社内広報/採用・定着を成功させる6つのステップ

「従業員の想いが統一されておらず、定着率が低い」
「広報の必要性はわかるけど、何からはじめていいのかわからない…」
そんなお悩みを抱えていませんか?

特に中小企業やスタートアップ企業では、広報にまで手を伸ばせていないことが多くあります。しかし、中小企業が社内広報を取り入れることで、採用や定着に役立てることができるのです。

今回は、社内広報の重要性や成功までのステップ、施策例を紹介します。

社内広報/採用・定着を成功させる6つのステップ

社内広報とは

広報とは「Public Relations(パブリックリレーションズ)」の訳語で、文字通り広く報じることを意味します。パブリックリレーションズとは、「組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団)との望ましい関係を創り出すための考え方および行動のあり方」と定義されています。
引用:公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会「パブリックリレーションズとは

今回焦点を当てる社内広報は、企業が従業員に対して必要な情報、理念、方向性、戦略、顧客、商品やサービスその他最新情報を伝え、コミットメントや一体感を高めることが目的です。
組織を大きくするためには社外広報が重要だと考えられがちです。しかし、社内のまとまりがなければ定着率が下がり、採用活動にも影響が出ます。
結果的に、思った通りの成果が出ないこともあるでしょう。

採用・定着を成功させるために社内広報が重要な3つの理由

社内広報は採用・定着を成功させるために重要な役割を担っています。特に中小企業や地方企業で力を入れるとさまざまなメリットがあります。
重要な理由は以下の通りです。

  • 従業員の働きやすさが向上する
  • 従業員の能力向上につながる
  • 従業員の満足度が向上し、定着率・採用率が向上する

従業員の働きやすさが向上する

普段、従業員同士で会話すると業務内容や他愛のない話が多くなるのが自然だと思います。社長や管理職と話しをしたとしても、会社の考え方や目指す方向についてまで話す機会はめったにないでしょう。
しかし、社内広報をしっかり実施することは、社長の考えや会社の目指す方向のほか、理念、課題、従業員に求めることなどを伝えることに繋がります。これらの情報が正しく伝われば、それぞれのレイヤーにおける要求水準や判断基準、目指すべき方向性の明確化にも繋がります。そして、目指すべき方向性が明確になれば、そのために何が必要なのか、どんなアクションが必要なのかと行動レベルまで繋がって行きます。
また、メッセージを明確に伝えることで、従業員からのフィードバックも来るようになりますし、行動をモニタリングすることによりメッセージの成否を確認することにも繋がります。

もちろん、メッセージを伝えるだけで全てが上手く行くというほど簡単な話しでは無く、後述のように会社の様々な制度と連携させていくことが必要です。
しかし、そのための第一歩は社内広報により理念や方向性を明確に伝え、従業員が迷いなく働けるように道標を示してあげることが重要です。

従業員の能力向上につながる

社内広報を行えば、会社の目指す方向や理念が伝わります。従業員が共通の意識をもつことができるため、事業の方向性が明確化し、業務にスムーズに取り組めるようになります。
このように進むべき従業員の進むべき方向性を明確化することは、言い方を変えれば成果の達成確率の向上であり、経営学で言うところの内発的動機づけに繋がります。

内発的動機付けとは、地位や報酬など外から与えられる外発的動機付けに対し、仕事で「能力を発揮できている」「自分自身で目的を定め、計画を立て、実行している」といった感覚があるときに、自分の内側から感じる動機付けであり、簡単に言えば「やる気」です。
もちろん、やる気が出ただけで能力の向上につながる訳ではありません。短期的には頑張るだけで成果になるかもしれませんが、その成果が続かなければ、内発的動機付けはむしろ低下します。内発的動機付けを継続させるためには、成果を継続させるために学びや成長の機会を与え続け、成長度合いに応じストレッチした期待値が必要です。
しかし、そういったストレッチの効いた目標を設定し、従業員に継続的な能力の向上を求めるのであれば、スタート地点でやる気を高めてもらうことが不可欠です。金銭的な報酬も重要ですが、「金を払っているんだからその分やれよ」ということでは、もっと条件の良い会社があればすぐに転職されてしまい、会社の業績への継続的な貢献には繋がりません。

従業員の能力を高める、つまりストレッチの効いた目標設定と能力開発を求めるためには、その入り口で、進む方向性を明確化する社内広報が不可欠です。

従業員の満足度が向上し、定着率・採用率が向上する

会社の考え方や目指す方向性が明確に伝わる社内広報を実施すれば、採用したい人物像も明確となるため、求める人材が集まりやすくなります。
採用は後述しますので、ここでは定着についてお伝えします。

