カスハラ対策基本方針(ガイドライン)作成の5ステップを具体的に解説
カスタマーハラスメント(カスハラ)や悪質なクレームへの対応では、現場任せにしない会社や組織としての判断基準づくりが欠かせません。
どのような状況でどのように対応すべきかが明確でなければ、従業員はその場しのぎで動くしかなくなり、大きなストレスや離職リスクに直結します。
都や県の条例、市販のカスハラ対策本などでは、一様にマニュアルの重要性に触れています。
しかし、これからカスハラ対策を始めようとする企業にとっては、最初からマニュアルを整備しようとしても、実効性のあるものを作ることは困難です。
そこで当社では、マニュアルより先に、まずは「自社の顧客対応の基本方針」を「ガイドライン」として明文化することを強くお勧めしています。
明確なガイドラインに基づき、体制や権限などのルールを整備し、具体的な業務フローや作業手順をマニュアルにしていくことが、階層的で一貫してブレないカスハラ対策へと繋がります。

そこで本コラムでは、ガイドライン作成のプロセスを5つのステップで整理し、実効性を持たせるための考え方を、具体的にご紹介します。
カスハラ対策基本方針(ガイドライン)作成の5ステップを具体的に解説
ガイドライン作成の5ステップ
大前提として、ガイドラインは単独で存在するものではありません。
自社の経営理念や経営目標の下で、それを阻むカスハラに対処するためのものであるべきです。
経営理念や経営目標と一体のものでなければ、ガイドラインも場当たり的な内容になってしまい、「結局何を達成したのか」が分からなくなります。
一方、経営理念や経営目標と一体でも、自社の実態に即した内容でなければ、実効性のあるガイドラインとはなりません。
<ステップ1>状況を調査し実態を把握する
ステップの1つ目は、状況の調査です。
以下のようなアプローチを通じ、経営理念や経営目標とともに、「自社のどこで、どんなカスハラが起きているか(起きる可能性があるか)」を調査し、実態を把握しましょう。
| カテゴリ | 内容 |
|---|---|
| 1.経営層からのヒアリング | ・ミッション、ビジョン、バリュー、経営理念 ・競争環境、課題、経営目標、中期経営計画 ・顧客対応に対する考え方(クレームやカスハラだけでなく、顧客満足についても) |
| 2. 文書や記録の確認 | ・これまでのクレームやカスハラの対応報告書や従業員の対応履歴 ・現在のガイドライン(基本方針)、その作成経緯、規程類、マニュアルなど ・従業員に対するクレームやカスハラへの教育やトレーニングの内容 |
| 3. 従業員からのヒアリング・現場の目視確認 | ・印象に残っているクレームやカスハラの具体例 ・カスハラに遭った際の具体的対応(規程、研修、マニュアルの有効性を確認) ・クレームやカスハラ対応で困っていること、もっと支援が欲しいこと、その内容 |
この時、現場の従業員に対し直属の上司がヒアリングをしようとしても、既に気付いている以上のことは聞き出せなかったり、ガス抜き程度に思われて本音を引き出せなかったりする場合があります。
そのため、そうならないように、経営者の名前でカスハラ対策の背景や目的、一人ひとりの回答を大切だと考えていること、どのような回答内容であっても不利益な取り扱いをしないことなどを宣言したり、外部の専門家を窓口とすることが有効です。
<ステップ2>経営層に実態を共有する
ステップの2つ目は、なるべく早期に、経営層に対し実際のカスハラ事例を共有することです。
実際にカスハラ対応をした経験のない経営層は現場の深刻さを実感しにくいこともあり、例えば「新品交換:2台」とだけ書かれた報告では、「それくらいなら必要経費だろう」と軽視されがちです。
こうした温度差が残ると、対策は形骸化してしまいます。
また、ニュースなどで異業種・異業界のカスハラ事例を紹介されても、「うちはタクシー業ではないから、後ろから蹴られたりとかは無いだろう」と対岸の火事のような反応をされる方も少なくありません。
温度差をなくすためには、報道されるような衝撃的な事例ではなかったとしても、自社で実際に発生し従業員が対応に苦労し、心労を重ねているハードクレームやカスハラへの具体的な対応状況を共有し、切迫感を持ってもらうことが重要です。
