ひとり広報から広報部門へ 広報PR活動を立上げる6つのポイント

広報PR部門を最初から設けている企業というのは多くはなく、営業活動に難しさを感じたり、知名度に課題を感じて途中で広報PR部門を設けるということもあると思います。

ここでは、新たに広報PR部門を立ち上げる際のポイントを、事例を交えながらご紹介します。

ひとり広報から広報部門へ 広報PR活動を立上げる6つのポイント

「広報」とは?

『広報』や『PR』という言葉は、『広告』と混同されたり、単に外に向けて自組織の商品やサービスをアピールすることだと誤解されていたりする方も少なくありません。そのため、組織によっては実質的に営業部門事務担当になっていたりするケースも何度か目にしたことがあります。
確かに、情報を発信するという点においては当てはまっている点もあります。しかし、部門の立上げを検討しているのであれば、改めて、『広報』を行うことの意味や目的に立ち返って、考えて行くことをお勧めします。

『広報』という言葉は、PR=Public Relations(パブリックリレーションズ)という英語の日本語訳です。これだけでは少し分かり難いと思いますが、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)が紹介している定義「組織とその存在を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント」が、目的としてイメージしやすいと思います。つまり、単に自社商品をアピールしたり、営業事務を集約したり、といった作業を指すのではなく、組織内外と良好な関係を気付くという目的に沿った活動全般を指す言葉です。

『ひとり広報』で始まることが多い

中小企業やベンチャー企業が広報PR活動を始めるとき、最初から社内に十分なノウハウがあって、専任担当者で構成される部門を立ち上げるということは、聞いたことがありません。むしろ、人員もノウハウも無い中で、何らかの必要性に迫られて、営業や総務の誰かが兼務で始める、ということが大半だと思います。
そのため、いわゆる『ひとり広報』から始める場合の留意点を挙げます。

一人広報のポイント①経営層における広報PR活動の責任者を決める

広報PR活動は、会社としての方向性を組織内外に明確に伝えることが求められるため、1担当者に兼務で任せきりになることは、できるだけ避けた方が良いです。そのため、『ひとり広報』で始める場合でも、経営層の中の誰かを直轄の広報担当役員とすることをお勧めします。
これにより、広報PR活動に必要な情報入手をしやすくし、社内外との調整もしやすくなります。

一人広報のポイント②外部研修やコンサルタントによる専門ノウハウを活用する

外部の広報PR配信会社に丸投げせず、自社で広報PRを始めようとする理由は、費用的な面もあるかもしれませんが、自社へのノウハウ蓄積を目指しているからというケースが多いです。しかし、自社で広報PR活動を始めようとする場合には、一つ、大きな注意点があります。それは、外部への丸投げは最悪だけど、自社での丸抱えは次悪である、ということです。

インターネットで調べると膨大な情報がヒットしますが、人員もノウハウも無い中、何が自社に必要でどんなやり方が適しているか、ひとり広報が一人だけで考えながら進めるのは正に暗中模索であり、目的・目標を達成するまでに、多くの回り道をすることになります。そのため当社では、特に初期段階・スタートアップ時の広報PR活動では、コアメンバーを専門の研修機関に参加させたり、外部専門家に自立型の伴走支援を依頼したりすることを強くお勧めしています。

なお、コンサルタントの能力や信頼性にもよりますが、当社では、できるだけコンサルタントの参画をお勧めしています。初期段階の広報PR活動は、研修では学ばないような様々なケースに出会いますし、何より、別見積もりになる場合もありますが、研修と違いコンサルタントは作業そのものを依頼できるケースも多いため、より早く確実に成果に結びつきやすいからです。

広報PR業務の拡大イメージ

広報PR活動は、前述の通り『組織内外と良好な関係を作る』ことが目的であり、店頭での叩き売りができず、成果が出るまでに時間がかかります。そのため、始めたばかりで組織からの理解が十分に得られていない段階では、「売上にどの程度貢献しているのか?」「プレスリリースを送るだけの簡単な仕事だろう」などと言われることもあるかもしれません。しかし、そういった場合には、前述の広報PR管掌役員の協力を仰いだりしながら、丁寧に説明し、協力を広げていくことが大事です。

