくれそうな重要度の高いキーワードから先に入れる
- 形容詞や副詞は使わず、具体的に書く
→KISSの法則(Keep it short and simple)、数字、固有名詞を記載など。また、「すごく」や「とても」などの主観的表現は、具体的な程度が分からないのでNGです。 - ニュースバリューを明確に伝える
→なぜ今それを報じる必要があるのか(時事性)、それはどのように新しいのか(新規性)、といった情報をメディアの読者・視聴者である生活者への影響として伝えましょう。
シンプルかつコンパクトに書きながら、その価値を伝えるのは、簡単ではありません。しかし、メディアには毎日大量のプレスリリースが届き、大手ともなると数百件のプレスリリースが届くため、初見の確認に要する時間は1件あたりせいぜい5秒~15秒。その壁を越えて初めて、内容を精査してもらえると言われています。つまり、初見では「読めば価値が分かる」ではなく「チラ見でも価値が分かる」レベルに集約したタイトルであることが必要です。
プレスリリースの内容について、本質的な価値は何なのか、生活者に対しどのような影響があるのかを十分に検討し、必要最小限の言葉で分かり易いタイトルをつけましょう。
全体を通じた注意点
見出しのフィルターを超えたら、具体的な内容を伝えるため、リード文や本文を作成します。
その際は、下記のような点に注意しましょう。
- 「宣伝して欲しい」「世の中に訴えて欲しい」といったことを書くのは厳禁
→メディアが捜しているのは飽くまでニュースネタ、「広告・宣伝ならカネを払ってやってくれ」となるため、絶対に止めましょう。 - 誇張や過度な強調は絶対NG
→ステマ臭やコンプライアンスリスクがあると判断されたら、ノーチャンスになります。事実ベースでストレートに価値を伝えるように心がけましょう。 - 可読性を重視し、極力A4で1枚にまとめる
→小見出しや改行で可読性を高め、ぱっと見でどこにどんな情報があるかが分かるようにしましょう。また、根拠データや写真などが不可欠な場合は「別紙」として添付し、極力、プレスリリース1枚で全体の概略を把握できるようにしましょう。 - リード文の中で5W2Hを網羅する
→基本的な情報に対し、読み手に基本的なことで躓かせないようにしましょう。 - 専門用語やカタカナ用語は使わない
→使用せざるを得ない場合は簡単な解説を添えて、共通理解に基づいて話しをしましょう。
WEBコンテンツ・デジタルコンテンツの充実
メディアリレーションを継続的に実施することで、メディアの側から、自社の取り扱いテーマに関する情報源として自社サイトに訪問してくれる場合があります。
そのため、プレスリリースの公開だけなく、自社の具体的な取り組み内容の報告、会報の公開など、そのテーマに関する情報は積極的にWEBサイト上で公開し蓄積して行きましょう。
なお、自社のWEBサイトが無い場合は、メディアリレーションが目的なら、必ずしも新しくWEBサイトを作る必要はありません。業種、業態、商材などにもよりますが、SNSやYouTubeチャネル、noteなどのサービスで対応している例もありますので、自社の公開するコンテンツに合わせ、どのような手段が良いかを検討しましょう。
アフターフォロー
プレスリリースをメディアに送ったら、できるだけ個別に連絡をし、簡単で良いので感想を聞きましょう。
なお、編集権や掲載の決定権を持っているのは飽くまでもメディアの側です。プレスリリースの配信時と同様、掲載をゴリ押ししたり、内容についてしつこく口出ししてしまわないように気を付けましょう。
メディアからのフィードバックを反映させる
もし、「もうちょっとここが知りたい」「こういう情報があれば」といったフィードバックを得られたら、すぐに該当する情報を送りましょう。または、そういった情報を反映させたプレスリリースを送り直しても良いです。
これまで何度かお伝えして来た通り、プレスリリースが1回で成功する可能性はほとんどありません。ですから、メディアからの貴重なフィードバックを得られたら必ず反映し、切り口を変え、メッセージやキーワードを見直しし、プレスリリースをブラッシュアップしながら何度でも送ってみましょう。
効果測定を行う
メディアへのアプローチを実施したら、定量・定性の両面から効果測定を行いましょう。
定量的な要素としては、メディアへの掲載数、自社サイトのインプレッション数、関連した問合せ数などがあります。定性的な要素としては、掲載時のメディアの論調(ポジティブ or ネガティブ)やキーワードなどがあります。定量・定性の両面から効果測定を行い、修正点や継続点を抽出し、次のプレスリリースや広報PR活動に反映する情報を抽出しましょう。
なお、近年は新聞やテレビといった従来型のメディアの他にも、インフルエンサーやまとめサイトといった存在も一定の影響力を発揮するようになりましたし、商材にもよりますが、芸能人や有名人が言及したり実際に利用していたりすることでも、大きな注目に繋がる場合があります。従来型のメディア以外でも自社に言及している存在があれば、効果測定の対象に含めることを検討しましょう。
リストのメンテナンスを行う
メディアリストは、一度作った後も自社、競合、業界などの情報が報じられる度に反映させ、自社からアプローチをする度に反映させていきます。そのため、メディアリレーションにおいてリストのメンテナンスは非常に重要な仕事ですが、地味で時間のかかる仕事でもあります。簡単に思えるかもしれませんが、メディアリストが増えて200件を超えてくると、感覚的には、1担当者が他の業務も抱えながら本コラムで紹介した全ての対応を継続することは不可能です。ですから、プレスリリースと同様に、重要度に応じて管理レベルを分けることが有効です。
注意点としては、以下の3点が挙げられます。
- メディアの重要度は、必ずしも掲載実績やレスポンスとは一致しない
- 経営環境、広報PR組織の成熟度やリソース、対応のステータスなどによって優先度は変わる
- 日経本紙やNHKの夜のニュースが必ずしも優先度高とは限らない(業界紙や地方紙の方が現実的なゴールとして優先度が高い場合も多い)
いずれにしても、自社の業種・業態、戦略などに基づいて“重要”と位置付けたメディアへの掲載状況がイマイチなら、管理レベルを上げ、その分、優先度の低いメディアへの対応は簡略にするといった視点が無ければ、時間の経過とともに妥協して行き、使い物にならないリストになってしまいまうことには注意が必要です。
まとめ
メディアリレーションの要諦は、あくまでもメディア・報道機関との信頼の構築です。
上記のように説明すると、仲良くなれば掲載してもらいやすくなると考えて「接待でもしようか」と考える方もいらっしゃいますが、それで掲載に繋がることはありません。もちろん、仲良くなれば酒席を共にすることくらいはあると思いますが、プロの報道機関に対して「だから掲載してくれ」などとリクエストするのは完全に逆効果であり、敬遠されかねません。例え酒席であっても、メディアに対しては、専門的な情報、ニュースバリューのある情報、自社が持っている独自の情報など、記者が興味を持っている情報を伝えることが信頼感に繋がり、いざという時の掲載に繋がります。
ポイントは、メディアが興味のある情報を提供し続けられるように、戦略的、計画的、組織的に対応して行くことです。弊社では、組織作りからメディアリレーションの実務まで、包括的にご支援をしておりますので、広報PR活動でお悩みの方、これから強化したい方は、お気軽にご相談ください。