<ステップ3>自社のカスハラを定義する
ステップの3つ目は、「自社にとってのカスハラとは何か」を明確に定義することです。
基本的には、公的な定義をそのまま用いれば良いと思いますが、もし、自社の事業特性や業界慣行などにより付け足す要素があれば付け足しても良いでしょう。
参考までに、改正労働施策総合推進法では、カスハラの定義を、職場で行われる以下の3つの要素をすべて満たす行為をカスハラとしています。
- 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動により
- 労働者の就業環境を害すること
また、貴社の所在地によっては独自の条例が適用されることもあります。
これらの中には、例えば適用範囲が労働施策総合推進法より広いと解されるものもあるので、自社に該当する条例がないかも確認しておきましょう。
参考までに、埼玉県と東京都では、それぞれ以下のようにカスハラを定義しています。
埼玉県カスタマーハラスメント防止条例
「顧客等の言動であって、就業者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該就業者の就業環境が害されることをいう。」
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。」
<ステップ4>対応方針を明確化する
ステップの4つ目は、実態に基づいて、カスハラ対応の基本方針をガイドラインとして明文化することです。
なお、ガイドラインは、従業員やお客様だけでなく、株主、取引先、就業希望者など社内外多くの関係者の耳目に触れ、理解を得て行くものとなります。
そのため、カスハラへの基本的な対応方針に加えて、なぜそのような対応が必要なのか、それにより何を目指すのか、背景や目的などについても分かりやすく記載します。
店頭掲示用のポスターなどを作成する場合は、より簡略化した伝わりやすいものにしても良いでしょう。
<ステップ5>経営者がしっかりと発信する
ステップの5つ目は、作成したガイドラインを、経営者が自らの言葉でしっかりと発信することです。
クレームやカスハラへの対応は大きなストレス・プレッシャーがかかるため、従業員にとっては、自ら取り組もうと思えるような仕事ではありません。
そのような仕事に対し、ただ単に「ガイドラインを作りました」「この通り対応して下さい」というだけでは、現場に受け入れてもらうことは困難です。そのため、当事者意識やカスハラ撲滅への決意など、経営者が自らの強いメッセージで繰り返し伝えて行くことが極めて重要です。
これまでの対応実績を十分に記録していない場合や、調査をしても有益な情報が得られない場合は、早い段階で外部の視点を取り入れることを強くおお勧めします。
自社で対応を希望される方向けには、無料資料をご用意したので、お気軽にダウンロードしていただければ幸いです。
ガイドラインに盛り込む要素の具体例
カスハラ対策ガイドラインは、社内のルールやマニュアルの大元であり、自社のカスハラへの取組みを関係者に分かりやすく伝えるものです。
当社では、実効性を高めるため、以下の6つの要素を盛り込むことを推奨しています。
- ガイドラインの背景や目的
- カスハラの定義・具体例
- 顧客対応の基本方針
- コンプライアンスや社会的責任
- 目的のため組織として取り組むこと
- 経営のコミットメント
以下、具体的に解説して行きます。
ガイドラインの背景や目的
背景や目的を欠いたガイドラインは、現場が「なぜそのた対応が必要なのか」を理解することができないため、形骸化しやすいです。
実効性を確保するため、冒頭で以下のような情報を明示することをお勧めします。
- 自社の経営理念
- 顧客対応に関する基本的な考え方
- 事業環境、機会、リスク
- 中期経営目標
- ガイドラインの目的、在るべき姿
カスハラの定義・具体例
公的な基準を参考に、自社のカスハラの定義を記載します。
ただし、定義をそのまま記載するだけでは、現場で直面する具体的なトラブルを十分にカバーできません。
実際、例えば航空業界では「社員を欺く行為」を独自にカスハラと定めています。
これは、安全保安上の必要性から定義したものと思われますが、実態に即した実効性の高い定義の好例です。
