【ESG経営とは?】取り組み事例と始め方を解説します

ESG経営とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮しながら、長期的な企業成長目指す経営戦略のことです。

【参考】ESGとは? ESG経営のメリットや、SDGsとの関係を解説します

大企業はESGやSDGsという言葉が広く知られるよういなる以前から取り組んできているとこも多いですが、中小企業ではまだESGやSDGsを経営の中核に置いたり、対外的に広く発信しているケースは少ないのが実情です。

しかし、実際のESG経営を確認すると、根底にある目的や考え方は中小企業にも共通することがあり、むしろESG経営に取り組むことにより中長期的な社会的評価や貢献度が高まることが分かると思います。

そこで今回は、これからESG経営を取り入れたいと考えている方へ、実際のESG経営の事例と、ESG経営の始め方をわかりやすく解説していきます。

【ESG経営とは?】取り組み事例と始め方を解説します

ESG経営の取り組み事例とは?

大企業だけではなく、中小企業もESG経営に取り組んでいる事例があるので、事例を把握して実際に取り入れながら自社にあったESG経営を見つけていきましょう。

ここからは、中小企業から大企業までESG経営の取り組み事例を4つご紹介いたします。

神奈川県横浜市 株式会社 大川印刷の取り組み事例

神奈川県にある大川印刷は、再生紙や「ノンVOCインキ」による印刷、そして配送にはテナーや電気自動車を使用することで、環境負担を徹底的に抑えた環境印刷に取り組んでいます。

本業の印刷業を通して、近年中小企業をはじめ企業や社会の課題になっているSDGsへの取り組みを実施することで、大川印刷は外部から大きく評価されるようになりました。

その結果売り上げの1割を環境印刷に興味を持った顧客が占めるようになり、大川印刷の企業としての価値を上げました。

また環境印刷を実施することで、環境に興味を持つ人材が集まり、従業員の定着率向上や、オリジナル商品の開発によって業績向上などESG経営を成功している良い事例になっています。

【参照】環境印刷について|株式会社大川印刷

東京都千代田区 三菱ケミカルホールディングス

三菱ケミカルホールディングス(以下、三菱ケミカル)は、2050年からバックキャストすることで、2030年のあるべき企業像を明確化して、実現に向けて中長期経営基本戦略「KAITEKIVision 30」を策定しています。

三菱ケミカルのサステナビリティ活動は、以下の3つです。

  • 環境との共生
  • 社会との関わり
  • ガバナンス

温室効果ガス排出削減や、資源管理、水マネジメントを推し進めることで、地球環境保護のための取り組みを進めており、リスク管理や法令遵守など企業統制の強化を図っています。

また社会との関わりも大切にしており、環境保護に取り組みながらも顧客のニーズに答えた製品は、顧客満足度の向上や従業員の活躍支援にも繫がっており、人々が生きやすい社会作りのための取り組みも忘れていません。

三菱ケミカルは持続可能性、健康、快適の3つを企業活動の判断基準として定めていて、これらに合致しない製品の製造や販売を除外しています。

ESG経営の面では、それぞれの分野で会社独自の指標を定めて数値化しており、社会から信用される企業になるために、それぞれの数値を公表しています。

【参照】サステナビリティ|三菱ケミカルホールディングス

東京都目黒区 ユニリーバ・ジャパン株式会社

ユニリーバにとって、SDGsやESG経営は1880年代に「サンライト」という石けんを販売した創業時からの“当たり前”で、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”の」という独自の企業としての目的・存在意義を掲げています。

ユニリーバはSDGsが広く知られるようになる前の2010年の時点で「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入しており、環境負荷を減らして社会に貢献しながらビジネスを成長させることを目指した事業戦略を実施。

  • 10億人以上のすこやかな暮らしを支援
  • 製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減
  • 数百万人の暮らしの向上を支援

この3つの分野で9つのコミットメントと、50以上の数値目標を設けており、SDGsが登場した時点では17の項目すべてを網羅しています。

ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランによって、ブランドが成長してゆくなかで、「ジェンダー平等」の視点から、社員採用時の履歴書から顔写真の提出と性別の記入を廃止したことで就職活動中の方から大きな人気を博しました。

「多様な人材が働くことでビジネスを成長させる基盤」という考えから、人材育成や人事制度において社員ひとりひとりが自分らしくいられることで、能力を最大限に引き出すことに成功。

