【埼玉県】カスタマーハラスメント防止条例のポイントを解説

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令和7年12月23日、当社のある埼玉県でもカスタマーハラスメント防止条例が公布されました。
この条例は事業者への義務ではないので、守らなかった場合にも罰則はありません。
しかし、県が、「従業員数9人以下の小規模事業者が多数を占める本件の特性」を鑑みて、カスタマーハラスメント(以下カスハラ)への対応方針を明確に示したことには、大きな意味があります。

しかし、この条例が実は、クレーマーを規制するだけでなく、企業や事業者(事業を行う法人、事業者団体、その他の団体、事業を行う個人)に対してこそ、大きな責務を課すものであることは御存知でしょうか?

「条例は義務ではないから」と放置すると、施行後に深刻なトラブルに巻き込まれるかもしれません。
そこで本コラムでは、埼玉県カスタマーハラスメント防止条例の施行に先立ち、その内容を抜粋して解説するとともに、実践的なポイントについて解説いたします。

※本コラムは、コンサルタントとしての知見に基づいた見解です。
正確な解釈などについては、県管轄窓口などにご確認をお願いいたします。

【埼玉県】カスタマーハラスメント防止条例のポイントを解説

埼玉県カスタマーハラスメント防止条例の目的

本条例では、第一条で以下の通り目的を定めています。

第一条 (目的)
(前略)とりわけ①従業員の数が九人以下の小規模の事業者が多数を占める本県の特性に鑑み、②事業者が顧客等との良好な関係の下、安定した事業活動を継続できる環境を構築するとともに、顧客等の豊かな消費生活及び公正な取引を促進し、相互に尊重し合える社会の実現を図り、もって持続可能な社会の実現に資することを目的とする。

(下線および番号は筆者が加筆、以下同様)

ポイントは以下の2点です。

  1. 従業員の数が九人以下の小規模の事業者が多数を占める本県の特性」を鑑みていること
  2. 事業者と顧客等との良好な関係に言及していること

以下、具体的に見て行きましょう。

従業員の数が九人以下の小規模の事業者」にとってのカスハラ

一般的にカスハラへの対策は、小規模事業者であるほど難しくなって行きます。
特に、以下のような事情については注意が必要であり、それを十分に理解しておかなければ、実効性のある対策を講じることはできません。

  • 対応する人、ノウハウ、スペースなどが無い
    例えば、店長とホール係が2人だけの小規模な居酒屋で営業中にカスハラが起きた場合、店長がカスハラの対応に狩り出されてしまえば、営業自体が難しくなります。
  • 対策のための設備投資が難しい
    資金的な難しさだけでなく、事業規模に対し投資額が重過ぎるため、例えば、録音システムの導入や警備員の配置、大規模な情報システムなどへの投資は困難です。
  • 弁護士に頼むのは難しい
    ハードクレームやカスハラ、それに伴う不当要求などが1件だけなら、弁護士に頼むのも一法です。しかし、対処療法にはなっても根本解決にはならない以上、発生する度に弁護士に頼むのは困難です。

小規模事業者の場合、事業者が単独で十分なカスハラ対策をすることは困難です。
そのため、本条例でも定められていますが、事業者団体として対策を講じることが有効です。

当社でも士業団体への研修など、事業者団体への対策を支援したことがあります。具体的なノウハウを習得するだけに留まらず、参加者同士でも御悩みの共有や新しい気付きに繋がり、高評価を得ています。

事業者と顧客等との良好な関係に言及していること

企業にとって、お客様は自社に売上を与えてくれる唯一人の存在です。不当なカスハラへの対策を講じる事は重要ですが、カスハラ対策を重視し過ぎる余り、お客様からの正当なクレームまで制限をしてしまうようなことになれば、顧客満足度の低下や顧客の離反を招くことになります。本条例は「カスタマーハラスメント防止条例」となっていますが、その目的で「事業者と顧客等との良好な関係」と明示したことは非常に重要です。

クレームやカスハラを無くすための万能の特効薬はありません。ただ、顧客満足度が慢性的に低い状況では、些細なことで炎上を招きやすいため、クレームも多くなりがちです。実際、筆者が関与したコールセンターでも、メーカーの有償修理センターは頻繁にクレームが起きていましたが、リピーター中心のダイレクト通販センターではほとんどクレームがありませんでした。
これは、前者は元々「故障」という満足度を下がる状況で電話をいただいているうえ、「有償」と伝えることで更に満足度を下げていたので(有償は契約に基づいた正当なものだったが)、ちょっとした言葉遣いや保留で簡単に火が着いてしまっていたのだと思います。半面、通販コールセンターでは、春夏秋冬でお客様一人ひとりの趣味趣向に合ったお勧め商品の案内が届いて無料の電話番号で親身に相談に乗ってくれ、顧客満足度が十分に高い状態で対応しているので、ちょっとしたことではクレームになりませんでした(こちらも、フリーダイヤルの通話料や販促費が価格に上乗せされているだけですが)。