社内広報により目指す方向性が明確にし、それを継続的に伝えることの目的は、理念の浸透だけで無く、それを反映した望ましい社内文化や行動指針を作っていくことです。そのような文化や指針は、それに共感する従業員の定着率向上に繋がります。

留意点としては、今までは何となく続けてくれていた従業員が、明確になった文化や指針に合わず退職して行くケースがある、ということです。しかし、仮にそういった方を無理やり引き留めたとしても、会社の理念や方向性に対し共感できないまま居続けてもらうことは、長期的に見れば会社にとっても本人にとっても不幸ではないでしょうか。そのうえで、“この人は絶対に残って欲しい”といった人がいるのであれば、社内広報のメンバーに入ってもらう、考え方や目指す方向性を定めて行くプロジェクトに参画してもらう、初期段階から継続的に意見交換し本人の納得性を高める、といった対応をして行くことが有効です。

社内広報を成功させるステップ

社内広報には大きなメリットがあることを理解いただけたのではないでしょうか。しかし、社内広報を成功させるためのステップがわからなければ、実施に至りません。

社内広報を成功させるためには、以下6つのステップを踏む必要があります。

  1. 現状を把握する
  2. 経営理念を明確化させる
  3. 経営理念をしっかりと落とし込む
  4. 社内制度にも反映させる
  5. 募集の際は提供できる情報を明示する
  6. 結果を評価する

順にみていきましょう。

現状を把握する

まず、会社への思いや強み、活躍する人材の特性などを把握し、分析する必要があります。現状の把握・分析ができなければ、効果的な社内広報の実施は困難です。
現状把握の時点では、多くの場合で「想いが明確になっていない」「従業員に目指す方向が伝わっていない」などの課題が出てくるかもしれません。しかし、そういった課題は裏返すと進むべき方向性になることが多く、ネガティブになる必要はありません。

経営理念を明確化させる

現状の把握・分析をしたら、次は、「創業のきっかけ・想い」「提供したい価値」「将来の在るべき姿」「達成したい社会課題」「どんな組織にしたいのか」など、自分たちの内側にある想いや希望を出していきます。そして、現状の把握・分析を踏まえ、想いや希望を具体的な理念として形にして行きます。

経営理念は、社長や経営者、管理職のみで作成するのではなく、従業員も経営理念づくりに参加させて進めることが大切です。従業員を巻き込んで作成することにより、「自分ごと」として捉えられます。
しかし、最後の決断は社長が行いましょう。社長の想い、価値観、考え方などは、会社のアイデンティティの根幹です。従業員としっかりコミュニケーションを取って意見を反映させることは重要ですし、そうすることでより良いものになることも多いですが、従業員一人一人が持つ様々な想いを束ね、その責任を背負えるのは、社長以外にありえません。
そして、最終的にできた経営理念がある従業員の意見と違っていたとしても、その意見を受け止めて検討したことをしっかり伝えて行くことで、「自分ごと」と捉えてもらえるように心がけます。

経営理念をしっかりと落とし込む

経営理念の最終決定は社長が行うものの、作成会議に参加した従業員はエンゲージメントが高まることでしょう。しかし、完成したものをしっかり落とし込まなければ、経営理念を理解しないまま業務に取り組み、経営理念が会社の成長に繋がらない可能性が高まってしまいます。

そのため、社長や経営者からの説明会や部署・課でのディスカッション、理念を記載したカードの発行などのアクションを起こし、経営理念をしっかりと落とし込むことが大切です。後述する方法で説明会やディスカッションの実施をお知らせして、多くの従業員が参加できるようにしましょう。

社内制度にも反映させる

経営理念は単に明確化するだけでなく、それに基づいた教育や評価、各種社内制度などを作ることも大切です。

例えば、従業員を大切にすることを理念にするのであれば、休暇制度を整備するという方法があります。リフレッシュ休暇やアニバーサリー休暇、出産・育児休暇、介護休暇などの様々な制度を、業務の繁閑に応じて取りやすいように奨励する社内広報したり、制度の意味や取得している人の感謝の声を社内広報したりすることで、「従業員を大切にする」という理念が行動レベルで浸透して行きます。

また、会社の想いや考え方を活かし、経営理念に沿った取り組みで成果を上げた従業員には表彰する、という制度もあります。こういった表彰制度を導入することで、会社の側でも従業員の側でも経営理念の意味を真剣に考え、どうやってそれを体現し、それを成果に結実させるのか常に考えるようになります。