人材の能力を引き出すことで企業そのものが成長しており、従業員の定着率向上という嬉しい結果にも繫がっている事例です。

【参照】地球と社会|ユニリーバ・ジャパン株式会社

京都府長岡京市 株式会社 村田製作所

電子部品を主力商品としている世界的トップクラスの村田製作所は、ESG経営において重要課題を特定して積極的に取り組んでいる企業です。

特に太陽光発電の導入には積極的に取り組んでおり、これによる環境への貢献だけではなく、採算性や面積効率など幅広い角度からシミュレーションを重ねた結果、国内拠点の従業員向け駐車場にカーポート型ソーラーパネルを設置。

村田製作所のカーポート型ソーラーパネルの特徴は、両面パネルになっていること。
空から降り注ぐ紫外線エネルギーだけではなく、地面に反射したエネルギーも電力利用することができるようになっており、想定以上の発電量が期待できたことから、コスト面の課題をクリアしています。

こういった取組みや商品開発をすることで、環境志向の顧客にとっての大きな選択理由となっています。

【参照】ムラタが推し進める気候変動対策-金津村田製作所、再エネ100%向上への道(前編)-|株式会社 村田製作所

中小企業がESG経営を取り入れるメリット

ESG経営はシンプルに「企業イメージが向上する」というメリットだけではなく、以下の3つのメリットがあります。

  • 投資家からの評価が高まることで企業価値向上が期待できる
  • SDGsの目標達成に貢献できる
  • 従業員のロイヤルティが高まる

ESG経営は投資家の間で非情に注目されており、ESGへ積極的に取り組んでいる企業は社会的な責任を果たしているという観点から、信用できる企業だと感じられるからです。ESG経営に取り組む企業に投資することで、間接的に投資家も社会に貢献することができるので、自分ひとりの力では解決できない課題を改善することにつながります。
実際、2001年には滋賀銀行が金利などを優遇したESG融資を開始し、全国の金融機関にノウハウを提供しています。

またSDGsが定める2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標と社会課題の解決にも、ESG経営は貢献することができます。
SDGsとESDは別の存在ですが、ESGはSDGsという目標を達成する手段になります。

例えば自動車の製造や販売を行う会社であれば、排気ガスによる二酸化炭素を抑える製品を製造・販売すれば、SDGsの13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」や、15番目の目標「陸の豊かさも守ろう」などに貢献することができます。

最後に、ESG経営では自社の取り組みに関する情報を開示する必要がありますが、開示することで企業としての透明性を確保することができます。

透明性の高い会社は社員の愛社精神を高めるだけではなく、良いところも改善が必要なところも見えやすくなるので、制度や文化など様々な点で改革が進み従業員の満足度が高まります。

このように働きやすい会社というのは、「今後もその会社で働いていきたい」という考えを高めることができるので、従業員のやる気を引き出して、サービスの質を向上させることにも繫がります。 企業が長期的に存続していくのに欠かせない要素をESG経営では満たすことができるという大きなメリットがあるので、中小企業は積極的にESG経営に興味を持つ必要があると言えるでしょう。

中小企業がESG経営を取り入れる際の始め方

中小企業がESG経営を取り入れる際の始め方として、以下の4つのポイントを順番に意識していく必要があります。

  1. 自社内の情報を整理
  2. E・S・Gの要素に分けて検討
  3. ビジョンを掲げる
  4. 情報を開示しながら中長期にわたって実践する

また、自社内でESG経営を実施するにとどまらず、広報・PRをいかして自社の取り組みを内外に対して開示するようにしましょう。

1.自社内の情報を整理する

ここでいう自社内の情報とは、自社内で不足している部分の情報ということです。
どういうところが不足していて、何を改善すべきなのか情報を整理していくことで、問題点や課題点を理解しやすくなります。

そして整理した情報に優先順位をつけて、何から着手していくべきか考えてみましょう。

ここで注意すべきなのは、すべての課題や問題点に取り組むのではなく、自社の理念やビジョン、経営資源と戦略などに関係するマテリアリティ(重要課題)を特定することです。
自社内の情報を整理する、そして優先順位をつけることで、ESG経営で改善する見込みがあるかどうかがわかりやすくなります。

2.E・S・Gの要素に分けて検討する

冒頭でお話した通り、ESGとは以下の3つの要素にわけることができます。

  • 環境(Environment)
  • 社会(Social)
  • 企業統治(Governance)