条例の適用対象者

埼玉県カスタマーハラスメント防止条例の特徴としては、「事業者」に地方公共団体を含め、「事業者団体」も対象になることを明記したことです。埼玉県に先行して令和7年4月に施行された東京都カスタマー・ハラスメント防止条例と比較すると、以下のようになります。

第二条 (定義)
埼玉県カスタマーハラスメント防止条例一 事業者
商品若しくは役務を提供する事業(営利を目的としない活動を含む。以下同じ。)を行う法人その他の団体(国の機関及び地方公共団体を含む。)又は事業を行う個人をいう。
 
事業者団体
事業者の属する事業分野における共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体をいう。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例一 事業者
都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人をいう。

「営利を目的としない活動」を行う法人その他の団体も対象になるということは、NPOのほか、ボランティアやPTAやファンクラブなど労働施策総合推進法の改正でカバーされていない任意団体も含まれると解せます。また、役務を提供することを踏まえれば、会員向けのクローズな研究会なども対象になると思われます。
「地方公共団体」を含むということは、市役所やその出先機関、公共施設なども対象になることになります。

顧客からの要望の申出等に対する配慮

本条例では、第三条で以下の通り、顧客からの要望の申出に対する配慮を求めています。

第三条 (基本理念)
4 カスタマーハラスメントの防止に当たっては、顧客等の社会通念上許容される範囲の要望の申出等を行う機会を確保することが当該顧客等の利益を擁護するものであるとともに、事業者の事業活動の発展に資することを踏まえ、当該要望の申出等が妨げられることのないように配慮されなければならない。

前述の通り、企業は、不当なカスハラに対しては毅然と対応するべきですが、正当なクレームに対しては誠実に対応し、商品やサービスの改善機会とするべきです。

しかし、毅然としたカスハラ対策をしようとすればするほど、特に、ガイドラインやポスターの掲示など、目に見える対策を充実させるほど、正当なクレームが委縮することになりかねません。また、そういった掲示物がなかったとしても、従業員への教育が不十分だと、正当なクレームをカスハラとして排撃してしまうことになりかねません。そうならないようにするため、ガイドラインには必ず顧客満足についての取組みも盛り込み、従業員に対して継続的に研修を実施していきましょう。

また、ポスターやパンフレットなどの掲示物には、「当社はお客様の声を大切にしています」といったメッセージとともに、ご意見やクレームを投稿してもらうための専用フォームのQRコードを掲示することも有効です。


顧客満足度の向上やお客様の声をしっかり聴くことと、カスハラへの対策は、別物だと思われることが多いですが、実は、同じライン上で場所が違うだけです。お客様の声に真摯に耳を傾け、商品やサービスに活かすことができれば、クレームやカスハラが減るだけでなく顧客満足度の向上にも繋がります。

当社は、クレームやカスハラへの対策だけでなく、顧客満足度の向上までワンストップでご支援が可能です。本コラムの内容についてご相談を希望の方は、ぜひお気軽に無料相談をお申込み下さい。

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カスハラに対する事業者の努力義務

本条例では、第六条で以下の通り、事業者への努力を求めています。

第六条 (事業者の責務)
2 事業者は、就業者からのカスタマーハラスメントに係る①相談に応じ、適切に対応するために②必要な体制の整備、カスタマーハラスメントの防止に関し、③実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の④就業者の業務の管理上必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
 
3 事業者は、その事業に関してカスタマーハラスメントの防止への取組姿勢を示す⑤基本方針を作成し、公表するよう努めなければならない。

事業者の責務を具体的な取り組みに置き換えると、以下の通り整理できます。

  1. 相談体制の整備
  2. モニタリング体制の整備
  3. 教育・研修の実施
  4. マニュアルの作成
  5. ガイドラインの制定

なお、条例ではこの取り組みについて、上記の①→⑤の通り、相談体制の整備から始まって最後にガイドラインの作成・公表となっています。しかし、本条例の施行に伴いこれからカスハラ対策を始めようとする事業者の場合には、上記と逆で、⑤から始め以下の通り対策を講じて行くことを強くお勧めします。

  1. ガイドラインの制定
  2. 教育・研修の実施
  3. マニュアルの作成
  4. 相談体制の整備
  5. モニタリング体制の整備

最初からマニュアルを作ろうとしても、カスハラの定義や対応方針も未決の状態のままでは、有効なマニュアルにはなりません。そこで、ガイドライン制定の背景や目的を整理したうえで、カスハラの定義や基本的な対応方針をガイドラインとして整理するところから始め、その目的を達成するためにマニュアルや教育・研修を設計して行きましょう。

カスハラに対する事業者団体の努力義務

本条例では、第七条で以下の通り、事業者団体への努力を求めています。

第七条 (事業者団体の責務)
事業者団体は、基本理念にのっとり、その構成員である事業者が行うカスタマーハラスメントの防止に関する取組について、必要な助言、協力その他の支援を行うよう努めなければならない。