このような実態に合わせた定義が無ければ、乗客の言動がおかしい、何か隠している、とあからさまに感じるような状況下でも、例えば東京都カスハラ防止条例の定義である「就業環境を害するもの」とまでは言えないからと、機動的な対応ができないということにもなりかねません。
このように、各企業が置かれている事業特性や顧客層を反映した具体例が共有されなければ、現場での判断に迷いが生じ、従業員が必要以上に大きな被害に遭ってしまう可能性が高まります。
具体例については、厚生労働省が公開した『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針案要綱』で、身体的な攻撃、精神的な攻撃、威圧的な言動と類型化し、どのような行為が当てはまるかを挙げています。
上記を参考に、自社の事業特性やこれまでに実際にあった被害例なども踏まえながら、どのような行為がカスハラに該当するか、分かりやすく例示しましょう。
顧客対応の基本方針
当社では、ガイドラインを定める際には、カスハラへの対策だけでなく、顧客満足度にも配慮することをお勧めしています。
企業にとってお客様は、自社に売上を与えてくれる唯一人の大切な存在です。
売上が無ければ、長期的には生存さえできません。
しかし、従業員にとっては、自分の不備を指摘された相手をカスハラとしてしまえるなら、反省も改善も必用ないので、実は、一番楽なのです。
もちろん、そのようなモラルの低い従業員はごく僅かかもしれません。
しかし、カスハラ対策だけに偏重したガイドラインを作成したら、正当なクレームさえカスハラ扱いすることで改善の機会や失ってしまい、最悪の場合はサービスレベルや顧客満足度を著しく低下させる可能性があることには注意が必要です
単に「カスハラ対策」だけではなく、「顧客対応ガイドライン」の中でカスハラ対応と顧客満足をバランスよく触れながら、基本的な対応方針を示して行くことを強くお勧めします。
コンプライアンスや社会的責任
簡潔で良いので、法令の順守や人権保護の徹底、ハラスメントの根絶を目指すことなどを明確に意思表示します。
また、法令の定めが無いことでも、コンプライアンスの観点から重視している価値観などがあれば明記します。
これらを明記することにより、基本方針・ガイドラインが事業者の独りよがりではなく、法的根拠に基づいて社会的な要請に応えるものであることの宣言になります。
カスハラ対応が紛糾した場合にも、「こちらのガイドラインにもある通り、弊社は法令に順守してお客様と対応しておりますので、ご納得いただけない場合には警察や弁護士を通じての対応となります」といった毅然とした対応に迫力が生まれます。
目的のため組織として取り組むこと
従業員が安心・安全に働ける環境作りと、ガイドラインの作成目的を両立するため、企業として取り組むことを明記します。
具体的には、以下のような項目の記載が考えられます。
- 警察、弁護士、医療機関、コンサルタントなどの専門機関と連携すること
- 運用や業務フローを継続的に改善すること
- 従業員への教育・訓練を行うこと
経営のコミットメント
経営層が「責任を持って取り組む姿勢」を発信することで、現場は「押し付けられた」ではなく「守られている」と感じます。
経営計画や社内報、オンライン配信などを活用し、継続的に発信することが不可欠です。
経営層のコミットメントが弱いと、現場は「自分たちだけに責任を押し付けられている」と感じてしまい、士気や対応力の低下を招くことに繋がります。
その結果、初動の遅れや対応ミスが発生し、顧客との関係悪化やSNS炎上、優秀な人材の流出といった二次被害に直結しかねません。
ガイドラインを「形だけ」で終わらせないためには、経営層が自らメッセージを発信し続けることが極めて重要です。
ガイドラインで失敗しないために
ガイドラインは、自社の顧客対応の在るべき姿を体現したものであり、企業によっては、評価目標に結び付いている場合もあります。
目標は従業員に対して極めて強い拘束力を持ち、従業員の側でもそのメッセージに対し行動を最適化させます。
そのため、経営者のコミットメントが不十分だと、背景や意図を従業員に正しく理解されず、むしろ免罪符のように使われてしまう可能性もあります。
