事業再構築補助金 公募要領(第10回)の概要、経費・変更点・スケジュールなど
事業再構築補助金第10回の公募が経済産業省から発表されました。公募期間は3月30日~6月30日の3か月間としています。
大きな変更点は以下の通りですが、どのような変更があったのでしょうか。詳しく解説します。
【主な変更点】
- 物価高騰対策・回復再生応援枠:新型コロナウイルス感染症や物価高騰などが原因で、事業継続が困難になった事業者を対象(「回復・再生応援枠」「緊急対策枠」を統合)
- サプライチェーン強靭化枠:国内サプライチェーンや地域産業活性化に取り組む事業者を対象
- 産業構造転換枠:事業再構築が求められる業種・事業者を対象
- 成長枠:売上高減少要件を撤廃
- グリーン成長枠:枠内に「エントリー型」「スタンダード型」を創設
- 成長枠・グリーン成長枠上限を上乗せ
- 一部枠組で2回目の申請・採択が可能に
- 事前着手承認制度の対象期間の見直し
事業再構築補助金 公募要領(第10回)の概要、経費・変更点・スケジュールなど
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金は元々、新型コロナ感染症の影響による売上高減少やコロナ終息後の未来に向けて、思い切った事業再構築に意欲を有す中小企業等(企業だけでなく、フリーランス・個人事業主も申請可能です)を支援することが目的でした。
その後、以下のようなアップデートが行われています。
第7回公募からは、原油価格・物価高騰等の経済環境の変化の影響への対応が追加されました。
第10回公募からは、ポストコロナ社会を見据えた未来社会を切り拓くための取組を重点的な支援として、下記の3枠が追加されました。
- 「産業構造転換枠」・・・産業構造の変化等により事業再構築が強く求められる業種・業態の事業者への支援
- 「サプライチェーン強靱化枠」・・・海外で製造する部品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーン及び地域産業の活性化に取り組む事業者(製造業)への支援
- 「成長枠」・・・成長分野への事業再構築を支援するべく売上高等減少要件を撤廃した枠を新設
コロナや物価高騰の影響で業績が低下し、事業のあり方を考える事業者は少なくないでしょう。巣ごもり需要でテイクアウトの需要が伸び、新たに宅配サービスや通販サイトの運営を開始した飲食店や、対人接触を避けるため対面で提供していたコンテンツを動画配信やオンラインでの質疑応答に変えるなど、さまざまな事業者が事業継続の手段を模索しています。
事業再構築補助金はそのような思い切った事業再構築、リスクを取った大胆な挑戦を支援するために公募されています。第10回公募では、以前よりも条件が緩和され、より多くの事業者が申請できるような要件に変更されました。
補助対象経費
以下の経費が補助対象となっています。
- 建物費・・・建物の建設・改修、撤去、原状回復、一時的に移転する際に要する経費建物費※建物の新築については必要性が認められた場合に限る
- 機械装置・システム構築費・・・専ら補助事業のために使用される機械装置、工具・器具、専用ソフトウェア・情報システム、改良・修繕、据付け又は運搬に要する経費
- 技術導入費・・・本事業遂行のために必要な知的財産権等の導入に要する経費
- 専門家経費・・・本事業遂行のために依頼した専門家に支払われる経費
- 運搬費・・・運搬料、宅配・郵送料等に要する経費
- クラウドサービス利用費・・・クラウドサービスの利用に関する経費(専ら補助事業のために利用する経費のうち、補助事業実施期間中に要する分のみ)
- 外注費・・・本事業遂行のために必要な加工や設計(デザイン)・検査等の一部を外注(請負、委託等)する場合の経費
- 知的財産権等関連経費・・・知的財産権等の取得に要する弁理士の手続代行費用など
- 広告宣伝・販売促進費 ・・・広告、展示会出展、セミナー開催、市場調査、営業代行利用、マーケティングツール活用等に係る経費
- 研修費(税抜きの補助対象経費総額の1/3まで)・・・本事業の遂行のために必要な教育訓練や講座受講等に係る経費
- 廃業費・・・廃止手続費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用
事業再構築補助金第のスケジュール
第10回公募は以下の日程で予定されています。
10回公募 |
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公募開始:令和5年3月30日(木) 申請受付:調整中 ※2023/5/10(水)現在 応募締切:令和5年6月30日(金)18:00 |