広報PR活動に、簡単な近道はありません。広報PR活動を始める時には、1から始めて1つずつステップを積み上げていくのが、一番確実で成果につながりやすい方法です。
当社では、大きく3つのステップで拡大して行くことをお勧めしています。

  • ステップ1
    • 社内体制の確立(担当者、管掌役員、コンサルタントなど)
    • 目的や活動方針の共有
  • ステップ2
    • 社内外への適時適切な情報発信
    • 初期段階における成果の創出(メディアへの掲載、認知の拡大、一定のノウハウ)
  • ステップ3
    • 新たな価値の想像
    • 未来の設計

組織の成熟度やかけられるリソースによって異なりますが、上記の各ステップを、最短でも半年づつ以上はかけてじっくり拡大していくのが良いと思います。

ひとり広報 → 広報部門に拡大する際の、立ち上げのポイント

広報PR活動が拡大していくと、ひとり広報では回らなくなるので、広報部門を立ち上げることになります。
部門の立上げ自体は、その他の部門立上げと基本的には同じですが、ここでは、広報PR組織の立上げに絞ったポイントを5点ご紹介します。

広報PR部門の業務範囲や目的を定める

先述のように、広報PR活動は、言葉に含まれる意味が広範囲で、社内でも様々な捉え方があるので、最初の段階で、業務範囲や活動目的を明確にし、組織内で合意しておく必要があります。
それが無ければ、特に組織的な理解度が低い中では、際限なく業務範囲が広がった挙句、真に重要な目的の達成ができなくなります。

【事例紹介】

小児科医院の例

ある小児科専門の病院で、コロナ禍の影響で患者数が激減し、広報部門を立ち上げるということがありました。この場合、目的はシンプルに「患者数を増やす」というところにありました。そのため、派手な広告を打ちたくないという院長先生の意向がありましたが、その意向を踏まえて、市の広報にお知らせを載せたり駅やその近辺など見込み患者の導線に案内を掲示したり、WEBサイト上に病院としての取組みを丁寧に掲載するなど、広告的な活動により比較的短期で患者数が拡大しました。

社会問題を扱う任意団体の例

一方、ある社会問題を扱う任意団体では、その問題に対する一般視聴者の興味の低さや、「社会的に問題のある一部の人だけの話しだ」といった誤解を解消することが急務となっていました。このケースでは、誤解と興味の低さが複雑に絡まっていたため、問題自体について広告的に情報発信をしても、ほとんど取り上げられることはありませんでした。

そのため、広報PR活動としては、まず社会からの誤解を引っくり返すようなインパクトのある情報を発信し、誤解を解消した後、その問題の本質や困っている人・苦しんでいる人の声を届けることで、社会問題としての興味関心を拡大するとして、大きく2つのステップで活動計画を立てました。その結果、かなりの手間はかかりましたが、メディア・報道機関への露出も格段に増えて、政府の審議会に挙げられるなど、検討が大きく前進しました。

この2つの例のように、テーマや状況によって、広報PRとしての活動範囲や目的は大きくことなり、ゴールは同じで『メディア・報道への露出』だったとしても、そこに辿り着くまでのルートは大きくことなります。
実際の活動を始める前に、自社にとって今どのような広報活動が求められているか(活動範囲)、何を目指して行くのか(目的)、といったことを経営も交えてしっかり検討し合意しておくことが重要です。

「テーマ」「ターゲット層」と「チャネル」を明確にする

小児科であれば、メインターゲットは子供を病院に連れてくる人、主に母親になります。年齢層は地域によっても変わりますが、20~35歳くらいでしょうか。また病院の場合は、わざわざ遠くから足を運ぶような大病院でない限りは広報を届けるべきエリアも生活圏に限られます。そのためチャネルは、WEBサイト、駅構内看板、市の広報誌、スーパーのお知らせコーナーなどが考えられます。生活圏の母親層に確実に情報を届けることが重要なので、TVや雑誌のような広範囲なチャネルは向きません。