募集の際は提供できる情報を明示する

社内制度で従業員の働きやすさを実現した後は、採用面でも想いを伝えることが大切です。
経営理念はもちろん、業界での立ち位置、求める人物像、仕事内容、仕事の社会的意義など多くの情報を明示します。また、平均年齢や男女比、年間休日、平均残業時間、賞与の実績、年収モデル、定着率、産休・育休後の復職率、社内の雰囲気、従業員の満足度…、自社で提供できる情報を提供することもいいでしょう。

さまざまな情報を明示することで、会社への理解が深まることはもちろん、入社後のミスマッチを減らすことも可能になります。初期離脱が減少すれば人員計画も立てやすくなり、採用費の削減や育成への注力などの好影響があります。

結果を評価する

経営理念を決定し、社内制度や採用活動の実施後には結果を評価します。広報戦略では「PDCAサイクル」が大切です。そのため、実施するだけで終わるのではなく、結果の分析や課題の発見を行い、改善方法や対策を施すことが社内広報実施の基本となります。

社内広報の具体例

以下では、社内広報の具体的な施策例を見て行きます。

ビジネスチャット、社内SNS、イントラネットの運営

ChatworkやLINEWORKS、Slackなどの掲示板機能や全体チャット機能を利用すれば、経営からのメッセージや新商材・サービスの情報を、適時適切かつ簡単に社内に発信できます。また、広報担当者はもちろん、他部署の従業員でも投稿できますし、メールのように堅苦しいあいさつ文などが求められないことが多いため、コミュニケーションが活発になることも期待できます。

特にビジネスチャットについては、権限管理をしっかりやっていくとなるとそれなりの工数がかかりますが、社内導入だけであれば比較的簡単ですし、サポートや解説動画も充実しているし業務の効率化にも繋がるので、最初に導入するツールとしてはお勧めです。

社内報やブログの作成

社内報は、WEBや紙媒体で経営理念やビジョン、新商材・サービスの情報などを共有するために使われます。また、部署紹介や社員紹介を行うことで、違う部署への理解を深め、部門を超えた柔軟なコミュニケーションにも繋がります。

紙媒体は、深掘りした情報を発信することに向いています。たとえば、事業の流れや社長・従業員の想いを伝えるといいでしょう。パソコンを使わない従業員でもいつでもどこでも見ることができることに加え、配布後にすぐに読んでもらえるメリットがあります。家族に見せることで、「お父さんの仕事はこんな風に社会に役立っているんだ」「うちの娘はこんな風に会社に大切にしてもらっているんだ」といったメッセージが伝われば、愛社意識の向上にも繋がります。
WEB媒体は、タイムリーな話題を発信することに向いています。キーワードを検索すれば読みたい記事を読めたり、閲覧数・閲覧従業員などのデータを集め効果測定できたり、といったメリットがあります。

最近は、YouTubeやoffice365など、動画を共有するだけなら専門知識が無くても対応できるツールも増えています。WEB媒体では、そういったツールを使うことで、例えば社長からのメッセージ、経営計画の発表、新人事説明の説明、といった重要なイベントの動画を組み込むことで、より充実し説得力のある社内報になります。

社内向けイベントの開催

イベントだからと言って、「●周年記念講演会」といった大げさなものである必要はありません。従業員同士のランチ会やバーベキュー、お花見、社員旅行などといったイベントでも十分です。

ポイントは、どのようなイベントであっても、社内広報として実施するのであれば、その目的を明確にすることです。例えば、経営理念や方向性の浸透度合い、中期経営計画従業員の理解度、従業員のモチベーションをアップ、採用数や定着率などといった目的が考えられます。
もちろん、お花見の目的を経営理念の浸透とするのは、なかなか難しいと思います。しかし、コミュニケーションの活性化やそれによる生産性の向上が目的なら、部署横断型チームや新旧混合型チームで企画させたり、運営を通じて得た業務に活かせそうな気付きを共有してもらったり、といった取り組みが考えられます。特に、新旧混合チームで新人中心のイベントを企画・運営することは、まだ仕事を覚えて無い新人にも活躍の場を与え、社内各部署とのコミュニケーションの端緒となるため、定着率の向上にも繋がります。

まとめ

今回は社内広報の重要性や成功までのプロセス、施策例などを解説しました。
特に中小企業やスタートアップ企業では、社内広報にまで時間を割くことが難しいかもしれません。しかし、積極的に取り入れれば、必要人材の確保、有能な人材の定着、意思決定基準の明確化、経営理念の浸透と望ましい社内文化の醸成など、重要な効果が返って来ます。

もし自社だけでは手が回らない、具体的に何から始めたら良いか分からない、といった場合には、外部の専門家をパートナーとして進めて行くことがお勧めです。
弊社では、クライアントそれぞれのご状況に応じたオーダーメイド型社内広報のコンサルティングを行っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。