先ほど整理した情報をE・S・Gに仕分けしていき、ESG経営に取り入れることで改善できるのか、どういった取り組みであれば実行できるのかを検討していきます。

3.ビジョンを掲げる

先ほどの項目でご紹介した中小企業・大企業のESG経営の取り組み事例の通り、上手にESGを取り入れた経営を実施している会社は、一貫して明確なビジョンを掲げています。

  • 経営者・取締役会と事務担当の役割を明確にする
  • 各指標の現在値と目標値を決める
  • 目標値に対する取り組みを決める・ロードマップを描く

自社のマテリアリティに取り組むためには、経営層から実務担当者までが、それぞれの役割を全うし続けることが重要です。

経営者の役割は、ESG課題の取り組みに対し、人・物・金・情報などを適切に配分する。
管理者の役割は、ESG課題への取り組みを監督し、必要に応じ修正する。
実務担当の役割は、ESG課題への取り組みを実際に進める。

このように役割を明確化した上で、各指標の現在値と目標値を決めていきます。
その時は、自社が将来的に目指すイメージを明確にして、課題に応じた指標を定めることが重要です。

指標を定めたら、目標値に対する取り組みを決めて、ロードマップを描いていきます。
自社が掲げる長期的なビジョンを達成するために、短期・中期・長期で何を、どこまで目指すのかを明確にしていきます。

4.情報を開示しながら中長期にわたって実践する

ESG経営は短期的なものではなく、中長期にわたって実践していくことになります。
企業がESGに関する情報をホームページなど誰でも閲覧できる場はもちろん、投資家向けに具体的に開示することで、企業価値を適切に評価してもらうことができます。

また、情報を開示するときは特定したマテリアリティがESG経営において大きな課題で、リスクと機会、戦略、指標などが企業価値において良い影響を与えるということをわかりやすく示すよう工夫する必要があります。

  • 企業の戦略とESGの関係性
  • マテリアルな課題とその特定プロセス
  • トップコミットメントとガバナンス
  • 指標と目標値

自社のESG経営に関する情報を届けたい対象を見極めて、レポートやCSR報告書、環境報告書などの作成の必要性についても検討していきます。広報・PRなど担当者と相談しながら、どうすればわかりやすく情報を伝えることができるのか考えてみましょう。

ここまでご紹介したESG経営の始め方の良い例となっているのが、冒頭でご紹介した村田製作所です。

村田製作所は2015年にSDGsとパリ協定の採択によって、企業における非財務価値の見直しが必要になったのをきっかけにESG経営に取り組むようになりました。

同時期に村田製作所は事業規模が拡大しており、環境負荷などの社会的責任が増していると感じていました。

そんななかで社会貢献(CSR)の意識が高まったことで、「企業が社会に対して応答できる能力」と捉え直し、CSRは普遍的なもので、SDGsはその延長線上と捉えるようになりました。

「他社に遅れを取らないようにSDGsに取り組もう」ではなく、「将来的に村田製作所がどのように社会に価値を提供して、企業価値を高めていくのか」という企業戦略を立てるにあたって、SDGsを活用。

それだけではなく、SDGsを活用するにあたって、ESGにそって11の重要課題を導きだしました。

このように村田製作所はSDGsやESG経営を「他社に遅れを取らないため」ではなく、自社がどれだけ社会に価値を提供できるのか・自社の価値をどうすれば高めることができるのかに重点を置いて考えています。

【参照】SDGsを通じたムラタの価値創造(前編)|村田製作所

まとめ

SDGsが広く知られるようになり、就職先を探している方、また投資家にとっても企業が取り組む環境保護や社会問題への取り組みは非常に重要な判断基準になっています。

優秀な人材を確保して企業を成長させる、投資家たちに良い評価を受ける、これらのためにはESG経営は必須と言えるでしょう。

しかし中小企業がESG経営を始める際は、先ほど解説したような4つの手順通りにいかないこともあるでしょう。

困ったり、悩んだりしたときは、専門的にESG経営のコンサルティングを行うプロに相談しながら進めていくとスムーズです。

ESG経営に取り組むことで、企業のイメージアップや人材確保などメリットが多いので、自社のマテリアリティを特定して適切な取り組みを実施していきましょう。

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花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。