一方、社会問題を扱う任意団体では、誤解が半ば常識として浸透しているからこそ、具体的な情報に基づいて「実は真逆なんだよ」という報道ができれば、ニュースバリューの高い記事になると思い、エンドユーザーではなくマスコミ・報道機関、その中でも手渡しができてインパクトの強い新聞各紙をターゲットにしました。この時のチャネルは、記者クラブへのプレスリリース投げ込みの他、連絡先の分かる記者にはリリースを直接渡したうえで、Q&A付きの記者会見を開催しました。常識を引っくり返すためには、WEBサイトや駅看板などに広告を打つだけでは見向きもされないと考え、しっかりと説明する場を作り記者に集まってもらったことで、大手5紙を含む複数の紙面を飾る事ができました。

このように、「テーマ」「ターゲット層」「チャネル」は密接に連携しているので、事前に、それらの要素を明確にしておくことが重要です。

目的達成に効果的な手法を吟味する

広報にはプレスリリース、広報誌、WEBサイト、SNS、メディア出演、イベント開催など様々な手法があり、手法によって得られる効果が異なります。

例えば、前述の小児科が広報では、当初、WEBサイトでの情報発信に注力していましたが、これはあまり効果に繋がりませんでした。
WEBサイトによる集客に力を入れる場合、検索連動型広告や検索結果の上位に表示するSEO対策を行うことが多いです。病院は、「地域名 小児科」のような検索キーワードで探す人が多いため、上位に表示されると来院に繋がるケースが多いです。ただこの事例の場合は、コロナ禍の真最中だったため感染リスクを減らしたいという母親の気持ちや、新型コロナ対策でそもそも病気になる子供が減ったということが患者数減少の要因としてあったため、その病院に限らず、小児科のホームページを探そうとする人自体が減っていたのが原因でした。

このケースでは、利用が避けられない駅や生活圏内の看板、自宅まで送られて来る市の広報誌、生活必需品を買うスーパーのお知らせコーナーでの案内などで、徐々に患者が拡大しました。しかし、オンラインを強化するなら、WEBサイトよりもSNSに注力すべきでした。SNSを利用する人は、普段からSNSを見る機会というのが多く、SNSの場合はサジェストされるので自然と発信内容が目に入る人が生じるからです。また、ターゲット層である子供を持つ母親世代はSNSの利用率が高いと言われています。コロナ禍においても病院に行く重要性や、病院に関するアピールポイントをSNSで発信することは、目的検索されなければ見られることの無いWEBサイトに力を入れるよりは効果的だった可能性があります。そのうえで、SNSからWEBサイトにはリンクを張れば、WEBサイトに誘導することも可能です。

WEBサイトに力を入れるのであれば、SNSでは伝えきれないような情報、例えば、症例のコラムを多く掲載することで、以降はWEBサイトにも興味を持ってもらえるようになるかもしれません。子どもがかかりやすい病気やよくある症状を挙げ、それがどういう病気の可能性があるのか、どういった対応をすれば良いかを丁寧に記載することで、子供を持つ母親はまた見に来てくれるようになります。

発信内容のチェック体制を構築する

発信内容を客観的な視点でチェックできる人を設けるようにしましょう。
広報立ち上げ時にはひとりで推進する体制になりがちですが、その人の独断で発信内容を決める形にしてしまうと、読みづらさに気付かないままになってしまったり、場合によっては発信してはまずい情報に気付かないままになってしまったり、といったリスクもります。

ポイントは、単に人を決めるだけでなく、予め年間の活動計画を立て、いつ、どのメディアに対して、どんなテーマで情報発信するか決めておくことです。できれば、事業活動に応じて柔軟に変更することはあると思いますが、例えば新製品や新サービスのリリース計画に合わせた広報PRの活動計画を立て、どのテーマは誰が執筆し、いつまでに一次原稿を完成させ、写真はどうするのかといった、アクションレベルでの具体的な予定を立てておくと良いです。

