全企業がカスハラ対策義務化|法改正の要点と対応を中小企業診断士が解説
令和7年の通常国会では、『労働施策総合推進法』の改正が行われ、早ければ令和8年10月までに、全企業に対しカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)への対策が義務化されることが決まりました。
この法改正に対応し、中小企業が最低限整備すべき項目は以下の5つです。
- ガイドラインの作成
- 従業員への周知
- 相談窓口の設置
- 教育・研修の実施
- マニュアルの整備
ただ、カスハラ対策は注目度が高い反面、従来のハラスメント対策とは異なる対応を求められ、企業独自の対策だけでは遺漏が生じる可能性があるなどのリスクがあります。
また、条文をそのまま読んでも難解で、特に、「企業は具体的に何をすれば良いのか?」が分かり難いです。
そこで本コラムでは、これまで3,000件以上のクレームへの対策を講じて来た中小企業診断士が、改正労働施策総合推進法のポイントと、企業に求められる対応を分かりやすく解説します。
※本コラムはカスハラ対策のコンサルタントとしての見解であり、具体的な法解釈は、監督省庁に確認するなどしてください。
全企業がカスハラ対策義務化|法改正の要点と対応を中小企業診断士が解説
カスハラとは
従来、「カスハラ」の定義については、厚生労働省カスタマー・ハラスメント対策企業マニュアルや自治体の条例などで定義されていましたが、それ以上の法的な定義はありませんでした。
それに対し、今回の法改正では、具体的な定義が定められました。
条文自体は少し長いので、厚生労働省が公開している令和7年労働施策総合推進法等一部改正法のポイントから抜粋すると、改正労働施策総合推進法では、職場で行われる以下の3つの要素をすべて満たす行為をカスハラとしています。
- 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動により
- 労働者の就業環境を害すること
上記だけでは少し曖昧かもしれませんが、具体的な例については、厚生労働省から『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針案要綱(カスハラ対策指針)』の中で示されています。
なお、カスハラ対策指針では、顧客等からの苦情であっても「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない。」と明記されていいます。
また、再発防止に向けた措置を講じていると認められる例として「カスハラの原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などが把握された場合には、その問題等そのものの改善を図ること。」と紹介されています。
いずれも、総合的・相対的な評価と、お客様の行為だけを是正するのではなく、商品・サービスの改善を求める点には注意が必要です。
カスハラの定義を正しく理解することは、社内ルールやマニュアル作成の第一歩です。
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事業主の雇用管理上の措置義務
過去の厚生労働省の『職場のハラスメントに関する実態調査』によれば、セクハラ、パワハラに続いて労働者からの相談件数が多いのがカスハラでした。そのため、今回の改正ではこのカスハラに対して、事業主に対し以下のような雇用管理上の措置を課されることになりました。
- 相談体制の整備(三十三条)
当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 - 不利益取扱いの禁止(三十三条2項)
カスハラ被害等の相談または事業主による相談対応への協力したことに対する、不利益取扱いの禁止 - 研修の実施および国の措置への協力(三十四条)
労働者のカスハラに対する理解や関心を深めるために研修等の実施や、国の実施する措置への協力
今回の労働施策総合推進法の改正では、カスハラに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置が具体的に定められ、「やらなければいけないこと」が明確化された点が大きな特徴です。
また、今回の法改正では、他の事業主から雇用管理上の措置に関し必要な協力を求められた場合には、それに応じるように努めなければならないことも定められました。
上記は努力義務ですが、厚生労働省が公開した指針でも、上記と同様の定めのほか、協力を求められた側の事業主の労働者が実際にカスハラ行為をおこなっていた場合には、就業規則などに基づいて適切な措置を講じることが望ましい旨が記載されています。
カスハラとクレームの違い
カスハラについては、クレームの延長と誤解される方がいらっしゃいますが、そうではありません。
カスハラはパワハラやセクハラなどのハラスメントの一種であり、以下の通り異なります。
| クレーム | カスハラ |
|---|---|
| 「クレーム」に対する法律などの公的な定義はありません。 そのため、その企業のポリシーによって独自に定義して構いません。実際、「当社にクレームは無い、全ては貴重なご意見だ」としている企業もあります。 | クレームの延長と誤解されることがありますが、そうではありません。 カスハラは、パワハラやセクハラと同じハラスメントの一種であり、労働施策総合推進法の改正により企業はカスハラに対し対策をする義務を負います。 |
ただし、ハードクレームとカスハラとでは外形的には重なるところも多く、実際の顧客対応において厳密に区別しようとしても、あまり意味はありません。