引用:「事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠を除く】公募要領」
申請は電子申請システムのみ可能で、法人・個人事業主向けの共通認証の「GビズIDプライムアカウント」を取得し申請します。アカウント発行は無料です。申請してから発行されるまでには1~2週間程度かかり、不備があった場合はさらに時間を要する可能性があります。補助金の申請を検討しているなら、早めにアカウントを取得しておきましょう。
※IDの取得方法は、『GビズIDの取得』をご確認ください。
申請後、これまでの公募では応募締め切りから約1か月半〜2か月程度で採択結果を発表しています。
第11回以降の公募日程は現在(2023/5/10時点)で公表されていませんが、2022/12に発表された補正予算資料では、再構築促進事業に対して5,800億円の予算を割り振ることが公開されました。そのため、確定ではありませんが、2023年度末(令和5年度末)までに3回程度公募が実施される可能性も考えられるでしょう。
枠の新設に関する変更点
第10回公募では枠組の名称変更や内容変更、新たな枠の設定が行われました。各変更点については以下の通りです。
成長枠
第10回公募では、前回までの通常枠が無くなった代わりに「成長枠」が新設されました。
新たな事業や再構築を目指す事業者を対象とし、名称変更と共に売上高減少要件が撤廃されたため、売上高の減少がない企業も、申し込めます。
項目 | 第9回(通常枠) | 第10回(成長枠) |
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補助金額 | 100 万円 ~ 8,000 万円 | 100 万円 ~ 7,000 万円 |
補助率 | 中小企業者等 2/3 (6,000 万円超は 1/2) 中堅企業等 1/2 (4,000 万円超は 1/3) ※条件により補助率が異なります。 | 中小企業者等 1/2 (大規模な賃上げ(※)を行う場合は 2/3) 中堅企業等 1/3 (大規模な賃上げ(※)を行う場合は 1/2) |
主な要件 | 2020 年 4 月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高 が、コロナ以前(2019 年又は 2020 年1月~3月)の同3か月の合計売上 高と比較して 10%以上減少していること等【売上高等減少要件】 | 【市場拡大要件】 取り組む事業が、過去~今後のいずれか 10 年間で、市場規模が 10%以上拡大する業種・業態に属していること |
売上高減少要件は撤廃されましたが、事務局が指定する「市場規模が10%以上拡大する業種・業態(市場拡大要件要件)」は、今回から追加されています。
経済産業省による「工業統計調査」や、経済産業省「企業活動基本調査」を基に業種・業態は指定されており、過去の公募で対象だと認められた業種・業態は指定業種として追加されます。対象か否かを確認したい場合は「成長枠の対象となる業種・業態の一覧」から調べましょう。
今後、公募の都度、業種・業態の見直しが行われる予定であり、今回の公募は対象でも次回の公募では対象外となる可能性があります。自社が対象の業種・業態に含まれる場合は、早めの申請をお勧めします。
物価高騰対策・回復再生応援枠
第10回公募から、以前までの「回復・再生応援枠」「緊急対策枠」を統合した「物価高騰対策・回復再生応援枠」が創設されました。対象となる事業者は、新型コロナウイルス感染症や物価高騰などが原因で事業継続が困難になった事業者や、経営の厳しい事業者です。
項目 | 物価高騰対策・回復再生応援枠 |
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補助金額 | 100 万円 ~ 3,000 万円 |
補助率 | 中小企業者等 2/3 中堅企業等 1/2 ※条件により補助率が異なります。 |
主な要件 | 以下のいずれかの要件を満たすこと。 (a)【売上高等減少要件】 ・2022 年 1 月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が対 2019~2021 年の同 3 か月の合計売上高と比較して 10%減少していること。 ・上記を満たさない場合は、2022 年 1 月以降の連続する6か月のうち、任意の3か月の合計付加価値額が対 2019~2021 年の同3か月の合計付加価値額と比較して 15%以上減少していることでも可。 (b)【再生要件】 以下のいずれかであること。 ・中小企業活性化協議会等において再生計画を策定中の者 ・中小企業活性化協議会等において再生計画を策定済かつ再生計画成立後3 年以内の者 |