効果的なガイドラインを作るためには、社内の文化や業務フローまでよく理解したうえで、時間をかけてでも在るべき姿を実現していくための、経営者の強いリーダーシップが不可欠です。
既製品をそのまま使ってしまう
昨今、様々な対策本、企業や自治体のホームページなどで、カスハラ対策ガイドラインが公開されています。
しかし、それらをそのまま使うだけでは、自社の実態に合わず「どこまで対応すべきか」「どのように対応するか」の判断があいまいになり、混乱を招くケースも少なくありません。
例えば、市役所などの行政機関では「権利以上の要求」や「義務免除の要求」などの不当要求が問題になりますが、医療機関では「診療拒否につながる威圧行為」など、現場で直面するリスクはまったく異なります。
他社や対策本のガイドラインをそのまま流用することは、上記のように自社の事業特性に合わないガイドラインになる可能性があるので、注意が必要です。
モニタリングの仕組みが無い
ガイドラインは作って終わりではなく、導入後も継続的にモニタリングを行い、必要な改善を行い、現場に浸透させていくことが重要です。
そうしなければ、外形上はクレームやカスハラの件数が減っているように見えたとしても、構造的な原因の除去できたのか、それとも、自社の不手際に対する不満を伝えて来たお客様をカスハラ扱いして追い出しただけなのかも区別がつかず、最悪の場合、カスハラだけでなく自社のブランドの棄損に繋がりかねません。
例えば、経営会議の中で報告パートを作るなど、定期的なモニタリングとフィードバックの機会を作り、経営目的に沿って適宜改善して行きましょう。
何から何まで詰め込み過ぎる
ガイドラインを作る時、つい、色々な要素を詰め込みがちです。
しかし、細かなトラブルについて、その全てをガイドラインに記載することは現実的ではありませんし、無理に詰め込むと読み難く分かり難いものになります。
そのため、ガイドラインで対応方針を明確化するとともに、典型的な内容はマニュアル化やトレーニングを行うことで、「ガイドラインに沿った対応」がどういうものなのかを、実践レベルで身に付けるようにしましょう。
マニュアルやトレーニングと連動させることで、多少想定外のトラブルが起こったとしても、冷静に対応できる力が養われます。 結果として、現場の安心感が高まるだけでなく、企業全体として一貫性のある対応が可能となり、お客様に対する信頼性も向上します。
対応する従業員への配慮不足
既製品ではなく、自社でガイドラインを作る場合には、経営層だけで作らず、必ず、自社の実態を調査し、実態に合ったガイドラインを作成しましょう。
そうでなければ、どんなに立派なことを書いていても、以下のような失敗を回避することは困難です。
従業員への高過ぎた要求
ある通販コールセンターでは、経営層が真剣に議論を重ねた末に、自社の経営理念や経営計画を体現した充実したガイドラインを作りました。
しかし、時給1,300円の現場スタッフには高すぎる要求として受け入れてもらえず、退職を招く結果になりました。
上司への教育が不十分
ある家電メーカーの修理受付窓口では、「カスハラだと思ったら遠慮無く上司に相談しましょう。1人で抱え込む必要はありません」といったガイドラインを作りました。
しかし、肝心の上司への教育や支援体制が不十分だったため、片っ端からエスカレーションされた結果、その上司は心を病んでしまい、長期休職の末に退職となってしまいました。
カスハラ防止体制の構築を支援します|まずはご相談ください
労働施策総合推進法の改正により、すべての企業にカスハラ対策が義務付けられることとなりました。
当社のある埼玉県でも、2026年7月に独自条令の施行が決まり、ガイドラインの整備は待ったなしの課題です。
このガイドラインを形だけで終わらせず、実効性の高いものにするためには、自社の実態に合わせ、客観的な分析と柔軟な対策が不可欠です。
そのため、これからカスハラ対策を始めようという企業の場合には、当社では、特に初期段階では専門家の助言を受けることを強くお勧めしています。
専門家に無料相談をご希望の方は、お気軽に下記からご連絡下さい。
2026/3/2 本記事についてツナググよりプレスリリースを配信しました。