お勧めなのは、情報発信カレンダー、作成WBS(分解した作業の一覧表)、発信内容チェックリストの3点を作っておくことです。特に後者の2つは、最初は作る手間もかかりますし、作業の過不足が生じたりで大変だと思いますが、一度作れば次にも使えますし、何度か見直しをしているうちに精度が高まって行きます。担当が替わっても使えます。こういった活動の一つ一つがノウハウの蓄積となるので、面倒だとしてもぜひ作成することを強くお勧めいたします。

KPTのフレームワークで振り返りをする

広報の効果測定は難しく、例えば新商品の広報の場合、販売数が増えた理由が広報活動なのかシンプルに商品が良かったからなのか、それぞれ何パーセントづつ貢献しているのかを測定するのは、極めて困難です。小児科の病院の事例で考えると、目的は患者数を増やすということにあるので、患者数の増加数というのは1つの指標にはもちろんなりますが、患者数の増減と広報の結果との関係性を示すこともまた難しい話となってしまいます。

しかし、定量的な効果測定は困難であっても、定性的な効果把握は可能であり、それをしっかり振り返って組織内に共有することは、今後どのような広報戦略を立て、広報組織としてどのようにそれを実現させていくのかを考えるうえで極めて重要です。

振り返りの際は、いわゆるKPTをお勧めします。KPTとはビジネスのフレームワークほ一つで、「Keep(成果が出ていて継続すること)」「Problem(解決すべき課題)」を洗い出し分析した上で、具体的な改善策としての「Try(次に取り組むこと)」を検討するという流れで進めます。毎回、KPTのフレームワークで振り返りを行うことで、今回の取組み単独でなく、前回の取組みへの振り返りで導出したKeepは継続できていたか、Problemは止められていたか、Tryは実施できていたか、など具体的に検討できるので、ノウハウが蓄積して行きます。自社で広報PR活動を内製するのであれば、ぜひ、KPTのフレームワークで振り返りすることをお勧めします。

経営者の意向を踏まえて活動計画を見直す

広報PR部門を立ち上げてからある程度時間が経過すると、広報PR活動にも慣れ、一部の業務がルーティン化し一定のリズムで業務ができるようになります。この「リズムが出来始めたタイミング」で、今一度、経営者の経営方針をヒアリングすることをお勧めします。

ひとり広報フェーズや広報PR部門立ち上げフェーズでは、正解の無い中で少しずつ形にしていくため、担当者の進めやすい方向に流れてしまい、非効率や成果に結び付き難いやり方が定着したり、いつの間にか経営方針からずれた広報PR活動となってしまったりということがあります。そうなると、広報PRだけが独り歩きしてしまい、経営方針と連動しない現象が起きてしまいかねません。

そうならないために、例えば、広報PR部門の立上げから3か月単位などで経営層としっかり話し合う場を予め作っておくと良いでしょう。そうすることで、広報の内容と経営方針に大きなずれが無いかを確認することができるので、経営と連動した広報活動を展開することができます。また、正解の無い中で進めて来た担当者の困りごとや課題意識、やってみて初めて分かった気付きを早期にキャッチアップできるので、より迅速に成果に繋がる可能性が高まります。

まとめ

今回は、広報事業の新規立ち上げの際に押さえるべきポイントをご紹介しました。

広報PRの仕事は非常に魅力的ですが、WEBサイト、SNS、プレスリリース、イベント、その他様々な活動が求められ、立ち上げの段階では何から始めたら良いかイメージしにくいと思います。そういった場合は、具体的なアクションを検討するよりも、自社の経営方針を踏まえたうえで、本記事で紹介したように業務範囲や目的を明確にするところから始め、1つづつ進めて行くのが良いと思います。

客観的な意見を聞きながら自社に合った広報PRプランを立てたい、専門家と一緒に早期に成果を出したい、といった方は、お気軽にご相談下さい。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。