「物価高騰対策・回復再生応援枠」では、「回復・再生応援枠」「緊急対策枠」で売上高減少要件を30%以上としていたものが10%以上の減少に緩和されたことで、以前よりも多くの事業者が申請可能になったのではないでしょうか。
参考までに、「申請区分別の採択状況」でお伝えした通り、「回復・再生応援枠」と「緊急対策枠」は第8回公募まで、平均採択率に対し5%近く高い申請区分でした。
前回までの要件では満たせなかったという事業者も、再度活用を検討してみましょう。
サプライチェーン強靭化枠
海外で製造する部品の国内回帰を目指し、国内サプライチェーンの強靭化、地域産業活性化に取り組む事業者を対象に「サプライチェーン強靭化枠」が新設されました。
項目 | サプライチェーン強靱化枠 |
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補助金額 | 1,000 万円 ~ 5億円以内 ※建物費がない場合は3億円以内 |
補助率 | 中小企業者等 1/2 中堅企業等 1/3 |
主な要件 | 以下の要件をいずれも満たすこと 【国内増産要請要件】 取引先から国内での生産(増産)要請があること (事業完了後、具体的な商談が進む予定があるもの) 【市場拡大要件】 取り組む事業が、過去~今後のいずれか 10 年間で、市場規模が 10%以上拡大する業種・業態に属していること(ただし製造業に限る。) 【事業場内最低賃金要件】 交付決定時点で、設備投資する事業場内最低賃金が地域別最低賃金より 30 円以上高いこと |
サプライチェーンとは、商品が消費者に届くまでの一連の流れ(原材料調達・製造・物流・販売)を意味し、日本語では供給連鎖と呼ばれています。生産拠点を海外から国内へ回帰する事業に限られるなど条件が限られますが、補助上限額は最大5億円と他の枠よりも高額なため、条件に合う場合はぜひ申請を検討しましょう。
産業構造転換枠
新型コロナウイルス感染症や、景気悪化が原因の売上高減少などによって、国内市場を縮小・事業再構築の必要がある業種・業態の事業者に対して「産業構造転換枠」が新設されました。
項目 | 産業構造転換枠 |
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補助金額 | 100 万円 ~ 7,000 万円 ※廃業を伴う場合には、廃業費を最大 2,000 万円上乗せ |
補助率 | 中小企業者等 2/3 中堅企業等 1/2 |
主な要件 | 【市場縮小要件】 以下のいずれかの要件を満たすこと ・現在の主たる事業が過去~今後のいずれか 10 年間で、市場規模が 10%以上縮小する業種・業態に属しており、当該業種・業態とは別の業種・業態の新規事業を実施すること ・地域における基幹大企業が撤退することにより、市町村内総生産の 10%以上が失われると見込まれる地域で事業を実施しており、当該基幹大企業との直接取引額が売上高の 10%以上を占めること |
ポイントとしては、成長枠に比べ補助率が高いこと、廃業を伴う場合には廃業費用として最大2,000万円が上乗せされる点です。また、サプライチェーン強靭化枠にあった賃上げ要件はありません。
そのため、賃上げは難しいと考える企業でも利用しやすく、新たな事業を始めようと検討する事業者も利用しやすくなっています。
その他の変更点
大きな変更は前述した通りですが、他の枠や対象期間にも変更があります。細かな変更点は以下の通りです。
グリーン成長枠の要件が緩和
過去の公募で採択件・採択率ともに少なかったグリーン成長枠は、日本政府の課題でもある脱炭素に向けた取り組みをしている事業者に対する枠組です。
対象事業者は「実行計画14分野に掲げられた課題解決をする事業」とし、原子力産業や半導体・情報通信産業、船舶産業などが挙げられます。
項目 | 産業構造転換枠 |
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補助金額 | (エントリー) 中小企業者等 100 万円 ~ 8,000 万円 中堅企業等 100 万円 ~ 1 億円 (スタンダード) 中小企業者等 100 万円 ~ 1 億円 中堅企業者等 100 万円 ~ 1.5 億円 |