正当なクレームであれば、真摯に対応し商品やサービスの改善に活かすべきですが、そうではないなら、クレームかカスハラかと区別にこだわるよりも、いずれの場合も対応できるように対策しましょう。
カスハラとパワハラやセクハラとの違い
カスハラは、ハラスメントの一種ではありますが、パワハラやセクハラとは発生源が異なります。
そのため、以下のようなポイントを踏まえて対策を講じなければ、有効な対策は困難です。
| パワハラやセクハラ | カスハラ |
|---|---|
| 基本的には会社内部で行われる行為であり、被害者も加害者も自社の従業員であることが大半のため、以下の特徴が挙げられます。 ・会社が講じる措置についても浸透しやすい ・予め、教育、懲戒規程などを講じることができる ・必要なら綿密な事実確認などの調査もできる | 被害者は自社の従業員ですが、加害者は顧客など外部の存在です。そのため、会社内の従業員に比べてではできることに限りがあります。 ・教育や懲戒規程など予防的対策ができないため、対処療法を避けられない ・綿密に対策しても、突発的なカスハラを受ける可能性は残ってしまう ・加害者が社外のため、調査にも限界がある |
一方、共通点としては、カスハラもハラスメントの一種なので、パワハラやセクハラと同様、企業には防止措置を講じる義務が課される点が挙げられます。
この措置義務に違反すると、何かトラブルがあったときに企業が損害賠償責任を負う可能性があることには、注意が必要です。
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措置義務違反のリスク
法改正によりカスハラの定義や、それを禁じることが明確になったことは極めて有意義なことです。
一方、事業主の義務が明確に定められたことは、カスハラに対して、企業は被害者に甘んじることが許されないということでもあります。
以下、改正労働施策総合推進法への対応が不十分だった場合のリスクについて、具体的に見て行きましょう。
従業員から損害賠償請求を受ける可能性がある
雇用管理上の措置は、従来から安全配慮義務として認識されており、実際、厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでも判例などが紹介されていましたが、安全配慮義務は責任範囲が広範である一方、カスハラに対する個別具体的な対策の要求がありませんでした。
しかし、今回の法改正に伴い、事業主に雇用管理上の措置が義務付けられたことで、カスハラへの対応が不十分だと、被害に遭った従業員から損害賠償請求を受ける可能性が高まることが想定されます。
従業員の信頼を失い離職される可能性がある
従来は、カスハラは“発生してから”対応するという認識が多かったと思います。
しかし、今回の法改正で全ての企業に義務化されることにより、発生しないように予め対策するのが義務となり、対策するのが当たり前となります。
そのような中で、もし自社だけがカスハラ対策を怠れば、従業員の信頼を失い、離職に繋がる可能性があります。
他の顧客の満足度を低下させる可能性がある
目の前で乱暴な言動をされたら、例えそれが自分に無関係だったとしても、愉快なものではありません。
もしそのとき、お店の側が適切な対応をとらず、延々と怒鳴り声を聞かされるようなことがあれば、お店が被害者だと分かっていても、「またあそこのお店に行きたい」とは思わないはずです。
お店にとっては、カスハラの被害に遭ったうえに他のお客様まで離反されてしまう可能性がある訳です。
【3分で分かる】カスハラ対策の整備状況チェック
下記のうち1つでも不安がある場合は、法改正対応が遅れている可能性があります。
- 相談窓口は設置済みか
- ガイドラインは明文化されているか
- 従業員研修は実施しているか
貴社のご状況を教えていただければ、課題を整理したうえで、無理なく始められる「最初の一歩」についてアドバイスいたします。
「無料相談」から、お気軽にお問合せいただければ幸いです。
具体的なカスハラ対策のご紹介
カスハラに対しては、相手や内容、BtoBかBtoC、ビジネスモデルなどによって、様々な対策が考えられますが、大きくは、「カスハラを想定した事前の準備」と「実際にカスハラが起きた際の対応」の2つに大別することができます。
上記については、政府広報オンラインでも以下の通り紹介しています。
| カスハラを想定した事前の準備 |
|---|
| 1. カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する 2. カスハラの内容及びあらかじめ定めたカスハラへの対処の内容を労働者に周知する 3. 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する 4. 相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする 5. 特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する |
本項では、政府広報オンラインの内容を上から順番に以下の通り読み替え、解説いたします。
ガイドラインの作成
「方針を明確化」は、カスハラ対応に関する基本方針であるガイドラインの作成と解すことができます。
カスハラ対策と言うとマニュアルを思い浮かべられる方が多いですが、最初からマニュアルを作ろうとしてもほとんどの場合では上手く行きません。
そのため、まずは自社の経営理念や中長期の経営目標に沿って、カスハラ対応の目的や基本的な対応方針を明文化したガイドラインを作成することをお勧めします。