埼玉県カスタマーハラスメント防止条例では、その目的で「従業員の数が九人以下の小規模の事業者が多数を占める本県の特性に鑑み」と定められています。しかし、前述の通り小規模事業者は、対応する人、ノウハウ、スペースなどの不足、設備投資や弁護士に頼むことが困難、などの理由により、単独では十分な対策をすることはなかなかできません。そこで、その事業者が構成する事業者団体として、カスハラ防止に関する取組みについて、助言、協力、その他の支援をするよう努めるとなっています。

具体的には、自社の参加している業界団体や地域の商工会に相談することが考えられますが、団体によっては対応が困難な場合もあると思います。そのような場合には、その団体として専門家を招聘することも有効です。
ちなみに当社でも、先日、埼玉県中小企業診断協会に対し、2日間のカスハラ対策研修の講師として登壇をして来ました。中小企業診断士は、中小企業のビジネスモデルを熟知した国家資格であり、様々な事業者様の実態を踏まえた実践的な御支援が可能です。

県による指針作成、情報提供、助言、啓発、表彰、財政上の措置など

第九条以降では、県の様々な取り組みを定めています。
これらの取組み自体は非常に良いと思います。しかし、誤解を恐れずに言うと、筆者は、公務員の方でクレームやカスハラへの対応が上手な人は少ないと感じています。もちろん、上手な人がいない、という訳ではありません。しかし、クレームやカスハラを排撃すればそれで良い公務員や公共機関と、例え理不尽なクレームであっても得意先であれば対応せざるを得ないこともある民間企業では、根本的な価値観が違うように思います。

そのため、当社としては県に対し、事業者への直接的な助言をするよりも、専門家や専門家団体の紹介、財政上の措置や支援事業の紹介、啓発や表彰による事業者及び事業者団体の取組みの後押しなどの対応をしてくれることを強く期待しています。

第九条~第十七 (県の取組み)
(指針の作成及び公表)
第九条 県は、カスタマーハラスメントの内容に関する事項並びに県、顧客等、事業者、事業者団体及び就業者の責務に関する事項その他必要な事項を定めた指針を作成し、公表するものとする。
 
(情報の収集及び提供)
第十条 県は、カスタマーハラスメントの実態及びカスタマーハラスメントの防止に関する取組の情報を収集し、顧客等、事業者、事業者団体及び就業者に対し提供するものとする。
 
(相談及び助言)
第十一条 県は、カスタマーハラスメントに関する顧客等、事業者、事業者団体及び就業者からの相談に応じ、必要な助言を行うものとする。
 
(啓発活動等)
第十二条 県は、カスタマーハラスメントに係る問題に対する県民の関心と理解を深めるため、啓発活動、教育活動その他の必要な措置を講ずるものとする。
 
(表彰等)
第十三条 県は、事業者及び事業者団体が行うカスタマーハラスメントの防止に関する取組について、優良であると認める場合には、表彰その他の必要な措置を講ずるものとする。
 
(その他の措置)
第十四条 県は、第九条から前条までに定めるもののほか、カスタマーハラスメントを防止するために必要な措置を講じるものとする。
 
(関係機関等との連携)
第十五条 県は、カスタマーハラスメント防止施策の実施に当たっては、関係機関及び関係団体との連携協力を図るよう努めるものとする。
 
(市町村との連携)
第十六条 県は、カスタマーハラスメント防止施策の実施に当たっては、市町村との連携協力を図るよう努めるものとする。
 
(財政上の措置)
第十七条 県は、カスタマーハラスメント防止施策を実施するため、必要な財政上の連携協力を図るよう努めるものとする。

まとめ | 「カスハラを解決する」ではなく、「カスハラを無くす」ための取り組み

埼玉県カスタマーハラスメント防止条例は、2025年12月23日(火)に公布され、2026年7月1日(水)から施行されました。冒頭で説明した通り、本条例は事業者に対する義務ではなく罰則もありません。しかし、埼玉県内の事業者及び事業者団体にはこの条例が適用されるため、もし今、条例に対応をしなければ、単にカスハラが減らないだけでなく、「従業員を大切にしない企業」「遵法意識の低い企業」と思われ、従業員の信頼を失うことになる可能性があります。最悪の場合、カスハラが起きた時に、安全配慮義務違反として損害賠償を求められることになるかもしれません。

安全配慮義務まだ公布されたばかりなので、指針、情報提供、啓発など、具体的な内容についてはこれから決まり、現時点では不確定な要素もあると思います。しかし、本コラムで解説した通り、基本的な対応方針は大きくは変りません。対策には時間もかかると思いますので、ぜひ早期に対策に着手し、単に目の前のカスハラを解決するのではなく、根本的にカスハラを無くすことを強く願います。

カスハラ クレーマー 対策 相談
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花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。