補助率 | 中小企業者等 1/2 (大規模な賃上げ(※)を行う場合は 2/3) 中堅企業等 1/3 (大規模な賃上げ(※)を行う場合は 1/2) |
主な要件 | 【グリーン成長要件】 グリーン成長戦略「実行計画」14 分野に掲げられた課題の解決に資する取組であって、その取組に関連する1年以上の研究開発・技術開発又は従業員の一定割合以上に対する人材育成をあわせて行うこと |
エントリー枠では、付加価値額の年率平均5.0以上としていた要件を4.0以上に緩和し、開発年数や従業員の割合に対する要件も緩和されました。また、卒業促進枠、大規模賃金引上促進枠のいずれかに同時に申請することが可能です。
脱炭素を目指したい企業にとっては利用しやすい要件となったのではないでしょうか。
上乗せ枠「大規模賃金引上促進枠」「卒業促進枠」の補助率が向上
第10回公募から、成長枠・グリーン枠のみを対象とした上乗せ枠として「大規模賃金引上促進枠」「卒業促進枠」の補助率が引き上げられました。
大規模賃金引上促進枠では、要件に定められた賃上げなどの達成を条件としており、3,000万円の補助を上乗せします。
卒業促進枠では、中小・中堅企業から中堅・大企業などへ事業規模を拡大することで、成長枠・グリーン成長枠の上限額に準じて補助金額を増額します(つまり、成長枠として2,000万円の場合は4,000万円になります)。
成長枠・グリーン枠で補助金を利用するためには、賃上げ要件を満たし、成長枠・グリーン枠と同時に申請しなければなりません。成長枠・グリーン枠のため少額の賃上げを実施するなら、従業員のためにも、上乗せ枠を狙った大幅な賃上げを目指してもよいのではないでしょうか。
2回目の申請が一部可能に変更
事業再構築補助金はこれまで、1事業者につき1回のみの採択を原則としていましたが、第10回公募から「グリーン成長枠」「産業構造転換枠」「サプライチェーン強靭化枠」での再申請が可能になりました。
通常枠で再審査が廃止
第9回公募まで、大規模賃金引上枠、回復・再生応援枠、最低賃金枠、グリーン成長枠で申請し、不採択となった場合、所定の条件を満たすことにより通常枠で再審査となっていました。しかし、第10回公募からは通常枠での再審査が廃止となります。
「事前着手承認制度」の変更
第9回公募までは、補助金の交付前でも事業に着手できる「事前着手承認制度」と呼ばれる制度が、全事業類型を対象としていました。本来であれば交付決定を受けた日以降の発注・支払いが補助対象ですが、一定の条件を満たした事業者が事前着手申請制度を申し込むことで、交付決定の前に支出した費用も補助金の対象となっていました。
この事前着手申請制度が、第10回公募からは対象範囲が狭まり、「最低賃金枠」「物価高騰対策・回復再生応援枠」「サプライチェーン強靱化枠」の3類型のみ対象となります。
また、適用期間も変更となり、第10回公募では2022/12/2以降に購入契約(発注)等を行った事業に要する経費が、特例として補助対象経費となります。
物価高騰の影響や国内回帰への対応のため、補助金の交付決定を待たずに発注しないと間に合わない場合には、とても役に立つ制度です。
上記の3枠に申請する場合は、対象になる費用が無いか検討しましょう。
まとめ
事業再構築補助金では、第10回公募から幅広い事業者が利用しやすいようにさまざまな変更が行われました。特に、売上高等減少要件が必須ではなくなり、未来に向けた成長のため・発展のための取り組みが対象となったことは、非常に大きな変更点ではないでしょうか。
一方、事業再構築補助金は金額が大きいだけに非常に複雑かつ詳細であり、第10回公募では公募要領が60ページを超えました。率直に、本業の傍らでこの公募要領を全て理解し、採択される事業計画書を作成し、添付書類を準備するのは困難です。実際、弊社でも下記のようなお声を聞いたことがあります。
- 事業再構築補助⾦の指針の内容が複雑で、事業計画書にどんなことを書けば良いか分からない
- 事業者の事業アイデアと事業再構築補助⾦の要件が、合致しているか分からない
- 補助⾦の要件に合わせて新規事業を考えると、本当にやりたい⽅向とずれてしまう
- 補助⾦は使いたいけど、事業アイデア⾃体が固まっていない
- コロナで影響から回復して、売上減少要件に合わない
- 申請手続きが複雑過ぎて、結局、丸一日近くかかってしまった
事業再構築補助金は金額が大きく、手間がかかるので、事業機会を逃さないように確実に採択をされたい事業者は、信頼できる専門家に依頼することをお勧めします。
弊社でもご支援を行っておりますので、申請を検討の方はお気軽にご相談下さい。