明確なガイドラインがあるからこそ、規程類などの社内ルールや対応手順を定めたマニュアルにも一貫性が生まれます。
従業員への周知
ガイドラインや相談窓口は、単に作っただけでは十分な効果とはなりません。
従業員にしっかりと周知するとともに、必要に応じてガイドラインを店内に掲示するなど、顧客に対しても自社のカスハラ対策を伝えることを検討しましょう。
なお、お客様にカスハラ対策を伝える際は、ガイドラインをそのまま掲示しても良いですが、直感的に分かりやすいように、要点をピックアップしたポスターにするのも一法です。
相談窓口の設置
相談窓口の設置は、カスハラ対策として極めて有効です。
専任の人事部や法務部を持たない中小企業やベンチャー企業の場合は、カスハラのための相談窓口を設置することは難しい場合もありますが、そのような場合は、直属の上司を相談窓口としても良いです。
むしろ、業務内容や従業員の人となりをよく理解している直属の上司の方が相談しやすく、対応しやすい場合もあります。
教育・研修の実施
ガイドラインやマニュアルを作っただけでは、強いプレッシャーのかかるカスハラに対して、適切に対応することは困難です。
ですから当社では、ガイドラインやマニュアルを作るだけでなく、ロープレなどの実践的な教育・研修を行い、従業員に行動レベルで身に付けるようにすることをお勧めしています。
留意点は、一般スタッフだけでなく、そのスタッフから相談を受ける上司に対しても、クレーム・カスハラへの対応やプライバシーへの配慮など、必要な教育・研修を受けさせ、組織としてバックアップをすることです。
そうしなければ、相談を受けても適切に対応できないばかりか、最悪の場合、ストレスやプレッシャーで追い詰められ、休職や退職になってしまうこともありえます。
そうならないように、適切な教育機会を確保し、組織的に対応する仕組みを作りましょう。
マニュアルの整備
全てのカスハラ対策をマニュアル化するのは困難ですが、自社にとって典型的と思われるカスハラについてだけでもマニュアル化しましょう。
ポイントは、自社のビジネスモデルに沿った内容にすることです。
「マニュアル」というと、手順書のようなものを思い浮かべる方が多いですが、それだけに限りません。
例えば、電話対応が多い場合には、そのまま読み上げることができるトークスクリプトが使いやすいですし、対面接客の動作や服装などに関しては短尺の動画マニュアルが効果的です。
また、カスハラかも?と思ったときに、上司などに適切にエスカレーションするためには、チェックシートがあると便利です。
自社のビジネスモデルの特徴を考えながら、どのようなマニュアルが適切かを検討しましょう。
中小企業がつまずきやすいポイント
労働施策総合推進法によるカスハラ対策措置は義務なので、全ての企業が対応する必要があります。
しかし、中小企業やベンチャー企業は一般的に、専任の法務部や人事部を持たず、カスハラ対策のノウハウも不足していることが多いと思います。
そのため、時折、対策本や他社のガイドラインをそのまま使ってよいかと質問を受けることがありますが、当社ではお勧めできません。
自社の実態に合っていなければ、どんなに立派な事を書いたガイドラインも絵に描いた餅でしかありません。
また、従業員にはケアをしても、上司を含めた相談窓口に対するケアが不足した結果、相談窓口が過負荷で機能不全になったり、問題解決に繋がる助言ができず形骸化したり、上司が休職や退職に追い込まれる、というケースもあります。
経験上、中小企業がつまずく場合の共通点は、以下の3つのパターンが大半だと感じます。
- 取組が自社の実態に合っていない
- 外部に丸投げしてしまう(結果、実態と乖離する)
- 自社で丸抱えしてしまう(結果、失敗を予測できない)
外部に丸投げしてしまうことは最悪ですが、自社で丸抱えしてしまうことは次悪です。
特に丸抱えは、「責任感を持って取組んでいる」と誤解されやすいため、なかなか気付かれ難いですが、知識やノウハウを持たないまま邁進しても、失敗の可能性を高めるだけです。
そのため当社では、特に初期段階では専門家の適切な支援を受けて対策を構築し、最短で、自走できる仕組みを作ることを強くお勧めしております。
まとめ|法改正への対応はカスハラ対策ではなく従業員満足向上の機会
今回の法改正により、カスハラ対策はすべての企業にとって避けられない取り組みとなりました。
従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業の信頼性や顧客満足度にも直結する重要なテーマです。
一方で、カスハラはクレームやパワハラとは異なり、加害者が社外の顧客であるため、企業だけで完結できない複雑さがあります。
ガイドラインの作成、相談体制の整備、研修、マニュアル化など、必要な対策は多岐にわたります。
そのため、実務では「自社だけで判断して進める」ことが最も大きなリスクになるケースも少なくありません。
特に次のような場合は、専門家に相談した方が安全で確実です。
- ガイドラインが抽象的で現場が使えない
- 線引きに迷い、判断が属人的になっている
- 対応打ち切りの基準が曖昧で不安
- 相談窓口が機能していない
- 研修が知識止まりで行動に落ちない
これらは、企業規模や業種、顧客層によって最適解が異なるため、テンプレート通りの対応だけではどうしても限界があります。
まずは現状をお聞かせいただければ、貴社のご状況を踏まえて課題を整理し、現場に合った運用フロー構築のため必要な対策をお伝えします。
お問い合わせはこちらからお気軽にご連絡ください。
「まずは話だけ聞きたい」という段階でも問題ありません。


